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いい年して職場であだ名呼びを強制された女の末路

「そうだ! みんな、あだ名で呼び合おうよ~」
 そう言って、上座に座った女性が赤い唇を吊り上げて笑う。
 周りの女性たちは「わあ~」とか「いいね~」とか表向き賛同の言葉を口にしているが、腹の内は読めない。

 アラサーにもなって、職場で、あだ名呼び。

 正気か?

 知らない間に異世界に来ていたのだろうか。ああ、これがあの、噂に聞く女性社会というものか。

 どんなあだ名にしようかキャイキャイ話し合う皆を前にして、私の心ははるかかなたに飛んでいく。

 そう。女性社会とは、一分一秒でも気を抜けば命を落とす修羅の世界である。「暗黙の了解」とか「共感」とかいう見えない法律が跋扈し、噂話という飛び道具を使いこなして派閥を作り、表向きは穏やかなように見せて価値観の違う者を排斥し、上下関係をつけたがる。攻撃は婉曲ゆえに、ぼやぼやしている間に気が付けば孤立という名の死を迎えるだろう。

 ※偏見あり

 読者の方は、こんなにも女性社会を恐れる私に呆れを通り越して哀れみの念を覚えたかもしれない。
 なぜかと言えば理由は単純で、経験が無いからである。

「男社会の中で過ごしてきた女は、競争にさらされてこなかったが故に軟弱で使い物にならない」

 と言ったのは誰だっただろうか。発言主は定かではないが、刺さりすぎて内容だけ覚えている。

 私はそれを聞いた時、「何も反論できない」と思ったのだった。IT系のニッチな職種を志したが故に、専門学生時代から超男性社会で過ごしてきた。クラスの男女比率は95対5でほぼ女性はおらず、見渡しても男性ばかり。他学科の女生徒には「大変」「かわいそう」などと言われることもあったが……何を隠そう、私にとっては大変過ごしやすい環境だったのだ。


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