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【読書体験】『言語沼』という物語

 「ゆる言語学ラジオ」というYouTubeチャンネル、ないしPodCast番組をご存知だろうか。

 インターネット芸人を自称する衒学者げんがくしゃ堀元さんと、堀元さんのファンだった言語オタクの水野さんという男性二人が、言語学についてゆるく楽しく軽妙なトークを繰り広げるチャンネルである。

 私はとにかく知識を得るのが好きな方なので、およそ1年以上にわたり、YouTubeでこのチャンネルをウォッチしている。

 もしこの説明を聞いて興味が湧いたら、以下の動画が初心者向けなはず、なので見て欲しい。一応紹介しておく。

 本題に入る。

 正式名称『言語オタクが友達に700日間語り続けて引きずり込んだ言語沼』という、記念すべき二人初の共著は 2022年12月3日 、年の瀬を前にして発表された。

 この時点では発売日を2023年1月5日としていた。水野さん(サムネの右の方)はこの時、発売日について「こんな年明け早々みんな本屋に行ってくれるかな?」「みんなの2023年初読書になるね!」と無邪気なコメントを残している。

 この後の顛末を考えるとひたすら悲しい。

 また、このチャンネルの密なスポンサー、『VALUE BOOKS』さんは、『言語沼』のために、自社サイトに予約システムを新設した。ものすごい推しっぷりである。

 この時、ファンもVALUE BOOKSさんも満を持して迎える書籍の発売日を楽しみに待つばかりだっただろう。

 ただ、申し訳ないのだが、この時点で、私はこの本を購入するつもりが無かった。私が本に求めるのは、人間の本質に訴えかける何かだ。そしてこの本にそれはなさそうである。
 動画を欠かさず見るぐらいにはファンなのだが、自分が求めてもいない本をお金を出して買うほどではないというか。

 事件は、 12日23日、クリスマスを目前に浮かれたYouTube動画の山の中、未明に投稿された一本の動画から始まった。

 なんと、発売を目前に届いた見本をチェックしたところ、大量の誤植(ルビのミス)が見つかり、発売できる状態ではないということが明らかになったのである。

 二人にとっても青天の霹靂だっただろう。

 私からすると、なんでそんなことになったのか全く分からなかったが、いつもは投稿しない深夜に、編集もなく、ZOOMのビデオチャット画面を配信している二人から、ただならぬ緊迫感と憔悴が伝わってくる。

 しかも悪いことに、二人の熱烈なスポンサー、VALUE BOOKSさんは先行販売を予定していたので、すでに発送済みだという。二人は、追って正しい本を送りなおすとしているが、かなりの手間・コストがかかるものだろう。

 私はこれを見て大変哀れに思うと共に、可能な限り誠意のある対応を取ろうとしている姿に感銘を受けた

 平気の平左とばかり、次回の配信予定日を待って、「ごめんね! てへぺろ」としても良かったのである。だって、誤送があったとかではなく、ルビの誤植だ。乱暴な言い方をすれば、ルビなんて無視すれば済むと言えなくもない。どこぞの編集者さんなら、「絶版以外はかすり傷!」と発言しそうである(※)。

 言語学というテーマを扱っている、言語に対して人一倍こだわりのある二人だからこそ、大量の誤植がある本をそのまま発売するという恥辱に耐えられなかったのだろう。その姿から、二人がこの本にかける情熱や、コンテンツ全体に関するこだわりの強さがひしひしと伝わってくる。

 結果としては、発売の延期となった。

 私はこの配信を見て、『言語沼』が欲しいと思った。どれだけ二人が『言語沼』に力を掛け、本気で届けたいと思っているかが伝わったからだ。その熱意を応援したいと心から思った。

 そして本来の発売予定日から約3ヶ月後、4月7日に、ついに『言語沼』は発売されたのである。

 このお知らせ動画が、4月8日に投稿されていることに闇を感じる。さらなるトラブルによって発売延期になることを恐れ、念には念を入れて、発売されたことを確認してから、投稿したのだろう。

 まあ、めでたいことである。きちんと私の手元にも『言語沼』が届いた。

 場合によってはこのことでお互いを責め、ゆる言語学ラジオごと空中分解するというストーリーもあったろうに、二人は、このようなトラブルに見舞われたにも関わらず、サポートしてくれる周囲と共に、難局を乗り切ったのだ

 私はこの本に対してというよりも、水野さん、堀元さんの絆と、二人がつむぐサクセスストーリーにお金を払った。

 とそろそろ締めそうな語り口になっているが、ここに至るまで、『言語沼』の内容に一切触れていないことにお気づきだろうか。

 最後に軽く触れておくと、いつも二人がYouTubeで披露している、軽妙なトークが書籍になったという感じである。
 個人的には『毒ヂワワ』というパワーワードに強く心惹かれた。

 私はこの本をお気に入りのコーヒーショップで、時折フフと笑いながら読んだ。いや、面白かったのである。あと挿絵の雰囲気が良いのである。

 こんな文末に感想が押しやられている理由は、私が本に求めている『人間の本質に訴えかける何か』が、本そのものではなく、発売に至るまでのドタバタストーリーにあったことによる。

 この本を買うことで、お二人の役に立てたということが嬉しい。

 なので万が一、この文章が関係者の方の目に留まることがあったとしても、きっと笑って許してくれるだろう。

 私はこれからもゆる言語学ラジオを応援する所存である。


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