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アメリカの熱い日々|エネルギーが渦巻く抗議活動の理由とは?

昨日、世界中で一気に発信された「Black Out Tuesday 」。アメリカで起きている人種差別に抗議するため、アメリカの音楽業界が今後1週間、新作のリリースを止め、アメリカ音楽業界を根底から支え続けているブラックコミュニティを支えよう、と呼びかけました。

また「Black Lives Matter」という抗議活動は短距離ではなく長距離を走りきらないと問題解決はならない、とも音楽業界は呼びかけいて「この期間に人種差別について学ぼう」と、多くの人がsnsで呼びかけています。

#BlackOutTuesday のハッシュタグと開くと、画像を真っ黒にしたり、人種差別に反対する想いを綴った投稿あり、一つ一つはちょっとした言葉なのに、それが画面全体を覆いつくすと、とても力強いメッセージになっていてとても興味深く感じました。

そして日本でも、抗議活動についての報道が増えてきました。

今回の抗議活動がここまで大きくなったのは、既にアメリカで10万人の命を奪ったコロナウィルス、その死者の内、多くの人が黒人だったこと、そしてコロナにより失業した人の割合が極端に黒人に偏っていて、その失業率はこの100年で最も高くなった背景があります。

日本メディアが報じるように、これらは間違いなく今回の抗議活動を大きくしている原因ではあると思うのですが、私はそれだけではない、と思うのです。

ブラックコミュニティーはコロナによる恐怖と、人種差別による恐怖の2種類の恐怖を同時に感じているのではないでしょうか。

恐れ、不安、怒り、絶望感

黒人がその全てを2倍感じなければならない状況が、今回の抗議活動に繋がっていると、私は思います。

コロナ感染対策による人種差別については、こちらに書いています。

警察官によって殺害されたジョージ・フロイドの最後の言葉「I can’t breathe 」「息ができない」と書いた大きなサインを手にした多くのプロテスターたちが、今回の大規模な抗議活動を全米各地で開始するまでに、その活動に繋がるドミノのピースが、ゆっくり確実にアメリカ全土で倒れていました。

昨年10月テキサス州。白人女性警官アンバー・ガイジャーが自分の部屋と間違えて、黒人男性の部屋に入り、男性を不審者と間違えて撃ち殺す、事件が起こりました。

この時、加害者ガイジャーが「白人だ」という理由で無罪になりかけ、プロテスター達は抗議活動をしましたが、信じられないほど軽い有罪判決が下りました。

そして今年2月ジョージア州。ランニングをしていた丸腰の黒人男性アマド・オーブリーが何者かに射殺されます。ところが、地元警察は被害者が「黒人だ」という理由で捜査を始めず、事件は闇に葬りさられそうになります。この時も、プロテスター達は抗議活動をしましたが、白人の親子を逮捕後、被害者オーブリーが撃ち殺される理由が一切なかったにも関わらず、警官は直ぐに謝罪しませんでした。

Bibliography :Ahmaud Arberyの最後の瞬間を辿る。動画と911の通報が示すもの。

今年2月というと、既に世界中でコロナ感染がアウトブレイクしていて、世界中の人がコロナ感染の恐怖や不安を感じる中、オーブリーの事件は過去に起きた様々な黒人差別による警察官の暴力をより強烈に蘇らせるトリガーとなりました。そして、ブラックコミュニティーにとっては、人種差別によって警察官に殺害されたり、まともに取り合ってもらえない恐怖や不安も、再びより強く感じなくてはならない緊張感が漂い始めました。

この時、ニューヨーク州は世界で最も感染者が日々増えていくホットスポットになっていました。

そしてジョージ・フロイド殺害事件の直前のニューヨーク州で、またドミノのピースが倒れます。

犬をリードに繋ぐことがルールのセントラル・パークで黒人男性がバードウォッチングをしていました。彼はたまたま通りかかった白人女性エイミー・クーパーに犬をリードに繋ぐように注意。するとクーパーは怒り狂い「アフリカ系アメリカ人の男に命を狙われている!」と通報しました。黒人男性は無言の抵抗で、自身の携帯に全てを記録していたので、逮捕されずに済みました。

事件後クーパーは「自分は人種差別者ではない」と語っていますが、彼女は仕事を失いました。

そして、クーパーが怒り狂って通報する動画は全米に拡散され、コロナで亡くなる黒人がピークに達する”多様化”をうたうニューヨーク州、しかもマンハッタンのど真ん中で「Karen」(自分が白人だ、という理由で自分の思い通りにするために過度な要求をする白人女性をカレン、と呼びます)が現れたことに、ブラックコミュニティーの不安や怒りは頂点に。クーパーに対して白人や有色人種からも抗議の声が上がる中、ジョージ・フロイドが警察官によって殺害されました。ついに、ドミノの最後のピースが倒れ、ブラックコミュニティーだけでなく「人種差別はNoだ」と思う、全ての人種の怒りや悲しみに火が付きました。

これらは、ジョージ・フロイド殺害までのほんの一握りの事件で、毎日どこかで警察官による暴力が振るわれています。

コロナ・ウィルスからホームレスを守る為にシェルターを運営するキャンディス・エディナー。彼女が住むオークランドは人口の1/4が黒人で、ホームレスの7割がです。彼女は「ジョージ・フロイドの事件を見て、黒人2人のボランティアが車から降りるように白人警官に銃を向けられ、フロイドと同じように地面に顔を叩き付けられ時のことを思いだした…」と話ています。ボランティアの黒人は「黒人だ」という理由で、人違いで取り押さえられたのです。

黒人男性ベン・ウィルズは、警察官が日常的に暴力を振るう地域で育ちました。彼は「俺は、警察官は何が出来るか本当によくわかっている」と話しています。ウィルズの幼いころの環境は、彼が抗議活動の最前線に立つ力になったそうです。ウィルズは「とにかく平和に抗議しよう」と呼びかけいます。彼は、いざとなったら警察官は守ってくれない…という恐ろしさを知っているからこそ、暴動や略奪に反対しています。

そして今、新聞やニュース、snsを通じてブラックコミュニティーから聞こえてくるのは「I’m tired of being sick and tired 」「もう死ぬほどうんざりなんだ」という声です。

「I’m tired of being sick and tired」という言葉は、公民権活動に尽力した黒人女性政治家ファニー・ルー・ヘイマーが1964年にアトランタでスピーチした際に使った言葉です。50年以上たっても、ブラックコミュニティーは同じ言葉を使わなくてはならない…。

その苦しみや、悲しみ、怒りや不安を生まれてから死ぬまで経験しなければならないブラックコミュニティーのことを考えると、「Black Lives Matter」と賛同する声がより大きくなることを願ってやみません。

略奪や暴動も起きていますが、警察官が抗議活動に参加したり、ブラックコミュニティーが略奪や暴動を止めるように強く促す姿にを見て、とても心強く思いました。今までとは確実に違う希望も、僅かに見えてきています。

今回の抗議活動の行動力が前向きに働き、ブラックコミュニティーが400年間抱えてきた不安や怒りなどが、少しでもポジティブなエネルギーに昇華され、彼らが少しでも安心して生活できる場所を増やすにはどうしたら良いのか。

自分に何か出来ることはないだろうか…とずっと考えている。


Bibliography:全ての都市、そこにはジョージ・フロイドがいる:プロテスター達のポートレート

Bibliography;警察官による暴力のマッピング







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