心技体という言葉があります。

スポーツをするうえで心と技と体が大事だっていう話。
そしてそのどれもが欠けてはいけなくて、補う形で必要なんだと。

ただ、これが技心体（ぎしんたい）でもなく、体技心（たいぎしん）でもなく、心技体（しんぎたい）で最初に心がくる理由について腑に落ちたエピソードがあったので紹介します。

先日のサッカーでの試合での出来事でした。

自分たちと相手のチームはそれほど力の差はないマッチングでの試合でいい試合になると予想はしていたのですが、試合前にGKの選手がチーム事情で午前と午後の試合が連チャンだったこともあり、すこし気持ちが落ちていました。

FPの選手たちも、新シーズンになったものの期末テスト明けということで身体は重そうで（お互い様）、かつトップチームというカテゴライズで招集されたメンバーではなかったので、少しここも気落ちしていました。

試合が始まってみると、相手に長身FWがいたこともあり、彼へのロングボール戦術にチームは苦戦していました。競り合いで約20センチくらい差がある相手とのマッチアップです。対峙している選手は苦戦し、周りの選手も後手に回っていました。

あれよあれよと開始10分で3失点。チームの雰囲気は悪くなります。40分ハーフのゲームで開始10分で3失点。残りの時間が不安で仕方ありません。結局反撃をすることができないままに前半に追加点をくらい、前半で0−4。チームは意気消沈したままベンチに帰ってきました。

僕は審判の役回りだったために、前半の試合中にとくに声をかけることはしなかったのですが、ベンチに戻ってきて一呼吸した彼らにこう告げました。

「今の前半、それぞれが一生懸命プレーをしていたと思う。だけど、どれだけチームを助けるためにやった？」

「前半10分で3失点。4点盛り返すのすごく難しいよね？残りの70分を面白くなく、つらいものにしてしまったんだよ。口を開けば、『ああして欲しかった、こうしてくれ』全部事後の言葉じゃないか。『あそこでプレスかけよう！』『カバーリング入れ！』どれだけシンクロで仲間を助けることができた？」

「GKもそうだ、3失点してそこから10分間くらい声かけるの辞めただろう。チームを改善に持っていくのがGKの声じゃないのか？」

「目の前のことで精一杯で全然視野が広くない。プレーしている選手が視野を広げられるように声をかけてやれ。助けてあげろ、そこが出来てから初めて戦術だよ。君たちが持っている素晴らしいものが全く発揮できていない」

「今年のチーム目標は責任感だよな？どれだけこの試合に対して責任感をもってやってる？プレーを成功させろということじゃない、これは君たちの試合に対する責任感の問題だ」

原文はままではないものの、このようなことを選手に伝えました。

そのあと、顧問の先生から大事にしてほしい原則の再確認があり、後半に挑むことになりました。

すると選手たちの動きが変わったのです。

背が高い相手FWへのアプローチのあとには必ずカバーリング。抜かれても必ず戻る。ゴール前では懸命に身体を投げ出す。GKからの指示が飛ぶ。FPは懸命に戻り、GKは身体を張ってゴールを許しません。前半と同様攻め込まれることはありますが、最後のところで許しません。気迫で相手はシュートを外してしまいます。前半はシュートを10本打たれて4失点。後半は16本打たれても、無失点で終えたのです。

攻撃に切り替われば見てほしいところの声が飛ぶ、事後ではなくシンクロでの要求が攻撃でも始まったのです。前半よりいくつもチャンスシーンを作り出します。残念ながらゴールやシュートに結びつきませんでしたがチャンスクリエイト数は明らかに変化しました。ボールを持つラインも前半より大きく前でプレーすることに成功しました。

結果としては0−4敗戦。シュート数も結局は6−26と、振り返れば冷静に力の差はあったのかなと思いますが（笑）
ただ前半から後半で選手の潜在能力が引き出される瞬間を目の当たりにしたのです。
選手は試合後、「後半はすごく楽しかったです。やはり声は非常に大事ですね。ただ、本当に疲れました笑」と言っていました。

この一件を通して心が大事だのだなと再認識しました。

持っている力を引き出すためには心が大事で、そこに技術と身体がついてくるのです。

選手たちにはここで何かを掴み取ってほしいものです。本当の本気に、いかに日常から近づけていけるか。

持っているものを出し惜しみせずに日々やり抜くこと、やり切れるように近づけること。

今日何かを掴み取った選手がひとりでも多くカテゴリーを上げて行ったり、今後の人生にこの体験を活かしてもらえれば、スポーツ指導者としてこれほど嬉しいことはありません。サッカーを通じて大事なものを得られたのですから。