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別に調子に乗ってるわけじゃないからね。

一昨日、サンキュータツオさんと一緒に、「アフリカの言語で科学用語を作成する」というNatureの記事について話し合った。


せっかくなので、今日は自分が研究時代に使っていた科学用語について書く。

生物系の研究室では大体どこでも、週一回くらいのペースで論文紹介をやっている。
「ジャーナルクラブ」とか「輪読」とか、名称は様々だ。
毎週持ち回りで、最新の論文や自分たちの研究にとって重要な論文を紹介する。
試しに、いま適当に考えた架空の論文を紹介してみる。

「筆者らは、RNAiライブラリーを使って、ノンスモールのプロリファレーションに関する遺伝子を網羅的に調べました。今日の論文で主にフォーカスしているのは、キャンディデートジーンとしてアイデンティファイされた20個のうちの一つで、この遺伝子がオーバーエクスプレスされることで、セルサイクルが速やかにG1からSフェイズへ、プログレスすることが示されています」

自分で書いていても、カタカナだらけだと思う。
これはやや英語(カタカナ語)に偏った例で、学会だともう少し日本語が多めだと思う。
でも、これぐらいの割合が楽だという研究者も多い。
つまり、気を抜くとカタカナだらけになる。
論文が英語で書かれているので、そこで使われている単語を日本語に訳さない方が頭は楽なのだ。
ちなみに、この現象は英語力とあまり関係ない。
私は英語をうまく話せないし、留学経験もない。
英語を流暢に話すためには、語彙や文法力、リスニング力、慣れ、など様々な要素が存在する。
それに対し、カタカナまみれの発表をするには、限られた数の専門用語を英語で知っていればいいだけだ。

とはいえ、研究を始めたばかりの頃は結構大変だ。
そもそも教科書に載っていない専門用語もいっぱいあるので、日本語だろうと英語だろうと、意味が分からない。
一年くらいすると慣れるが、知らない言葉や現象を英単語で言われるのでより一層混乱する。

上の例を英語(カタカナ語)を入れずに書くと大体以下のようになる。

「筆者らは、RNAiライブラリーを使って、非小細胞(癌)の増殖に関する遺伝子を網羅的に調べました。今日の論文で主に注目しているのは、候補遺伝子として同定された20個のうちの一つで、この遺伝子が過剰発現されることで、細胞周期が速やかにG1からS期へ進行することが示されています」

だいぶ日本語の単語が増えた。
このくらいの感じで話す人もいる。
多くの人は、上の例との中間くらいだ。
今まで自分は、日本語と英語の両方があって、面倒だと思っていた。
英語の専門用語を日本語に乗っけて話せば、事足りるのではないかと思っていた時期もある。
しかしそれでは、他のコミュニティの人へ説明する時にかなり困る。
考えてみたら当たり前だ。
明治期から、科学用語を日本語に翻訳し続けたからこそ、学生時代に理科や数学を母国語で勉強できた。
余計なことに頭を割かず、科目の内容だけに集中できたのは幸いだったと思う。

少し断っておきたいのは、最初から英語で勉強することによって、国際競争力的な何かを磨こう、みたいな視点は必要だと私も思う。
のちのち英語で苦労した身からしても、そういう試みはあっていい。
しかし、語学教育が半端なままで、理系科目を英語で習わされることを考えるとゾッとする。
きっとそれが理由で嫌いになっていたに違いない。仕事で何かやろう、とか、最先端を知りたい、というのなら話は別だけれど、初めは慣れ親しんだ道具(言語)で学習を開始した方が効率的だ。
やりやすければそれだけ多くの人が続けられるし、興味を失わない。
科学用語を翻訳する仕事それ自体、とても大切な科学コミュニケーションだと思う。

それにしてもコンピュータやプログラミング関係は全く翻訳する気ないよな、と勉強するたびに思う。
どんどん新しいものが出てくるからそんな暇はないのだろう。
でも初学者(私)にはちょっと手厳しい。

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