iPad proで教材作成|予習編

高校生や高卒生に物理を教えています。

授業などで用いる教材を作る際、これまではノートPCを使っていました。iPad proの購入を決めたので、教材作成をiPad proで行う方法をアレコレ考えているところです。まだ現物が手元に届いていない現段階での予習状況を備忘録としてここに記します。

これまでの経緯やノートPC時代の話もアレコレ書いていたら長くなってしまいました。具体的なツールについて興味がある方は、ちょうど真ん中あたりから始まる「iPad proで教材をどう作るか」という章をお読みください。

※全文を無料で公開しています。

■ iPad pro購入の経緯

きっかけはTwitterでした。数学や物理を専攻している方々が「iPad proとApple pencilが良い」といったツイートをしているのを見かけ、調べ始めていくうちに購入に気持ちが傾きました。

値段がネックだったのですが、金利0のローン(いわゆるAppleローン)が利用できることを知り、iPad proとApple pencilを注文。

まもなくiPad proが届く!というのが現時点です。(Apple pencilだけ速攻で届いたのですが、まだ開封してません。それだけあっても……)

この記事では、現物が手元に届くまでに、iPad proでどのようにして教材をつくるか、ということについて考えたことと調べたことを書いていきます。

■ 教材の構成要素

さて、私がつくる物理の教材というのはざっくりと

 ・授業で配布するプリント
 ・テキスト
 ・テスト

の3種類です。どの教材も、その中身はざっくりと

 ・問題
 ・解答
 ・解説

の3つからできています(と、しましょう。とりあえず)

(教材)=(問題)+(解答)+(解説)

「問題」は、問題文と設問から成ります。また、設定や状況を伝えるため図やグラフがつくことも多いです。

「解答」は、設問への解答を指します。どう考えたか、どの法則を用いたか、何についての関係式か、などを説明する簡潔な文章がまずあります。もちろん法則や物理量を示す数式もあります。また、図やグラフで解答することもあります。

「解説」では、物理の理論や問題文・解答について噛み砕いて説明したり、補足したりします。「解答」は「問題」で問われていることに対する最低限のアンサーであるのと比べ、「解説」は長めの文章で説明したり、数式に対しても、計算過程を省略せずに長々と書いたり、理解を促すために図を多用するなどします。とはいっても、「解答」と同じように文章・数式・図・グラフで構成されることに変わりはありません。

以上のように、結局のところ物理の教材は

 ・文章
 ・数式
 ・図
 ・グラフ

の4つから構成されると言ってしまってよいでしょう。

(教材)=(文章)+(数式)+(図)+(グラフ)

したがって、教材をつくるためには

 ・文章と数式、図やグラフを統合する環境
 ・図やグラフをつくるツール

が必要となります。

■ これまではどう作っていたか

教材をつくる作業はすべてノートPCで行っていました。

以前は職場のノートPCをメインで使っていましたが、転職してからは、自宅のノートPC(Windows8.1)を使っています。数年前に家電量販店で、3万円程度で衝動買いしたマシンで、当時は職場のPCを使っていたので、メインで使うつもりはありませんでした。メモリも4GBしかありません…

教材をつくるためには、以下のツールを使っています。

 ・文章と数式、図やグラフを統合する環境: TeX
 ・図やグラフをつくるツール: inkscape

ノートPCにはTeX環境をインストールしています。コマンドラインは使わず、TeXworksというTeX用のエディタで数式を含む文章を書いてコンパイルまでします。最終的には教材はpdf形式で出力します。

図やグラフをつくるには、ベクター画像描画ソフトであるinkscapeを使っています。inkscapeは、Adobe社のillustrator(いわゆるイラレ)と同等の機能を持つフリーソフトとして割りと名前が知られているソフトかと思います。

inkscapeはよく「イラレの代用ソフト」のような表現で紹介されていることも多いのですが、inkscapeにはイラレにはない(補足あり)便利な機能があり、私はそこを気に入っています。

inkscapeにあるその「便利な機能」とは「関数のプロット」という機能です。

この「関数のプロット」を用いると、指定した数式が表す曲線を描くことができます。放物線もサインカーブも減衰曲線も描くことができます。物理の教材では問題や解答・解説でグラフを描かなくてはいけないことが多いのでこの機能は重宝しています。

物理の教材をつくるときには以下のような流れで作業しています。

(1)問題文・解答・解説の文章をTeXエディタで書く
(2)必要なときは、inkscapeで図をつくり、pdfで出力する
(3)TeXでpdfを読み込み、コンパイルし、教材全体をpdfで出力

もちろん(1)と(2)の順序は前後するときもありますが、使っているノートPCが貧弱で、inkscapeを起動すると途端に重くなってしまうため、なんとなく図の作成は後回しにしてしまうことが多いです。気分の問題です。ちなみに私はinkscapeでチマチマと図をつくる作業は嫌いではなく、楽しみながら作っています。(ノートPCのパワーが十分でサクサク起動してサクサク動くのであれば、重い腰を上げる…ような気分にはならなくて済むのでしょうけど)

(補足)Adobe社のイラレは持っていないのではっきりとは言えないのですが、調べた範囲では「関数のプロット」に当たる機能はなさそうです。(拡張機能とかあったりするのでしょうか?)ただし、JavaScriptのコードを書けば、同じことができる、という記事は見つけました。

■ 教材作成で変えたいこと

前の章で述べたように、これまではノートPC上でTeXとinkscapeという2つのツールを用いて教材をつくっていましたが、これからはiPad proを用いて教材をつくっていこうと考えています。iPad proを使うことで変えたいことは主に3つです。

 ・TeXの入力を楽に
 ・「手書き」を活用する
 ・移動中も作業できるように

これまではTeXで教材をつくることに時間がかかっていました。数式や表などの入力をもっと楽にできるとだいぶ負担が減ります。探してみると、数式や表の入力をアシストしてくれるアプリがあるようなのでそれらを活用していこうと思っています。

「問題」や「解説」などは、長めの文章であることが多いのでTeXで入力したほうが楽だし、そのほうが見栄えも良くなります。しかし、「解答」のように、文章というよりは、言葉の断片と図と数式が並ぶようなものは「手書き」で書いてしまった方が早いし、読みやすいです。Apple pencilを用いて、教材の中で「手書き」をもっと活用したいと思っています。

今回、注文したiPad proのサイズは11インチです。いま教材をつくるのに使っているノートPCと比べると遥かに持ち運びが楽です。移動中にも、教材の編集ができることを期待しています。

■ iPad proで教材をどう作るか

ここから現段階での構想について書いていきます。

これまでノートPCでやっていたことを、できる限りiPad proでも実現できるようにしつつ、前の章に書いたように、これまでよりも教材をつくりやすくすることが目標です。

したがって、以下のような項目について考えます。

 (1)TeX環境
 (2)TeX入力アシスト
 (3)手書きを含めたpdf統合環境
 (4)ベクター画像作成
 (5)グラフ作成

ところでiPadにインストールできるのは、iPadのOSである「iOS」用につくられたアプリケーション(いわゆるアプリ)に限られます。

ノートPCで使っていたフリーソフトをiPadでも使えるかどうかは、そのソフトの「iOS版アプリ」が作られているかどうかに依ります。

例えば(後述しますが)、ノートPCで使っているinkscapeというソフトのiOS版アプリはありません。(正確には、ないわけではない、ようなのですが、まともに使えるようなものではないようです)

したがって、単にiPad pro上にノートPCと同じ環境をつくる、ということだけでも、そんなに単純にはいきません。

ということで、具体的なツールの候補としては、大きく2つに分かれました。

 ・iPad proにインストールできるアプリ
 ・インストールせずにWEB上で使えるサービス

iPad proは強力な処理能力を持っていますので、インストールしてオフラインで使えるアプリがあればベストです。しかし、必要な機能をもつアプリが見つからない場合は、WEB上で使えるものを探しました。オンラインで処理をするので、ネット接続の状況に左右されてしまいますが仕方ありません。

では上で上げた5つの項目について具体的に書いていきます。まだ「予習」の段階なので、実際に使っていないものがほとんどです。

(1)TeX環境

ノートPCにしていたように、iPad proにTeX環境をインストールすることはできそうにないので、インストールせずにTeXを使うことを考えます。候補は2つ

 ・TeXエディタのアプリ
 ・オンラインのTeXサービス

TeXエディタのアプリについては以前から「Texpad」という名前を聞いていました。(現時点で¥2,400です)

評判の良さからインストールするならこれかな、と思っていましたが、現時点では、日本語の文書をコンパイルするにはオンラインで処理しなくてはいけないそうです。(dropbox上にファイルを置いておかなくてはいけないみたいです)…だったらWEB上のサービスを使っても同じかなあ(無料だし)

ということで、今のところTeX環境についてはWeb上のサービスを使おうと考えています。第一候補は「Cloud LaTeX」です。

TeXをインストールする必要がなく、ネットに接続さえできれば、どこでも、デバイスも選ばずにTeXが使えます。Dropboxと連携しています。

ただ、Twitter上では「Overleafが最強」という声も流れてきており少し迷っています。現時点では、若干の設定をすれば日本語も問題なく使えるようです。Cloud LaTeXとの比較は、使いながらボチボチ調べていきたいと思っています。

※2019/2/14追記※ Cloud LaTeX 、Overleaf ともに、現時点でiOSからは、アクセスはできますが、編集等はできないようです。後日まとめました

(2)TeX入力アシスト

TeXで長い数式や細かい数式を入力するのを少しでも楽にできるツールを探しています。調べながら「技術の進歩」というのを肌で感じました。便利な世の中になりましたねえ。

まずは「Mathpix」です。これは画像を読み込んで、写っている数式を認識し、その数式のスクリプトを表示してくれます。活字のものでも手書きでも認識してくれるので、数式の入力が非常に楽になりそうです。

と今になって再び検索してみるとアレ、iOS版がなくなっている……?
上のリンクはMac版なのでiPadにインストールはできません。つい2週間前にiPad miniにインストールして試していたばかりなのに……ちょっと様子を見ます。

気を取り直して次は「Mathkey」というアプリです。iPad上で手書き入力した数式をTeXのスクリプリトへ変換してくれるものです。(¥960)

Mathkeyで良さそうだなと思ったのは、キーボードとして使えるという点です。アプリを単体で起動して使うのではなく、エディタなどのアプリで文字を入力しているときに、そのキーボード内でMathkeyの機能を使って、そのまま数式の手書き入力ができるのです。

また、手書きの数式を認識してTeXスクリプトに変換してくれるものとしては「Myscript Math」というWeb上のサービスもあります。

数式だけでなく手書きの文章やダイアグラムなども認識する機能もあります。Myscript社は、以前から手書き認識で名前が知られている会社です。以前はiOS版の手書き数式認識アプリを提供していたのですが今はありません。その代わりに、手書きの文章、数式、ダイアグラムを統合的に扱うアプリ「Myscript Nebo」というものが提供されています。(¥960)

「Myscriptの手書き認識技術の結集!」という意気込みを感じます。今のところ私が求めている用途には合わなそうなので使うかどうかはわかりませんが、注目はしています。

また、数式に限らず、pdfや紙の文書から、文章を引用したい場合は、文字を認識してくれるOCRアプリを使うと入力の負担が減りそうです。多くのスキャナアプリにOCR機能がついているようなので、評判の良いものを1つだけ。「CamScanner」というものです。

(3)手書きを含めたpdf統合環境

TeX環境で作った数式込みのpdf文書を、手書きノートアプリで読み込んで編集していく、という方向性で考えています。参考にしたのは以下の記事です。

数学の講師をされている永島さんという方が、ノートアプリのGEMBA noteをどのように使っているか、という紹介記事です。2017年7月の記事で、1年半ほど経っています。現在は企業向けのアプリがメインのようで、個人向けのGEMBA noteのアップデートは2018年6月で止まっています。レビュー(がどこまで信用できるかは置いておいて)も低評価が多くなっており、別のノートアプリを探しました。

調べてみると「Goodnotes」「Notability」「Noteshelf」が手書きノートアプリの三大巨塔のようです。検索すると比較記事などがたくさん出てきます。

pdfの編集のしやすさから「Goodnotes」を第一候補として考えています。つい先日、「Goodnotes4」のアップデート版として「Goodnotes5」が提供されました。機能の移行は完了していないようなので、もう少し様子を見てみます。(¥960)

(4)ベクター画像作成

ノートPCでは図版をつくるのにinkscapeというベクター画像ソフトをつかっていました。iOS版のアプリがあればベストだったのですが…

レビューはなかなかの低評価……使い物にならなそうですので、別のベクター画像作成アプリを探しました。条件は、読み込み・出力のフォーマットとしてSVG・pdfが使えるものです。

有料のものとしては「Graphic for iPad」(¥1,020)や「AffinityDesigner」(¥2,400)など、いわゆる「イラレ代用」のアプリがいくつか見つかりました。



現時点で無料で提供されている「Vectornator」を今は第一候補として考えています。

(5)グラフ作成

最後にグラフをつくるためのツールなのですが、これが最も調べるのに苦労しました。

図版には、二次関数や三角関数、指数関数など数学的な曲線を入れる必要があります。ノートPCのinkscapeでは「関数のプロット」という機能を使っていましたが、(4)のベクター画像アプリには、そのような機能がなさそうなので探しました。

条件は以下の2点。

 ・数式を指定してグラフを描くことができる
 ・グラフをSVGやpdfなどの形式で出力できる

数式で指定したグラフを表示するアプリであれば、すぐにいくつか見つかりました。無料の「Good Grapher」というアプリは、二次元だけでなく三次元のグラフも表示することができます。

表示したグラフは画像として貼り付けたり保存したりできますが、SVGやpdfなどのベクター形式では出力できません。私の場合は、そうした形式で出力してベクター画像アプリで編集することを考えているので、そうした点ではGood Grapherは不十分です。しかし、数学や物理を勉強する上では非常に頼もしいツールだと思います。

また有料の「pocketCAS」(¥1,080)はより高機能で、ページ全体をpdfで出力することもできるようです。

ただ、ベクター画像アプリで編集しやすい形で出力されるわけではなさそうです。ページ全体なので、おそらく図版には不要な背景や、座標、目盛りなども一緒に出力されてしまうだろうと思い、やはり他を当たります。

理想としては、ベクター画像アプリで編集しやすいように、グラフの曲線だけを単独で、しかもSVGやpdfなどのベクター形式で出力してほしいのです。しかし、iOSのアプリを調べた範囲では、この要求に応えてくれそうなアプリは見つかっていません…

途方にくれていたときに、ようやくヒットしたのがWeb上の数式エディタ「Mathcha」でした。見つけたときのツイートを引用します。

このMathchaというツールは半年近く前に見つけていたものの結局使わずじまいでしたが、ここに来て曲線だけを取り出してSVG形式で出力できることに気づいたのです!

……ところが、ツイートにもあるように、手元のiPad miniでアクセスすると、うまく機能しないのです。PC版サイトをリクエストすると、なんとか全機能が使えるものの、動作がモタついてうまく使えない……

せっかく一件落着!と思ったのに、これではiPad proでもうまく使えないかも……

■ そしてiPad proが……

長々と記事を書いているうちに、手元にはiPad proが届きました! 早速、予習したツールを使って、実際に物理の教材を作ってみます。

また後ほど、その報告をします。

■ 終わりに

教材をつくることについて関心がある方の参考に少しでもなれば嬉しいです。

「iPad proで教材作成」シリーズ続編もあわせてどうぞ。

 『iPad proで教材作成|印刷編』
 『iPad proで教材作成|予習編−TeX環境について追記』


今後も具体的なツールを少しずつまとめていきます。

学ぶことや教えることについても書いています。

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