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かんぺきな制度……?

 第24回JDA秋季ディベート大会に「ディベート実験室SSM」チームで出場し,優勝しました.しばらくディベートはできなさそうなので,それなりにやりきった感のあるシーズンになり良かったです…….

 毎度のことになりますが,大会を開催してくださったスタッフの皆さまやご参加のジャッジ・選手の皆さま,そしてめちゃくちゃ楽しいシーズンにしてくれたチームメイトと,永遠に画面に向かって早口で話し続けるわたしを見守ってくれた家族には感謝してもしきれません.ありがとうございました.

 本大会の論題は「日本は国会を一院制にすべきである」というものでしたが,決勝戦で否定側の我々はカウンタープラン(対抗政策)として「零院制(国会の廃止)」という政策を提出し,「零院制のほうが望ましい制度のため,一院制にすべきではない」という議論を展開しました※.いわゆる政策形成パラダイムを前提とした議論です.

 今回はこの「零院制」の原稿公開のための記事です(もうぼくは二度と使わないので,後は野となれ山となれという気持ちです).

 下記URLのチャンネルで試合内容は公開されていますので,よければご覧ください.また,速すぎて聞きづらい方には,公式で作成いただいているトランスクリプトも参照いただけます.

※主審の方も講評で仰っていますが,これは試合におけるフィクショナルな立場であり,実際の思想信条とは無関係です.


1.原稿

 さて,早速ですが,原稿はこちらで閲覧可能です.ネガティブブロック用の原稿も入っています.

 また,パートナーが中心に作ってくださった我々なりの零院制対策も貼っておきます.他チームが誰も零院制を使ってくれなかったので対策の効果は未知数ですが…….


2.基本的な発想

 一院制にすることのメリットとして最も想像しやすく,実際に見込まれるのは「決定の迅速化」です.今シーズンは,多くのチームが肯定側で「いくら審議をしても,政策のリスクを正確に判断することには限界がある.一方で,素早く対応しないと被害の大きくなる政策課題は増えている.このため,基本的に政治システムは意思決定コストを下げて迅速に政策決定を行い,後からそれを評価することが必要だ」との思想を中核に据えていました(決勝戦のケースでも登場した川﨑(2009)などがその典型です).

 このアジャイル民主主義とでも呼べそうな発想は,複雑系理論やリスク社会論の系譜を継ぐような面白い議論なのですが,すると当然に,「じゃあ,逆に衆議院を残す意味はどこにあるんだ?」と思ってしまうのが人情というものです.そこで今シーズンでは,他チームに「そこまで言うなら国会無くしたほうがいいんじゃないの?議会で議論する意味って何?」と問いを吹っ掛けるため,零院制の議論を初期から構想していました.

 冒頭のシュミットなど,かなり思想強めなエビデンスも使っていますが,これらは元から知っていたというより,「こういうこと言ってそうな理論家は誰だろう」と仮説を立てて見つけていました.シュミットが特別好きというわけでは全くないです.ムフとかは好きですが…….


3.ディベートの戦略上の意義

 このように発想は単純なのですが,零院制は「ディベート的に強い」ところが多々あります.いくつか挙げてみます.

内因性の分析に乗っかり,オーバーライドできる:シンプルに,決定の迅速化や責任の明確化といった肯定側の挙げる課題を,一院制以上にクリアに実現することができます.肯定側も「二院から一院にする」というアクションをとっている以上,一定程度「議会での議論には(そこまで)意味がない」という前提を共有しているので,反駁しづらいです.

解決性アタックが有効:内因性を肯定側と共有すると,あとは「問題の解決幅」の勝負です.そこで,議員固有の問題として「プランをとっても真面目に難しい政策課題には取り組まない」といった筋の反論は,通常のDA同様いくらでもケースに対して行っていけます.

CPDAに対しても対策手段が多い:肯定側の対策として想定されるのは,やはりCPDA(カウンタープランから生じるデメリット)を提示することです.そこで想定されるのは,「議会が民意を吸収している」「議員が審議を通じて政策の質を高めている」といった議会の固有の価値を提示するものです.しかし,零院制も首相の選挙や国民投票を通じて民意を吸収できますし,何より肯定側自身が「議院内閣制のもとでの一院制」という権力集中的な制度を採用しているため,CPDAは固有性が立ちづらくなります.


4.弱み

 一方,当然弱みも多いです.挙げだすとキリがないのですが,たとえば以下のような点が,特にクリティカルなポイントとしては挙げられそうです.

①そもそも回らない:議会の議員も,なんだかんだ言って政策決定過程で様々な役割を担っています.多くはないですが,外交で閣外の議員が役割を果たす場合もあります.そうした役割を切って,公選首相とお友達だけで決める仕組みはそもそもワークするのかなんだかよく分かりません.

②マイノリティの意思が反映されるチャネルがない:「全国区の選挙でえらばれる首相+熟議を経ない国民投票」という組み合わせでは,色々な少数派の利益が切り捨てられるリスクがありそうです.人種やジェンダーといった観点とは異なりますが,たとえば特定地域に対して負担を押し付けるような政策がまかり通ったり,そこまでいかなくとも地域へのリソース配分が軽視されたりする傾向が生まれそうです.多元的な利害を代表した議員が論争するアリーナがやはり必要だ,という主張は,王道ですが説得力があります.

③本当に決定コストが下がるのかよくわからない:決勝戦ではなんとなく雰囲気でごまかしていましたが,国民投票が新たな拒否権プレイヤーになる可能性は高いと思います.人口の1%という署名要件はそこまで多くないので,たとえばリベラルな政策が導入された直後に保守派が国民投票で否決する,といったことは容易に考えられます.その際のポイントは,「国民」を一枚岩ととらえず,色々な利益団体の存在に思いをいたしてみることでしょうか.

④そもそもあんまり競合性がない:決勝戦の審判の方もおっしゃってましたが,そもそも国会廃止以外の制度は基本的に同時採択が可能※なので,肯定側が首相公選制や国民投票の固有の強みを主張されたくない場合は競合性アタックも選択肢になってくるでしょう.ただ,その場合は「議会と公選首相を並立させることで時にねじれ国会より深刻なデッドロックが起きる」といった問題や,議会の分だけ拒否権プレイヤーが多いという問題が生じそうなので,個人的にはオススメしていません.

※トピカリティをめぐる深遠な議論になるので詳述しませんが,たとえば「国会を経由しない決定」も一部同時採択して,「地域利害がかかわるので,予算案だけは国会(衆議院)を残して決めます」と主張することとかもできるかもしれません.


5.感想・まとめ

 とても雑なまとめになってしまいますが,この議論を練習会や本番で出すことを通じて,様々な視点で議会制民主主義というものについて考えられました.アジャイル・ガバナンスの時代に,さまざまな権力の渦巻く議会という場での「熟議」にどのような意味があるのか.これを機に皆さんのアイデアをぜひ聞かせてください!

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