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リトルガール・イン・マッシュルームワールド

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140字小説として綴られた「キノコの世界」全14話を「リトルガール・イン・マッシュルームワールド」として纏めました。 フルカラーの挿絵と軽妙な語り口が魅力の物語となっています。
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記事一覧

キノコの世界

キノコの世界



 旅行鞄を抱えた少女が先を急ぐ。

 一人での初めての遠出に少女の胸が高鳴る。
 初めての土地。初めての景色。初めて見るキノコ。

「ーー大きなキノコ」

 世間知らずな少女は、ありえないサイズのキノコも不思議に思うことはなかった。

 そこはまるで別世界のように新しい発見に満ちていた。ーー別の世界だった。

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140字小説です。

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キノコの世界2

キノコの世界2



 強い風に帽子を押さえる。

 そこから見える景色は、少女の住んでいた国とは全く違っていた。

「ーーキノコしかない」

 色とりどりのキノコが森のように世界を覆っていた。
 時折もくもくと煙をあげるキノコも見える。

 少女はゴクリと生唾を飲み込むと、ボソリと口を開く。

「ここが、ジャパン・・・・・・‼︎」

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キノコの世界3

キノコの世界3

 

 歩き疲れた少女は、手頃なキノコに腰かける。
 足元には網目状のキノコが生えていた。

「ーー予約したホテルはどこにあるのかしら」

 少女は事前に調べておいたホテルまでの経路を確認するが、地形が全く違っていた。

 どうやら迷ってしまったようだった。

「これが異国の洗礼というやつなのね」

 たぶん違った。

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キノコの世界4

キノコの世界4



 ポツポツと降り出した雨はいつしか滝のような土砂降りに変わった。

 真っ白なカサを広げたキノコの下で雨宿りをする少女は、ボーッとキノコの裏側を見つめていた。

 規則正しい雨の音に紛れてグーと奇妙な音が聞こえる。
 少女はここまで何も口にしていないことに気づく。

「このキノコ、食べられるかしら?」

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キノコの世界5

キノコの世界5



 手頃なキノコを傘がわりに、少女は食料を求めて歩きだす。

 周囲には見るからに毒々しいキノコもあれば、一見地味な見た目のものもあった。

 ふと丸いキノコが目に留まる。

「じーっ」

 それは慣れ親しんだキノコに似ていた。

「これ、見たことあるわ! シャンピニオンね!」

 少女は未知のキノコに手を伸ばした。

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キノコの世界6

キノコの世界6



 雨上がりの澄んだ空気の中、少女はキノコを食べながら歩く。

「モグモグーー?」

 卵の殻のようなものから生えたキノコの影に何か動くものが見えた。

「動物かしら?」

 ジッと目をこらすと、どうやらそれは二足歩行する小さな生物だった。

「ーーお肉食べたいわね」

 生物は少女に気付くと一目散に逃げ出した。

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キノコの世界7

キノコの世界7



少女は重い鞄を抱えて走った。

「ちょっとまって!」

 逃げる背中を追うが、見失ってしまった。

 息を吐く少女の耳に話し声のようなものが聞こえて来る。
 少女は目が冴えるような青いキノコの影から声の方向をそっと様子を伺う。

 そこには色違いの生物の集団がいた。

 少女は思わず唾を飲み込む。

「増えてる!」

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キノコの世界8

キノコの世界8



「巨人だー‼︎」

 小さな生物は、少女に気付くとガクガクと震え出す。

「ーーお肉が、喋った⁉︎」

 少女は今更ながらその生物がこの世界の住人である可能性に思い至る。

 なおも震える生物の警戒を解こうと少女は鞄からキノコを手渡す。

「よかったら、食べる?」

 生物は恐る恐る受けとる。

「あなたが神か?」

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キノコの世界9

キノコの世界9



「このあたりにホテルはないかしら?」

 渡したキノコに小躍りしていたお肉ーーもとい小人達は、少女の問いかけに応える。

「うちくる?」

 小人達は大きなキノコに少女を座らせる。

「キノコでひとっとび!」

 ひとっとび? 少女は嫌な予感がした。

 小人の一人が小さなキノコを押す。

 少女はキノコと空へ飛んだ。

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キノコの世界10

キノコの世界10



「おそらあおい」

 自由落下の最中にもかかわらず少女はそれまでの人生を振り返る余裕すらあった。ーー走馬灯だった。

「これ着地どうするの⁉︎」

 はたして声は届いたのか、小人の一人が感情の読めない笑顔を見せる。

「神様なら大丈夫ーーたぶん?」

 神様なら?ーーそれだめじゃない?

 少女は意識を失った。

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キノコの世界11

キノコの世界11



 目を覚ますと、自分がとてつもなく大きな芋虫の目の前にいることに気づいた。

 小人が何か不思議な力でも使ったのか、キノコ、あるいは目の前の芋虫がクッションになったのか。

 上空から落下したはずの少女の身体には傷ひとつなかった。

「頭からキノコ生えてる・・・・・・⁉︎」

 遅ればせながら気づいた。

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キノコの世界12

キノコの世界12



「ここがあなた達のお家なの?」

 質問に小人はボソッと応える。

「飛びすぎ?」

 小人はキノコの生えた同胞を横目に移動する。

 辿り着いた場所には、キノコをくりぬいたような住居があった。

「憧れのマイホーム!」

 キラキラした笑顔の小人だが、少女には小さすぎた。

「素敵なお家ね!」

 少女は空気を読んだ。

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キノコの世界13

キノコの世界13



「そろそろ行くわ」

 少女の言葉に小人は寂しげな表情を見せた。

 小人は少女の手を引きとあるキノコの前へ連れていく。
 そこでは蛹がちょうど羽化し、巨大な蝶が翅を広げていた。

「綺麗ね」

 思わずこぼれた少女の言葉に。

「乗ってく?」

 小人は蝶を示す。

「やめておくわ」

 蝶は少女を掴むと空へ舞い上がった。

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キノコの世界14

キノコの世界14



 燃えるような夕焼けの中、ひらひらと舞う蝶の翅が気流を掴む。

 目を細める少女の頬を暖かい風が撫ぜる。

「これ、何処へ向かってるのかしら?」

 既に、森のように広がっていたキノコ達は見えなくなっていた。

「さようなら・・・・・・ジャパン」

 勘違いしたまま、少女は思い出を胸に新たな世界へ旅立った。

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 140字小説です。

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