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書評:デービッド・アトキンソンさん「給料の上げ方」

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デービット・アトキンソンさんの新著。過去にも「日本人の勝算」など、様々なデータを用いて日本がどうすれば衰退せずに済むかを論じてこられた方だ。
今回の著書では日本で給料が30年上がっていないこと、それがなぜか、そしてそのためにどうしていくべきかについて論じられている。
このテーマは日本の、特に生産年齢人口の人は深く理解しておくべきだ。デービッドさんの本では1つ1つについて諸外国との比較も踏まえながら豊富なデータで説明してくれている。
日本では最近岸田首相が賃上げの要請に躍起になっているが、これは非常に奇妙な話だ。なぜなら賃金を上げるのは企業の経営者であって国ではないからだ。そして日本の経営者が賃金をなかなか上げない大きな要因の1つは「上げる必要がない」からだ。これはつまり、給料が低くとも勤勉に働く国民性や、転職率の低さに起因している。これを個人個人が変えて賃上げを要請していかなければ将来は暗い。本書で最も重要なメッセージはそれだ。

日本の平均給与が韓国に2015年に抜かれたことは大きな話題になった。今や1人あたりGDPでも抜かれている。日本は島国であるからか、あるいは高度成長期に世界2位(現在3位)のGDP大国になったからか、国際的な比較に鈍感な人が非常に多いと思う。(マスコミもきちんと報じない)。抜かれたことそのものよりも、その背景にはそもそも「日本が30年給料が伸びていない」ということが問題なのだ。そして少子高齢化が進む中で社会保障費は膨らむ一方なので、実質的な手取りは減り続けている。そして今後も減る。この「給料の上げ方」はその現状を打破するための唯一無二の対策が提言された本だ。

まず背景ではなぜ日本人の給料が上がっていないのかが説明されている。ここに関しては労働分配率と労働生産性で見えてくる。労働分配率とは企業が生み出した付加価値をどの程度給与に回したかだ。一方で労働生産性は生み出した付加価値の一人当たりの値だ。これらを国際的に比較すると、労働分配率は大きな格差がないのに対して、労働生産性は圧倒的に低くOECD最低レベルなのだ。つまり、労働生産性が低いことが給料が低く上げられない理由となっている。
これに加えて前述した通り、日本のビジネスマンの手取りは確実に減っていく。なぜなら給料が増えない一方で天引きされる税金と社会保障費用は増えるからだ。今の日本の人口統計を考えた時に将来的に既存の社会保障システムを維持することは不可能だ。にもかかわらず高齢者が選挙において投票率が高く、高齢者にとって不利益となる変革は政治家は推し進められない。
さらに人口減少により生じる様々なインパクトについて本書で記載されているが、重大なものは消費の減少だ。人口が減ること、かつ消費の主体者であり生産労働人口が減ることで日本の消費は減っていく。よって今の企業が日本市場だけで生き残っていくことはどんどん難しくなっていく。

そんな中で我々個人はどうすべきか?本書にも書かれているが選択肢は4つある。いや、4つしかない。
1)    海外移住
2)    給料交渉
3)    転職
4)    起業
だ。自分は1,2,3をこれまでに経験してきた。2の給料交渉は、直接の額について交渉をしたことはないが、それに結びついた評価については上司との面談で確認してきた。
1の海外移住は有効な手段だが言語力や家族などの面で全ての人が取れるアプローチではない。よって全ての人がまず2の給料交渉にチャレンジすべきなのだ。それでも可能性がなさそうであれば3の転職や4の起業を考えていくことになる。
そして、給料交渉をする上で多くの人に最も大切なのは会社へのロイヤルティ、いわゆる忠誠心を捨てることだ。新卒一括採用かつ終身雇用が前提で入社した人にとってこれが言うは易く行うは難しなのである。しかしながら、従業員が会社に忠誠心を持ったとしても、その逆はない。会社は従業員の人生の責任は取ってくれない。

そして本書ではついていくべき社長、見限るべき社長についても詳述されている。それについては本書を読んでいただければと思うが、簡単に言えば現状維持の会社は見限った方がよく、将来を見据えてリスク取ってイノベーションを起こしに行っている組織に在籍した方がいい。その方が給料が上がる可能性が遥かに高いからだ。

ちなみに、本書の最後には補論として「俗流評論家に騙されるな」という章がある。これが非常に面白い。我々がSNSやワイドショーで日々目にする通り、多くの“自称”経済評論家たちが日本の経済停滞理由やその対策について述べている。その中には政府のせいにしたり、グローバリズムにしたりと様々な眉唾物の主張があるが、著者はエビデンスに基づきバッサリと否定している。この部分も是非読んでいただきたい。

最後に。自分は日本の将来に希望を見出すことが難しく、かつ日本の長時間労働で海外より低い給与をもらっていることが馬鹿馬鹿しくなりシンガポール勤務に変わっている。この選択は今でも正しかったと思っているし、また日本の企業で働くイメージが湧かない。ただ、一人の日本人として、日本における賃金が増えて国際的なポジションを上げれるようになってほしいとは心から思っている。そのために個人が考え、よりよい待遇を求めてアクションすることを私も願ってやまない。

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