元彼のはなし

わたしには、元彼を思い出すポイントがある。

夜中のテレビショッピングだ。

彼とわたしが付き合っていた期間は短かった。

わたしたちはバイト先が同じだった。
いつもみんなのことをまとめてくれる、
リーダーのような存在だったと思う。

そんな彼と、
バイト終わりに駅まで
ダラダラ歩きながら帰るのが楽しかった。

今思えば、
あの距離感のままで良かったのかもしれない。

わたしにとって、初めての彼氏だった。

彼がわたしの家に来て、
一緒に夜ご飯のお買い物に行ったあと
暖房の効いた部屋で鍋を食べた。

わたしは床にお肉をひっくり返したし
ご飯の量はたりなかった。

そのあと夜のコンビニに行った。

別れたあともしばらくは
そのコンビニで撮った写真が
彼のLINEのトプ画だった。

帰るともう2時をまわっていて、
『テレビショッピングの時間』だった。

寝る?
と言われた。

寝ると明日が来て、彼は帰ってしまう。

もったいないね、
と言われた。

わたしもそう思った。

それから2人で
つまらないテレビショッピングに
キレのあるツッコミを入れながら、
真剣に、真剣にみていた。

テレビショッピングで売られていたのは
良い枕だった。

彼はふざけて、本当に買おうとしていた。
あと1回押せば買える画面までいっていた。

そのときわたしたちは、
付き合ってから
まだ一緒に出かけたことがなかった。

いつものスーパー、コンビニ。
そのくらいだ。

お互いが本気で恋をしていたのだろうか。
そのくらい、緩くて当たり前のような日常だ。

別れたあと
手を繋いでおしゃべりしながら歩いたこととか、
お肉をひっくり返したこととか、
テレビショッピングがつまらなかったとか、
でもなんか一緒にみたから面白かったよな〜とか、
シフト被ると照れくさかったとか、
そういうのが幸せだったと言われた。

わたしもそう思った。

別れて1年。

あなたに彼女ができたことを知っている。

トプ画は彼女と遊びに行った日のものだろうか。
コンビニとは比べ物にならない。

今日のテレビショッピングでは
スキンケア用品が売られていた。

わたしにも好きな人ができたよ。

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