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従業員からの未払い社会保険料の回収について

私傷病休職による長期欠勤等により、支払うべき給与よりも社会保険料本人負担額が上回ってしまう場合には、社会保険料を控除し切れない事があります。
当該従業員から不足分が振り込まれるならば問題ありませんが、未納のまま退職され、支払いが為されない場合には会社は対応に苦慮することになります。

当該従業員に退職金がある場合には、相殺により一括控除が可能です。
但し、賃金から控除できるのは労働者が負担すべき前月の社会保険料に限られており(健保法第167条1項、厚年法第84条1項)、一括控除額に前々月以前の社会保険料が含まれている場合には、労基法第24条1項に基づく労使協定(24協定)にその旨を定めておかなければなりません。

この場合も、民事執行法第152条2項で、「退職手当及びその性質を有する給与に係る債権については、その給付の4分の3に相当する部分は差し押さえてはならない。」と定められており、さらに民法510条で「債権が差し押さえを禁じたものであるときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。」とされていることから、労働者との同意なく、退職金支給額の1/4を超えて退職金から社会保険料を控除することはできないので注意が必要です。

退職金から控除できない場合、法的手続きより先に支払催告書の送付等により督促を強化するのが一般的ですが、稀に悪質な従業員から、「社会保険料は法律上、賃金から控除できるのであって、賃金から控除できない場合に直接振り込む義務はない。振り込めというなら法的根拠を示せ。」と開き直られる事があります。

この場合には、以下の行政通達を示せばよいでしょう。

健康保険法(厚生年金保険法)は事業主に対して被保険者の負担する保険料についてもその納付する義務を課し、その義務履行の一方法として報酬から控除を認める規定を設けているものであって、事業主が報酬から控除をなさないで、被保険者負担の保険料を立て替え納付した場合でも、当該負担部分はあくまで被保険者の負担すべきものであり、事業主はその部分について私法上の求償権を有するものである。

昭和25・6・21 保文発1418


  〔三浦 裕樹〕

Ⓒ Yodogawa Labor Management Society


社会保険労務士法人 淀川労務協会



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