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景色と写真と思考

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各地の景色と思い出コラム。
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雨上がりの横浜

雨上がりの横浜



横浜はシワシミのない洗い立てのシーツみたいな、端から端まできちんと手入れされた状態が常に保たれているように感じる街だ。同じ港町の神戸ほどゴシック建築的な重苦しい感じはないし、海も比較的透けているし、もし私がこの街で暮らしたら労働意欲を失ってのんびり暮らすことを人生の目標にし始めてしまう自信がある。それほど魅力的で空気が良い街。

横浜が聖地の『恋は雨上がりのように』のタイトルよろしく、午後から

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東山魁夷館

東山魁夷館

呼吸が浅いなあと思いながら、13時の待ち合わせへ向かった。善光寺門前街の坂で簡単に息が上がる。喉仏に張り付く黒のタートルネックとニットのロングコートを着てきたことを後悔した。自分から重いものを背負ってしんどがってる自分はアホやなと思った。それでも黒やゴシック建築みたいなどっしりしたものは、自分にとってはお守り感があるからどうしても背負いたくなる。

かつて神戸市立博物館のようにずっしり中身の詰まっ

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夜の大阪とパガニーニ

夜の大阪とパガニーニ

大阪の景色で思い出すのは夜ばかりだ。
仕事終わりにミナミに向かうための阪神線、キタに向かうための環状線、副業をするためにオフィス街の空いたカフェを狙って堺筋線、たまに海が見たくて南港へ向かうための中央線。もっとも快適な阪急線にはご縁があまりなかったらしい。
そんな車内で初冬になると毎年聴き、今でも11月ごろになるとつい再生してしまうのがニコロ・パガニーニ。コンビニの袋と手で大事そうに包んだチューハ

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夜の大阪中之島

夜の大阪中之島

ある人が「私はもともと後ろ向きですが、」と聞いてもいないのに人前で言い出したのを思い出す。あ、それ舞台に立ちながら言うてまうんやと吐き気がしたのを覚えている。
明るい人間を無理して演じていますといえるくらいなら、それは後ろ向きではない。本当に後ろ向きなら頑張ってますと主張することすら放棄している。本当に後ろ向きなら処理し切れず主張せずとも勝手に溢れ出している。主人の自分の頭ですら手に負えず疲弊して

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軽井沢の午後と赦し

軽井沢の午後と赦し

写真が暗いと昔からよく直しが入る。明度や色温度マイナスの許容範囲が人より低いのが原因ではあるが、撮る人間が暗いのだから仕方ないし、明るい写真が常に善とはえらい短絡的やなと腹の底では思っている。

軽井沢にいると、なぜか暗くても赦される感じがする。居心地がいいから、そういえばちょこちょこ行っている気がする。湿度が合うのだろう。冬など徹底的に寒いし、早朝の新幹線で通過するときはよく霧っぽい。でもどこか

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