見出し画像

ゆのみのはなし 3

こんばんは、お元気ですか。

コラム連載は3週に1回、3週間×3回分も書いて回すと、季節はどうやったって早く過ぎていくもので、その早さに振り落とされないように器用さを身につけたいと思う今日この頃。今日は冬至なので、例年でいうと個人的には1年で一番元気のない日ということになっていそうなものが、案外平気に生きています。

寒さはどんどん厳しくなってきていて、北海道だと最高気温が0度以上になる日は珍しく、最低気温は毎日マイナス2桁台。とんでもねえ環境だわ。3回目の北の冬なう。

これだけ寒いとそれを理由にして何かを話すことがよくある。ベタなやつでいうと「寒いから眠い」とか「寒いから腹が減る」とか。寒いを理由にしてみたら、どさくさに紛れてなんでも伝えられてしまうんじゃないか、とか思ったりした今日でした。

「寒いから、少し優しくしておくれ」
流石におかしいか。



8. 「熱中に駆られて」 11月9日掲載

 「M―1(日本一の若手漫才師を決める大会)に出たことがあるんです」と言うとすごいことのように聞こえるが、実は1回戦は応募さえすれば誰でも出場できる。事務所や養成所などに所属する芸人に紛れ、僕は一度だけステージに立った。これもまたすごいことに聞こえるが、観客の爆笑を生んだかどうかは別の話。自分たちのネタの終盤、換気扇の回る音がやけに大きく聞こえたのを覚えている。笑い話の一つとして今は語るが、類ない熱中の時間だったと振り返る。

 当時の相方は学生時代の友人。彼はその後養成所に入り、今は事務所に所属する芸人となった。テレビやラジオに出演し、毎週茶の間を沸かす芸人は一握りだが、そんな厳しいお笑いの世界で最近、めきめきと実力でのし上がってきている。時々オンラインでライブをのぞくと、彼は楽しくて仕方がないという表情をしている。どんどん勝ち上がっていく賞レースの結果や、いつかと違って会場をどかんと沸かすネタ以上に、生き生きした熱中の表情に何より刺激を受けている。彼を見て「負けていられるか」といつも思う。

 公営塾「よりみち学舎」に通う生徒たちは高校生。正しいことばかりにとらわれなくていい、笑えるような失敗も後悔するような間違いも一つでも多く経験してほしい。そのすべてがいつか青春や熱中と呼ばれる時代になるなら、そこで出会った仲間は掛け替えのない存在だ。どれだけ場所や時代が変わってもその存在は、いつも自分を熱く駆り立てる一生のライバルになるから。そういう仲間が一人でもいることはきっと、すごいこと。
〈了〉

苫小牧民報 11月9日掲載分

【裏話】青春と熱中

連載開始当初から、僕が書きたいと思っていた友人の話。書いている時期にちょうどM-1でどんどん勝ち上がっていたこともあって、タイミングもよく書けた。M-1は3回戦で敗退してしまったけれど、多くの人の目に触れたことはたしかで、その後もめきめきとライブやテレビに出演しているので、一人のファンとしてとてもワクワクしながら彼らのお笑いをこっそり楽しみにしている。今もちょうどフジ系列で放送している「ネタパレ」っていうお笑い番組で新人レースを3週連続勝ち抜いているので、もし興味ある方はぜひ金曜11時半から見てみてください。おもしろいよ。

文中ではほとんど深堀りせずに使っている「青春」と「熱中」という言葉の違いについて、この時はじっくり考えていた。青春は、どうしても学生や若者のイメージが欠かせない気がしている。対して熱中は、年齢関係なくどっぷり浸かって夢中になれる普遍的な時間のことなのかな、と思ったり。

とにかく、僕にとって「青春とは人生ではじめての熱中」という位置付けにしたことで、後半の高校生に向けた展開につなげていった。日々、恋愛相談や人間関係の悩みなんかを高校生たちから聞いていると、どんな逆境にあっても悩む彼ら彼女らの姿そのものはどうしても美しく、そんな青春の真横で僕もまた熱中に生きていたいと思うことが多々ある。僕は僕が生きる今を肯定していたい、と珍しくポジティブになれた。


最近描いた絵


9.「言の葉の色」 11月30日掲載

 冬は突然やって来た。あまりに急に寒くなったから、本当はずっとそこにいたのではないかとすら思う。町の上にかぶせられていた暖かいベールを、誰かがふっと一息で飛ばしてしまったようだった。毎年のことなのになぜかいつも少し遅れてしまう僕の衣替えを尻目に、自然の木々は季節に合わせて着々と姿を変えていく。道沿いを彩る木の葉を見て「あの紅葉がきれいだよ」と誰かに伝えるより先に、鮮やかな色づきが旬を過ぎていく。

 冬支度の中でモミジやイチョウの葉が色を変えるのは、クロロフィルという緑の色素が分解されて養分になるためだという。つまり、秋になると鮮やかに見える赤や黄色は、実は秋よりも前にそこにあるということ。夏の間は緑の色素に隠れて目には見えていないだけで、赤や黄色の色素は冬に近づくにつれて見えやすくなる。

 日々の活動の中で関わる高校生たちの表情や性格が、ある時大きく変わったように見えることがある。これは成長というよりもむしろ共に過ごす時間の中で彼ら彼女らがもともと持っていた別の一面が解き放たれるようで、どこか紅葉と重なる。人からどう見られるかを気にする生徒は多いが、自分が持つ多様で複雑な側面の一つ一つを大切にしてほしい。

 人から求められる表面上の分かりやすさよりも、自分の内面にあるさまざまな色に目を凝らすことから、他人に対してもまた言葉や表情の奥にある多様な価値観をおもんぱかることができるようになるはずだ。人は簡単には分かり合えないが、分かりたい生き物だと思う。たった一枚の同じ葉が季節の中で違う色を映し出す時、言の葉の奥に小さな願いを乗せてみる。
〈了〉

苫小牧民報 11月30日掲載分

【裏話】偶然の連続

前回の流れを汲んで、高校生に向けた文章を書いてみたいと思っていたけれど、若干のマンネリを感じていたので、SNSで友人たちにコラムのお題を募集した回。最終的にはそこで頂いたお題の中から「季節(冬)」と「色と感情」を選んで書いてみた。そしたら、2つの偶然が起こった。

一つ目の偶然は、もらったお題のテーマがそれぞれ少しずつ重複していたこと。ちょうど全国的に寒くなり始めた時期で、みんな季節を意識せざるを得なかったタイミングだったのかもしれない。

もともと季節をテーマに文章の導入を書き始めることが多い自分なので、普通に書いたらスムーズに書けるのだけど、今回は少し違ったことがしてみたいという謎モチベーション(天邪鬼)が湧いてきてしまい、執筆にあたって個人的にいつもと違う書き方をしてみた。2段落目に紅葉のメカニズムについての具体的な情報を入れてみたことで、逆に3段落目の文章が予定調和にならないように普段より意識して書けた。

自分は意外とこの回は久しぶりに満足して書けたけど、なかなか読者には伝わらないだろうなと勝手に思っていたら、思いのほか感想もいくつか届いてとても嬉しかった。工夫してみたら、いろんなことが起きた好きな回。

もう一つの偶然は、この文章を書いている時に「イチョウを見てたら電話したくなった」っていう面白い人がいたこと。イチョウとチショウ。


誰かの跡をなぞって歩く


10.「この一冊、あの一日」 12月21日掲載

 「ブックサンタ」は、NPO法人チャリティーサンタ(東京都千代田区)が毎年クリスマスに行っているプロジェクト。さまざまな境遇にある全国の子どもたちに誰でも本を贈ることができる。参加方法は、賛同している書店で好きな一冊を選んでレジで購入して預けるだけ。実際に本を選ぶとなるとあれもこれもと欲張ってしまうものだが、悩み抜いた末に僕もお気に入りの一冊を選んだ。その日から、クリスマスをどこか楽しみにしている自分がいる。

 最近また、その本を読みたくなって自宅の本棚を探してみたが、なぜか見つからない。しばらくたったある日の朝、その本を以前にも人にあげていたことを何の脈絡もなく思い出した。

 2年前、厚真町に移住して初めての冬に、仲良くなった旅人がいた。全国を軽トラックで巡っていた彼こそ、この町でできた初めての友人だった。一言で表すなら剛毅木訥。自分の哲学を持ちながらも周りの人々や自然に向ける、真っすぐなまなざしに僕は憧れていた。またいつか会おうと約束し、僕はその時目に入った一冊を本棚から抜き出して手渡した。そんなこと、すっかり忘れていた。くしくも同じ本を今年のブックサンタに選ぶなんて、僕はよっぽどその本が好きらしい。

 振り返ってみると、これまでも何かにつけて人に本をあげることが多かった。誰にどんな本をあげたかなんてほとんど覚えていないし、あげた本を最後まで読むことも期待していない。ただ、あげた本をすっかり忘れて本棚を探してしまう時、あるいはいつか相手が部屋の片隅でその本を見つけた時、ありふれた幸せな一日を少しでも思い出せるのであれば、本はやはりすてきな贈り物だと思う。
〈了〉

苫小牧民報 12月21日掲載分 *掲載されたものに一部加筆修正

【裏話】裏テーマは「季節のにおい」

本当はこの回は「ピアス」についての原稿を用意していたけれど、たまたまこんな出来事があったので、クリスマス直前ということもあって、「ブックサンタ」とそれをきっかけに思い出した過去の話について書いた。

どんな内容だったかはそこまで関係なく、本はそれを読んでいた当時の自分のこともうっすら一緒に思い出すなあってことに気づいてから、前回もらった「季節のにおい」というお題を思い出したので、裏テーマをそれにして書いた。

においと記憶ってとても近い関係にあるんだよっていうのは、多くの人がどこかでいったり聞いたりしたことがあると思うけれど、その関係によく似た、本と記憶の関係が面白いなあと改めて感じた。幸せなことがあった日に本を読めばきっと、いつかその幸せな一日を思い出せる。だから僕はまた本屋に行く。

ところで、ブックサンタは24日まで受け付けているそうなので、気になった方はぜひ。ホームページを見てみると、規模の拡大につれて活動資金が不足しているらしいので(書いている時は知らんかった)、その支援という関わり方もできるみたいです。


最後に、僕の一番好きなクリスマスソングのリンクも貼っておきます。


「サンキューバイバイ、よいお年を」
ありがとうチバユウスケ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?