中国系・華人・華僑のサッカー選手

中国人のサッカー選手が全体的にぱっとしないのはなんかもう致し方ないとして、他分野に目を向けるとどうか?

ノーベル賞歴代受賞者

2010年以降に3人が受賞するまで、中華人民共和国籍の受賞はゼロ
中華民国(所謂台湾)は1957年に2人一緒に受賞しているが、それ以外の受賞者は皆アメリカ、フランス等の国籍を持った華人である。

なお華僑や華人の定義とかは↑やWikiを参考にしてほしいんですが、平たく言うと↓だと認識してる。

(華人=移住先の国籍を取得した中国人。華僑=移住しても現地国籍取得せず中国籍のまま)

学術面だけでなく、政治面ではシンガポールのリー・クワンユー、タイのタクシンのような国家元首、経済面では数えきれないほどの著名な華人が世に出ている。
スポーツではNBAのジェレミー・リン(林書豪,両親が台湾出身)、錦織圭のコーチだったマイケル・チャン(両親が台湾出身)、フィギュアのミシェル・クワン(関穎珊,両親が香港から移民)のような著名なアスリートがいる。

ならサッカーでも中国系、華人のいい選手いないの?ということで調べてみた。


・各国代表入りした選手たち

フランク・スー(英国,Frank Soo, 蘇衛清,1914-1991)

サッカーの母国、イングランド代表の長い歴史で初の非白人,唯一の中国系の代表選手。父親が中国人で戦時中の1942-1945年に9試合出場している。主にストーク・シティ等でプレー、1950年の引退後はイタリア、北欧諸国で監督を務め1952年ブダペスト五輪にノルウェー代表監督として参加。

全盛期が第二次世界大戦に被っており、自身も空軍に参加したり、兄弟を戦闘で亡くしている。

チェン・ラリン(オランダ,Tschen La Ling, 林球立)

アヤックス、フェイエノールト、マルセイユ等で活躍しオランダ代表で14試合2得点を記録したウイングは父親が中国人。祖父が浙江省温州からオランダへ移住している。ラリン自身は引退後ビジネス面で成功している模様。

カルフィン・ヨン=ア=ピン (オランダ,Calvin Jong-a-Pin,莊艾班)

2011年から清水、町田、横浜FCとJで長くプレイし、2008年北京五輪でオランダ代表入りしたヨンアピン、彼はアムステルダム出身だが南米スリナムに移住した華僑のルーツを持つ。ただ5,6代前遡らねばならず中国代表入りする資格もない。

オランダについては本土よりもヨンアピンのようにカリブ海のスリナム、キュラソーといった地域へ移民した華僑が多い印象。


ブライアン・チン(アメリカ・Brian Ching・程拜仁)は1978年ハワイ出身で祖父が中国本土からの移民。カメハメハ・スクールという地元の高校でサッカーを始め、2003年にハワイ出身では初&中国系では2人目のA代表入りし、2006ドイツW杯メンバー入り(出番は無し)代表通算45試合10得点、ゴールドカップ2度、MLS得点王の経歴。

なお引退時には引退試合が開催され、なぜかアメリカのレジェンド・ランドン・ドノバンがGK務めているが、それだけ功績も名声も高かったという証明だろう。

中国系の選手が他国代表でW杯メンバー入りは多分初、なので2006年当時は中国側メディアではそこそこ話題になった記憶。


なお中国系初のアメリカA代表はマーク・チュン(Mark Chung)1970年カナダのトロント生まれ。ルーツはジャマイカに移住した客家、がカナダに移住し、自身はアメリカでキャリア築いて、1992年に中国戦でA代表デビューと。代表通算24試合2得点、1993年コパ・アメリカに出場している。

ロベルト・チェン(パナマ・Roberto Leandro Chen Rodríguez,罗伯托·陈)

1994年生まれでDF全般に対応。2011年17歳でA代表デビューし2013年ゴールドカップ準優勝に貢献し、同年にスペイン・マラガへ加入と凄くいい感じだが、スペインでは成功できずベルギーや下部リーグへのレンタルへて母国に戻っている。パナマが初出場した2018年W杯は怪我のためメンバー入りを逃している。よくある早熟パターンを歩んでいる不安はあるが代表通算23試合1得点、もうちょっと伸びるといいが。

彼の高祖父(祖父母の祖父、曽祖父母の父)陳文達は広東省から1888年に当時コロンビア領だったパナマへパナマ運河工事のために赴きそのまま定住した。よく知られているアメリカ・ゴールドラッシュだけでなく、このように19世紀に運河工事であったり、所謂奴隷(苦力)として中南米に移住した中国人が多く、その影響でかの地域には意外と華人が今も多い。

中南米で中国系だと鄭兆聰(香港/コスタリカ、Ricky Cheng Siu Chung)。1972年香港出身で8歳で家族とコスタリカへ移住。コスタリカU20代表に選出され名門アラフエレンセと契約するもなかなか活躍できず。1993年に香港に戻り以降は香港でキャリアを全う、代表9試合6得点、96年にはリーグMVPを獲得している。

スティーヴィ・チョン・フエ(タヒチ・Steevy Chong Hue,斯蒂维·张)

中国系移民はどこにでもいる、タヒチにもいる。19世紀後半に各種プランテーションの労働者等で移住が増えたらしい。

1990年生まれのチョン・フエは2009年U20W杯に出場、タヒチ1部リーグの得点王へて一度同胞Alvin Tehauとベルギー3部のFC Bleidに加入するもプレー機会はなく帰国。2012年OFCネーションズカップではニューカレドニアとの決勝戦で決勝点を挙げ初優勝に貢献、2013年コンフェデレーションズカップで全試合に出場している。2013年にはフランスリーグ1・ロリアンでトライアル実施も加入には至らず。因みにコンフェデ出場していたころの本業は電話の交換手だったとか。

高祖父母が現在の広東省深圳出身の客家で、タヒチに親戚が結構いて、自身も簡単な客家語(方言)は話せるという。

因みに中国・タヒチ関係だと宮磊(Gong Lei)を紹介したい。

2013-15年と1度の辞任挟み貴州人和(現在北京人和)監督を経験。カップ戦優勝しACLではJリーグ勢とも戦い、現在は解説者をしているが

現役時代はU20代表で1985ワールドユースベスト8進出時のメンバー。その後1990年にタヒチのAS Piraeに加入しリーグ優勝3回、2度の得点王&リーグMVPに選出され、1993年FIFA年間最優秀選手投票時にタヒチ代表監督が宮に投票している。その後タヒチを離れ、カナダや香港へて中国に戻り引退している。A代表歴ないのでタヒチ代表からの誘いもあっただろうが。

なお中国系移民が最も多い東南アジアでは中国系の代表選手は沢山いるので割愛するが、人口比の割には多くない印象。例えばシンガポールは全人口の7割超を占めるが、最新の2018AFFスズキカップの代表23人中、名前を見るに中国系はGabriel Quak(郭俊谊)1人のみ。

よく言えばスポーツより経済、政治面で力を発揮しているのか、または運動能力が劣るのかry

・逆輸入の流れ

中国は2000年代中盤から各年代の代表は低迷し、協会も各クラブも育成面への投資を強めているが、育成というのは時間も金もかかるのは事実で

であれば「他国の優れた育成を受けた中国系選手がどうか」となるのも自然で、こうした逆輸入の噂で注目されているのが北京国安が欧州のアンダー世代表歴ある中国系2選手を獲得するという噂。

ニコラス・イェナリス(英国/キプロス、Nicholas Yennaris)

アーセナルの下部組織出身でイングランドU19代表歴あり、今はイングランドFLC(2部相当)のブレンドフォードに在籍するサイドバック兼任守備的MF。父がキプロス、母が中国人で3か国の代表入り資格を有す。

ジョン・ホウスター(ノルウェー,John Hou Sæter,侯永永)

1998年生まれ、母親が河南省出身の中国人。ノルウェーの名門ローゼンボリで育ち、16歳でトップチームデビュー。各年代代表にも選出されレアルマドリード所属のウーデゴーアと共に期待されたMFだがトップチーム定着できず、今はスタバエクに在籍。

2名ともに母親が中国人ではあるが、中国のパスポートはまだ保有していない。中超リーグでは外国人枠があるが、北京国安は現役ブラジル代表のレナト・アウグストやコンゴ代表セドリック・バカンブらがおり、若い2人にその枠を費やすとは思えない。北京国安が獲得するならば彼ら2人に中国国籍を選択させ、自国選手として起用する以外ない。

ただ中華人民共和国は原則2重国籍を認めていないため、その場合元々の国籍を実質放棄せねばならない(国籍放棄を認めない国なら2重国籍にならざるを得ないが)そこまで彼らが中国国籍に骨をうずめる覚悟があるのか個人的には疑問である。例えば海外旅行行く際に日本パスポートの強さは有名だが、反面中国パスポートは殆どの国へ渡航する前にビザを取得せねばならない(よく学生が欧州や東南アジアなどをバックパッカーして旅しているが、それは日本のような恵まれたパスポート故でもある)

欧米諸国と比較すれば中国パスポートの価値はかなり劣るのだ。勿論それでも彼らが中国国籍を選択し、尽くしてくれるならそれは大歓迎だが

または特例を作るのかもしれない。両親1方が中国人なら自国選手扱いとするなど。いずれにせよ国安の例が成功すれば同様の事例は増えるだろう。

黎腾龍(中国/ロシア?/ベトナム?Li Tenglong)は中国パスポートを保有し続け、既にロシアユース代表を拒否し中国U17代表招集に応じており、本人及び中国人の母親の意思で中国代表入りを目指すことが確実。

なおこの3名とも母親が中国人で、母親の意思を尊重している。母は強しというか男が弱いのか

なお日本では元中国代表高升の息子,ガンバ大阪の高宇洋(日本,Takahiro Ko)がいるが、彼は日本国籍であり、普通に日本代表も目指せそうなので、中国代表を選択する可能性はかなり低そう。


・港澳台(香港・マカオ・台湾)が絡むケース

中華圏で特殊なのはこの英国4協会ならぬ中国4協会()の存在。

戴偉浚(香港/英国 Dai Wai Tsun)は1999年香港出身で香港特区パスポートを持つが、11歳で英国移住しパスポートも持つ。よってEU外選手を悩ます労働ビザ不要のため、レディングの下部組織へて2017年にイングランド1部(3部相当)のベリー(Bury FC)とプロ契約し公式戦11試合に出場(香港の選手がイングランドのリーグでプレイしたのは1960年の張子岱 Cheung Chi Doy 以来2人目)2018年に同ディビジョンのオックスフォードに加入している。

当然香港代表から招集されるが、2018年10月に香港代表の招集辞退(負傷理由)しておいて、フース・ヒディング率いる中国U21代表キャンプには合流したことが判明。香港と中国は一応同じ国であるが、特に香港→中国本土への「お前らと一緒にするな!」嫌悪感は強く、戴自身の考えは分からないが、多くの香港人から戴のInstagramに罵倒メッセージが殺到した。


シャヴィエル・チェン(ベルギー/台湾,陳昌源,Xavier Chen)
アンデルレヒトユースで育ち、ベルギーU19代表キャプテン経験あり。彼が「見つかった」のは台湾サッカー協会幹部の陳家銘がサッカーゲームをしていた際に彼の名前を見つけて調べたことからだとか。2011年に台湾パスポートを取得し台湾代表入りを表明。その際に中国協会からも接触があったと判明。同年代表デビューし、通算9試合3得点を記録している。
クラブレベルはベルギーに留まっていたが、2013年から15年までは中国本土の貴州人和に在籍、ACLにも出場している。(2016年にベルギー・メヘレンへ復帰)

なお彼は既に引退し、映画にもなっている。

殷亜吉(スペイン/台湾,Yaki Aithany Yen Tavio)はスペイン・カナリア諸島出身でスペイン生まれスペイン育ちだが、父親が台湾出身で2015年に台湾パスポート取得し、代表入り。14試合1得点を記録したが2016年に当時の今井敏明代表監督と対立して代表を離れている模様。彼も陳昌源同様にクラブレベルでは本土中国の長春、青島黄海でプレイ。中国パスポートはなくても人民元は稼いでいくというおいしいパターン。

なお「国家」としては中華民国(Republic of China )であり、サッカー協会としては中華台北(Chinese Taipei)であるが、ややこしいのでここでは台湾と表記を統一した。

因みに文化大革命等動乱で中国は長く国際大会に出ていなかったが、復帰する段になり当時台湾が中華民国として参加している点でも揉め、中国が1980年代にW杯アジア予選等に復帰すると、台湾はオセアニア予選に参加させられたりしていたが、最終的に中華台北(Chinese Taipei)という名称でアジア連盟での同居が認められて現在に至っている。

https://en.wikipedia.org/wiki/1978_FIFA_World_Cup_qualification_(AFC_and_OFC)#Group_5

https://en.wikipedia.org/wiki/1982_FIFA_World_Cup_qualification_(AFC_and_OFC)#Group_1

↑1978年大会予選ではTaiwan表記だが、中国復帰後の1982年はChineseTaipeiにかわっている

このようにと台湾、香港、マカオとの「中国系」の綱引き合戦が多発するかもしれない。

・まとめ?

ロシアW杯で優勝したフランス代表に象徴されるように、様々なルーツをもつ選手が1つの代表に集合することは当たり前となっている。アジアでも香港、シンガポール、フィリピン、グアム、タイ、キルギス、カタール等所謂帰化政策または自国にルーツもつ選手を代表に引き込む流れが強まり、サッカー界の勢力図は大きく変わっている。2000年前後はアジア最底辺だったフィリピンは先のW杯予選で北朝鮮やバーレーンを破り、世界ランクでは東南アジア1位になり、アジアカップ初出場を果たしたように。日本も近年ユース年代は多国籍化が進んでいる

極東の北朝鮮、韓国、中国は、少なくともナショナルチームにおいて帰化選手は聞いたことがない。(北朝鮮は国情がとか、北朝鮮/韓国はそもそも同じ民族だとか、在日選手はどうなのとか、中国のウイグル、朝鮮族はーとか細かい議論は置いといて)

中国でも華人が中国籍を選択し、代表入りするし選手が出る日近いかもしれない。




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