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最近読んで面白かった本「サピエンス全史」


いよいよ文庫が来ました

ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史・上』(河出文庫)。日本では2016年に初版が発行され、人類の歴史を総ざらいしてきりっとした文章にまとめたわかりやすさが人気のベストセラーだ。ほんのここ数年で多く本を読むようになった私にとっては、すでに教養書界隈であまりにもメジャーすぎて「今さらこれ読むの?」みたいな雰囲気を感じてしまい読むのを先延ばしにしていた。

ところが2023年末にとうとう河出から文庫化をしてくれたので、いい機会と思い読んでみたらこれがもう人生で五本の指に入るレベルの面白さだった。もともと進化生物学などの「大局から見たら個体は大したことない」的な気持ちを想起させる話題が大好物だったり、「文明の導入は人類を幸福にしたか?」「あらゆる文化の共通点から見える人間の本質は何か?」といったテーマに大変興味があったのでまさにドンピシャ。

ページをめくるごとに新たな発見があり、知的好奇心をうまくくすぐるレベルの難しさも心地よい。曖昧な語尾で正確性の余地を残す姿勢を切り捨てた言い切り型の「読み物」として書かれているため、著者の主観が大いに反映されている内容や2024年現在では新たに科学的検証・内容の更新が必要な部分もあるとは思う(原著は2011年出版)。がしかし所々に示唆やジョークを交えながら、一般人の私でも楽しめる内容で人類史の俯瞰をまとめあげてくれた功績は現在でも高く評価してしかるべきと感じる。

特に面白かったのは、農業革命が人類に幸福をもたらしたかどうかについて語るパート。

狩猟採集の時代を経て農業を始め、小麦を家畜化(小麦に家畜化されたのがホモ・サピエンスの方である、との示唆も加える)。しかし結果として格差構造が生まれ、多くの個人にとってその暮らしは奴隷のように劣悪極まりない状態となり"進歩"とは到底呼べない変化がもたらされた。苦しい農業をやめスローライフに戻りたくても、すでに増えた人口を維持するためには狩猟採集だけでは家族・仲間の食糧を賄いきれない。

一方で種全体の数は増え、のちの時代の繁栄に繋がってはいく。進化的観点で見れば、種の成功は「DNAの複製数」によってのみ決まるため人類もまた"成功"した種と言える。多くの人を(どんな環境に置くかに問わず)生かしておく能力こそが農業革命の真髄である。

というような話。いやー面白い。こういうものを知っていくと私個人の人生など、人類全体の営みからすればどうでもよい(だからこそ好きなことをすればいい)し、どんなに生命進化への冒涜で不自然だと思う行為に耽ろうと、それすらもまた寛大な自然史に吸収されていくのだという心地よい無常さを感じる。

引き続き下巻も読んでみたい。


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