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編み目をたぐる日

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水野さんとのマガジン「編む*」と、その裏面
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#詩

【夜ノ記述⑦】
僕は自分の探していたものに、夜という名前をつけてやっただけ

【夜ノ記述⑥】
彼との間にあるのは途方もない闇などではなく夜だ。

【夜ノ記述⑤】
僕に言わせれば珈琲なんて代表的な夜だね
焙煎は豆の中に夜を焼き付けているのさ
明日は赤星を釜に放り込むよ

【夜ノ記述④】

「一月の蜜蜂が食べるのは月」
A介がたっぷりの牛乳をあたためている。近くでは池の水が黒々と揺らぎ、底を注意深く隠している。くぉんくぉんと呼吸の音が響いているが、A介にはそれが普通なので気にもとめない。
ふわっと、おそろしく急に沸き上がった牛乳を火からおろす。半透明のコップですくい、彼はそれを口にふくむと、ぷーっと吹き出した。
小さな星雲が生まれて、消えた。

【夜ノ記述③】夜の目覚め。眠りの目覚め。

【夜ノ記述②】
夜気を胸に吸い込んで、身体の内側で夜を感じてみる。
するすると肩から夜が抜けていく。
その時に感じた、彼等の呼吸を撮りました。

【夜ノ記述①】
午前0時ちょうどに、春に逝った友人へ電話をかけた。
回線が繋がって一度コールした。
彼は、途方もない場所に行ってしまった訳ではないらしい。

日常を炎が這って、残された消し炭を手に取る。足跡をたどるように、影を踏むように、指先にある黒黒としたそれを紙に置いていくと、果ては顔になる。

編む* 深緑と灰色の波打ち際で、

照明の上に営巣した燕の気持ちは理解できるでしょう?雛は柔らかくまだらでまだまだいびつな羽毛に包まれている。親を呼ぶ声が光と共に降ってくる。見上げた僕は目を細めずにはいられない。朝も、昼も、夜も。皆、眠りについたのだろうか、気がつけばやはり一人だ。腕まくりをして木炭を持ち、目の前の陰影を紙片に移し置いたり、もしくは白鍵と黒鍵の合間を行き来しながら過ごしている。内緒話をするように小さな声で祈る。人差し

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編む* 季節を進めたなら果てまで観ててね

平成最後の朝よ
暖かい雨が季節をまたひとつ先に進めるのね
家から少し離れた畑のことを考えているのでしょう
柔らかく耕した土に種を播いたから
たくさんの命の始まりを考えているのよ
彼らは乾燥した眠りから覚める必要なんかなかったかもしれないのに
私が彼らの季節を進めてしまったのね

芽吹きに必要な熱を欲しがるでしょう
その間、あなたは待てるのかしらね
自分の始めたことなのだから
見つめ続けることが責任

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あれは春だったのね

あれは春だったのね

僕たちひとりひとりが発する音はとてもシンプルなものであって良くて、けれどもそれらの連なりが、時折奇跡のように、穏やかで美しい曲を奏でることがある。うすうす、そして同時に確信もしていた。僕たちの間にはいつも一つの曲があったから、あとは連弾をするように手をとって、互いの調子を馴染ませるだけで良かった。なんて懐かしい時間だったのだろうか。なんて優しく、美しい時間だったのだろうか。僕らの出会いは水の反映や

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じどうひっきにっき0319

とっぷりとしたミモザに潜ろうと
二、三度深呼吸をしてから息を止めて
鼻をつまんで背から飛び込む
揺らめくたくさんの小さな太陽が
すこしだけ肌に触れると
わたしはミツバチのように
体に纏っていた夜屑が砕けて
ぱらぱらと地面に溜まっていくのを
ぼんやりと眺めていました
すこしくるしくなったので息継ぎをしようともがいていると
溜まった夜が染み込んで
どうにもこうにも眠くなってしまいます
そうしてもうどう

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編む* 春風にあらわにされたあとに、

白木蓮は真っ青な空にとけずにいたけれど
今朝になったら手放すように
ばらばらばらと
厚い花びらを脱ぎました
地面はすこし温かい白色となり
すっかり輝いています

わたしが心の弱さと嘆く
それらの不格好に手放した言葉たちを
あなたは美しいと掬い上げてくれますね
それはまるで春風に振り落とされ
つもり溜まった花弁に両手をひたして
ゆっくり掴み抱きしめるように

あらわになった姿で
もう春を迎える
これ

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