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《Yogee New Waves》大航海の旅の先に見た永遠

三連休の最終日、春分の日だった3月21日。
春と冬の装いのちょうど真ん中に立たされたこの日は、東京のビル群の真ん中にポカンと空いた日比谷野外音楽堂でYogee New Wavesのライブが開催された。

"Yogee New Waves Special Live SPRING WAVE"

冬が終わり、春を迎えたことを実感させるように明るみの夕刻。まだまだ肌寒い。だけど彼らの音楽をどうしても外で感じたいという人たちがこの場所に集まっている。みんな同じ気持ちだ。
波の音と共に彼らがいつもの感じで、ふらっと出てくる。1曲目の"Hello Ethiopia"の演奏が始まるとチケットのSOLDOUTになった満員の野音に音が染み渡っていくのが分かった。
少し構えていたオーディエンスが曲を重ねるごとに柔らかくなっていくのが分かる。ヨギーの音楽は心を解いていく魔法がある。ただ、発声禁止とマスク着用が求められている現状はやっぱりどのライブでもかなりのハンデとなり、気持ちのいいグルーヴを客席と作り出すのには少々時間を要してしまう。
それでもそこにもどかしさを感じさせない彼らの演奏には、彼ら自身が何よりも自分達の"Yogee New Wavesの音楽"を信じているからというところにあるのだと感じた。

"Ride on Wave"でオーディエンスの心をグッと掴み客席を揺らすと、"Toromi Days"と"Sunset Town"を続けてしっとりと演奏。すっかり暗くなり、夜に包まれた東京の街を染めていた。
"Sunset Town"はこの楽曲がリリースされたばかりの頃、下北沢の街を歩きながらいつものように聴いていた思い入れのある曲。ヨギーの楽曲は様々な時間帯、様々な景色に色を点けていく。僕にとっては2015年頃の下北沢や東京の空気に親和性があると感じていたが、恐らくいろんな街、いろんな国のいろんな景色に色をつけているはずだ。音楽が街に溶け込んでいく。それがとても美しいことであることを彼らの音楽で初めて知った。
ここで一部が終わり、一度メンバーが捌けていく。どういうコンセプトで2部構成になっていたのか最後まで分からなかった。ただ、休憩中に見渡した客席はみんないい表情をしていた。

休憩明けて、角舘健悟は半袖で再登場。やっぱり彼は永遠に青春を駆け抜けるつもりなのだろう。最高だなと、心から思った。
夏を感じさせるギターのアルペジオが鳴る。1曲目から"Summer of Love"。そりゃそうだ、僕らはいつだって未知と遭遇していたい。永遠に青春を駆け抜けるならそうこなくては。
そこからの"Understand"の流れはあまりに眩しくて心のトキメキが止まらなかった。"Suichutoshi"から"emerald"へのアルバム同様の流れに思わず引き込まれ、"SISSOU"のイントロには思わず"透明少女"かと思ってしまった。

"HOW DO YOU FEEL?"のイントロに思わずグッときそうな胸を抑えた。個人的に2021年を象徴していたのがこの曲だった。あてもなく深夜バスに乗り、目的地に着くまで外を流れていく街灯と街並みを眺めながらこの曲を繰り返し聴いていた夜がいくつもあった。あの頃の自分は死に場所を探していたのかもしれない。あまりに無機質で、この世なのかどうかも分からない深夜の静まり返るバスの車内で聴いた優しい歌のことを思い出した。「だんだん時は経ってくよ」、その意味が幸せなのか不幸せなのかも分からなかった。それでも手渡すように優しく歌う角舘健悟を信じるしかなかった。
今、目の前で彼らがこの曲を演奏している。ただ自分が生き延びることができたのはこの音楽があったからと言っても過言ではない。信じてもいい音楽は確かに存在する。お守りのような言葉たちだ。そう思った。

思えばここまで一切MCを挟まないままライブは進行した。アップテンポな曲とメロウな楽曲が交互に演奏されたり、セットリストの流れに少し違和感のある部分もあった。ただ、そこに彼らの旅路をどこか見ていた気がする。
いつもヨギーの音楽には「旅」を感じている。どこか遠い異国の雰囲気や、はたまた隣町の緩やかな街の景色だったり山奥の小さな小川だったり、賑やかで色鮮やかなお祭りだったり。彼らが作り出す音楽からはそんな景色が見えてくる。そして、ライブになると彼らはその旅に僕らを連れて行ってくれる。遠い知らない街のことをそっと教えてくれる。どこまでも行きたい気分だ。

彼らの初期の代表曲、"Climax Night"が演奏される。こんな夜のクライマックスにこれほどにまで丁度いい楽曲がある。どこまでもドラマチックなバンドだなと思った。
きっともうこの曲で終わりだろうと正直思っていた。実は"HOW DO YOU FEEL?"で終わりでもいいのではないかと思うほど素晴らしかった。ただこの夜はまだまだ終わらない。
新しいアルバムに収録されている大名曲"JUST"、ライブの大定番曲"Like Sixteen Candles"、そしてYogee New Wavesを最も象徴している楽曲だと思っている"Dreamin' Boy"までを駆け抜ける。
「愛にまかせ 風にまかせ」、こんなにもワクワクする歌があるだろうか。まだまだ終わらない僕らはDreamin' Boyであり、Dreamin' Girlだ。
"HOW DO YOU FEEL?"からのこの流れはどこをラストに持ってきてもおかしくないほどだった。常に1曲1曲を丁寧に演奏し、とにかく楽曲を詰め込んだ彼らの集大成のようなものを感じるライブだった。

本編が終わりアンコールの手拍子が起こるも、正直アンコールがなくてもいいほどに素晴らしいライブだったと心から思った。しかしまだこの夜を終わらせたくないという気持ちで、彼らが戻ってくることを求めた。
アンコールで出てきた彼らの表情は本当にやりきった顔をしていた。それがとても美しかった。

充実感の中、"Good bye"と最後にはライブのタイトルにもかかっているEP『Spring Cave』に収録されている"Bluemin' Days"を演奏して、彼らの初の日比谷野音でのライブは幕を閉じた。「またどこかで会おうね」という健悟くんの柔らかな言葉が余韻を残す日比谷の空気はどこか優しい温度がした。


翌日、ニュースになっていた通りYogee New Wavesからベースの上野恒星がこの日限りで脱退することが発表された。

なんとなく腑に落ちる感じはした。いつもとは違うあまりにも特別すぎる夜だったからだ。
どの楽曲もいつも以上に丁寧に、大切に紡いできた時間をなぞるように演奏していた。そしてとにかく音楽を楽しんでいたように思った。何も言葉では伝えなくとも、今日が特別であるということがとてつもなく伝わった。正直なところ「解散するのかな?」とすら思ってしまうほどの熱量と充実感があった。
それはライブ終わりのステージ上の彼らの表情にも表れていた。終わってしまった寂しさと喜びとが混ざり合った充実感。きっと彼らが過ごしてきた、僕らには計り知れないバンドでの長旅の時間が詰まっているからなのだと思う。
Yogee New Wavesというバンドは、これ以上ないバンドらしいバンドだと思っている。Yogee New Wavesというひとつの生命体。Yogee New Wavesというみんなを運んでくれる大きな船。
1人乗組員が新しい大陸を目指して違う旅に出ていくけど、Yogee New Wavesの旅はきっと永遠と終わらない。その旅に僕もずっとついていきたい。そう感じるほど、あまりにも美しい時間だった。

アンコールの最後に演奏した"Bluemin' Days"に関して、以前インタビューで角舘健悟はこのように話していた。
この美しさを僕はきっとこの日見たのかもしれない。冬から春になるこの季節の中で。

孤独であるがゆえのひとりよがりな状態のなかに、〈いまが成長段階なんだろうな〉というのが垣間見られたり、〈そこから吹っ切れたな〉とわかったり、そういう変化していく瞬間を俺はすごく美しいと思っています。それは人が成長した瞬間だし、冬から春に変わる瞬間とも似ていて、“Bluemin’ Days”で歌いたいことのひとつでもあった。ブルーな気持ちから〈花束をあげよう〉と思うまでの過程。それって本当に美しいから。

https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/17231?page=2

セットリストはこちら↓



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