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傷病手当金支給申請と休業補償給付請求と雇用契約の解消

例えば、上司からのパワハラが原因で精神疾患に罹患し休業を余儀なくされたと主張する者は、まず労災保険への休業補償給付請求を検討する事になります。
精神疾患がパワハラの影響を受けて発症した事が明らかな場合であっても、それが労災認定基準をクリアするか否かは別問題ですので、業務起因性が伺える精神疾患だけれども労災保険による給付は受けられないという事は起こり得ます。
因みに、令和4年度の労災認定率(請求件数に対する支給決定件数)は35.8%です。

労災請求を考える中で、認定は簡単ではないという事が分かりますから、この請求件数には、箸にも棒にも引っかからないような事案はほとんどなくて、それなりに過酷な精神的苦痛を強いられたケースが大半を占めるであろうという事が想像されます。
その中で、3割強しか認められないのが現実です。
そして、仮に労災認定されたとしても、審査には半年から1年程度を要するとされています。

一方、健康保険の傷病手当金支給申請であれば、精神疾患であっても申請から2週間~1か月程度を目安に支給されます。

経済的に余裕がある方なら良いですが、認定されるかどうかも分からない、認定されたとしても最低半年はかかるのであれば、労災請求を諦めてしまうことが想定されます。

そこで傷病手当金と休業補償給付の重複請求が認められており、傷病手当金を受給した後に、労災認定され休業補償給付を受けた場合には、傷病手当金を返還することになります。

この重複請求期間中、労災の可能性があったとしても、一般的に会社は就業規則の定めに基づいて私傷病休職制度により休職期間を設定します。

例えば、会社の休職制度の最長期間が6か月の場合、労災認定・否認の判断が示されないまま、休職期間満了日が到来し、復職出来る状態に無いシチュエーションが考えられます。

労働基準法第19条1項では、業務上の怪我や病気の治療のために休業する期間とその後30日間は、原則、解雇することが出来ないとされており、休職期間満了(退職事由到来)による当然退職(自然退職)が「見做し解雇」として同条の解雇規制にかかるのではないかとの懸念が生じますが、この場合でも、休職期間満了日時点で労災認定を受けていないのであれば休職期間満了による退職は有効に成立します。(勿論、私傷病休職の満了による当然退職の使用者判断そのものが、休職期間の長さ等を理由に合理性を欠き無効とされる場合もある)

但し、後に労災認定を受けた場合、当該休職期間満了による退職は無効となり、休職期間満了時に遡って労働者の地位は回復されます。

同時請求ではなく、傷病手当金だけを申請していた労働者が休職期間満了の直前になっても復職できる心身の状況にないので、休職期間の特例的な延長を求めるために、労災請求を重ねてくることもあります。

この場合、基本的には休職期間の延長を認める必要はないのですが、労基署による労災認定の調査は当事者や同僚へのヒアリング等、会社側の負担も大きいので、特例的な配慮を検討される会社もありますね。

三浦 裕樹/MIURA,Yūki

Ⓒ Yodogawa Labor Management Society


社会保険労務士法人 淀川労務協会



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