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飯を作り皿を洗いまた作る

 旧正月当日。昨日仕込んだ正月料理である大根餅の型に収まりきらずに耐熱皿に流し込んだ分を朝から蒸していた。米粉を蒸し上げるのに、小さい型でも一時間蒸し通す間に洗濯する。旦那Kは今日も昼過ぎにしか起きる気がないんだろうと私は台所に立って包丁を握ったまま、左手に持つ、今皮をむいたばかりのキウイにがぶりと齧りついた。

どうせこれが私の朝ごはんになる。

こちらの旧正月も日本の旧正月同様、「三が日は誰もがお休み」のコンセプトの下&ゲン担ぎの思想から「新年で入って来た福を掃きだしてしまわないように、三が日は掃除しない」と言われている。

 私は超ドライスキンのKが服を脱ぎ捨てる度に家の床に舞い散る角質(乾いた皮膚)の粉が雪のように舞い散っている洗濯機前の青いタイルにそっと雑巾を当てて、その降り積もった角質の雪を吸い取った。

ちゃんと伝統も重んじて掃き出したわけじゃないから文句ないだろう?

でも三が日は休みと言ったって、やっぱり家事は休みにはならない。どんなに手抜き料理であっても、味噌汁一つ作るのだって、ホウレン草と豆腐とお椀だけで成立するわけじゃない。食卓の上には見えない鍋やオタマと言った器具の片付けが自動的に皿數の上に加算される。

大根餅と果物に、日本の味噌汁の楽々朝ごはん。寂しいから棚の上に飾ってあった正月飾り(沙田柚、ミカン、餅、干支キャラクッキーもテーブルに並べて、ちょっと正月気分を盛り上げようとしてみた。奥には今年配ろうと用意した礼是がスタンバイ。(注:食卓の上)

結局のところ、掃除だけゲン担ぎでしなくても文句言われないだけで、炊事も洗濯も普通だ。普段通りだ。

わたしがやる事は普段通りだが、Kは完全正月モードだから、昨日の大晦日の買い出しでも、ちゃっかり自分でこんなものを買い物籠に入れていた。

コーンビーフの缶詰

コーンビーフ、スパム、これらクズ肉を寄せ集めて製品にされた系の缶詰は、スーパーでは堂々と売られない部位の肉も色々入っているから、当然ながら独特の臭みがあって、昔は本当に好きじゃなかった。

でも豚の臭みは牛のソレほどでもないから、スパムが定番朝ごはんのチョイスとして完全に立ち位置が確立されている香港に来てから食べる機会が増えて少しずつ、このクセのある味に慣れ親しむようになった。レバーもパクチーも同じだ。元々数少ない食べ物の好き嫌いだが、私は香港に来てから、更に好き嫌いがなくなった。

私と同じ、香港在住のミシェリーさんもYoutube動画で言われているように「香港に来て世界が変わった」
ホントにコレ、なのだ。文化が違えば食材の食べ方も変わる、それで新たな魅力に気づくということがとてもたくさんある。

が!

しかし!

東洋医学的にも「毒素」が強い、とされる牛肉の臭みは、鶏や豚なんかとは比べ物にならないから、未だに私はコーンビーフ缶がそんなに好きにはなれない。

でも、香港の定番サンドイッチに、「蛋牛治(ダンンガウジー)」=タマゴとコーンビーフのサンドイッチというのがあって、もちろん蛋牛治(タマゴビーフサンド)が有名なお店は、安物かもしれないけれども普通の牛肉を使って作っていたけれども、Kの中では、いや香港庶民の中では、高級な牛肉をわざわざサンドイッチに使うなど勿体ない話だろうから、コーンビーフで代替えしたのかと思う。

コーンビーフオムレツみたいなのを挟むサンドイッチ「蛋牛治(ダンンガウジー)」

正月の朝からKの欲望を満たすスナックのようなご飯ばかり食べている。
Kは本当に絵に描いたようなお子様メニュー好みのオッサンだから、放っておくと野菜を食べようとしない。

でも、Kは知らない。私がこっそりとこの中に大量の玉葱の超みじん切りを入れた事を。
そして、コーンビーフの臭みをかき消そうと隠し味にマヨネーズをちょい足しした事を。

マヨネーズは濃厚で強烈な塩気で結構色々なクセをかき消してくれる有能選手。

ここに来て色んな食材の可能性を見た私は、自分の苦手な食材をどうやって自分に食べさせるか、それをすごく考えるようになった。

満足したKが再びベッドにもぐりこんだ頃、そのままつけっぱなしのテレビに映し出された意外な画面に私の目は釘付けになった。

昔のアニソンは、歌詞も変にお子ちゃま向けじゃないですよね。

こ、これは・・・!!??

実は、自分の最新の動画を作った時に、ちょうど!思い出したトコだったのだ。

昔の香港が、どんだけ日本文化にどっぷりハマっていたかという事も書いた私は、その中でも自分が好きだった、だけども子供の頃見ただけで、二度と再放送も目にする事のなかったアニメ「未来少年コナン」

若い世代の人たちは知らないだろうけど、アラフィフオバハン世代になると、コナンと言えば「未来少年コナン」の事だったの。

名探偵コナンの話をしているんじゃないよ。


このコナンじゃない。
ま、もちろんこっちのコナンも放映されて大人気でしたけれども。

このアニメだって、ちゃんとタイムリーに香港に輸入されて人気を博していたという驚きと喜びを、動画にさりげなく忍び込ませようと思いつつ、より知名度の高い「ドラえもん」や「キャプテン翼」などの紹介に留まってしまった事に残念な気持ちがしていた、このタイムリーなタイミングで、「未来少年コナン」の日本語の題字テロップがテレビから表示され、思わず声をあげた。

「うおっ!」(←オッサンの反応)


ちなみにコレが、未来少年コナンを入れそこなった私の最新動画↓↓

https://www.youtube.com/watch?v=0XV6CVjcNAc

あまりのタイミングの良さに、不思議な気持ちでテレビを見つめる私。
そして、香港なのに中国語が混じることなく、まるで日本であるかのように進んでいく画面。

歌詞のスケールのデカさよ

未来少年コナン、1978年にテレビ放映されたアニメだが、ここ香港でも当時の他のアニメとは違って、格段の画面の美しさ、キャラの美しさ、独特の世界観に皆驚いたそう。(K談)

日本アニメの精度の高さよ

あの、宮崎駿氏のテレビアニメだ。

高立的未来世界(未来少年コナン)

主題歌が終わって、本編が始まってもアレ?中国語の字幕が出ない?何故?

と思っていたら、「当時はそんな耳が不自由な人達の事なんかまで考えられてなかったから、吹き替えだけでやってたんだよ」とKが教えてくれた。

つまり今ココで再放送されているコナンは当時買ったままの状態で、後から字幕を補充する事もなく、そのまま放送されているんだ、という状況も何だか私を興奮させた。

正直、当時保育園児だった私は、コナンのストーリーを完全に忘れてしまっているけども、自分が「子供の頃、大好きだったアニメ」という記憶だけは長く残っていたのだ。10年に一度ほど思い出しては、いつか再放送を見たいと思っていた。

それが、まさかこの香港で叶うとは!

それにしても、当時はアニメ製作も今ほど環境が整っていなかっただろうに、背景の緻密さや、今見ても全く古さを感じさせないスケールの大きなストーリー設定のクオリティの高さに驚きの連続で、その日朝から漠然と抱えていた「飯を作り、皿を洗い、また次の飯の支度をする。どこにも出かけずこうしてダラダラと過ごす旦那の世話をする」事にモヤっとしていた気持ちが一瞬でどこかに吹き飛んだ。




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