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中国製電動車"不当な補助金"の調査に思うこと

2023年9月20日。
中国製の電動車が不当な補助金を受けEUで安価に販売されている疑いで調査に着手する意向を欧州委員会のフォンデアライエン委員長が表明した。正式な調査開始から9カ月以内に暫定的な反補助金関税を課すかどうかを判断することになる。その後の調査で不当性が確認されれば正式な措置へと切り替えられる。

EU市場での中国製電動車のシェアをみると、3年前の実質0%から8%へと急上昇した。今後2年でさらに15%に膨らむ恐れがあると欧州委はみている。

シェアが急速に増えているのはEU製に比べ価格が平均20%低いためである。この差は製造コストの違いから生じている。UBSの調べによると、VW「ID.3」のコストはBYDの競合モデル「シール」に比べ35%も高いのだ。

この差の原因の1つは電動車分野の競争力強化に中国政府が15年以上前から注力してきたことがある。内燃機関車では西側企業に太刀打ちできなくても、電動車であれば逆転可能と読んだわけである。これが奏功し主要部品の電池分野で先行者の強みが発揮されている。欧州市場で販売されている中国製電動車は国の支援がなくても割安だとの指摘がある。

しかし補助金が国際競争力を高めているのも確かなようだ。通商問題に詳しい経済学者のガブリエル・フェルバーマイル氏は『フランクフルター・アルゲマイネ』紙に、中国の補助金は欧州と比べて規模がはるかに大きく、サプライチェーン、エコシステム全体が助成を受けていると指摘した。欧州委の反補助金調査は自動車メーカーにとどまらず、原料調達を起点とするサプライチェーン全体を対象としたものになるもようだ。

中国の電動車生産能力は急拡大しており、近く1,500万台に達する見通し。昨年の国内市場規模はおよそ700万台であったことから、過剰度は極めて高い。はけ口はおのずと国外に向けられることになる。EUは高関税の米国などと異なり、10%の標準税率を適用していることから流入が急増している。

中国の電動車メーカーで利益を計上しているのはBYDなどごく一部にとどまる。それにもかかわらず各社が増産を続ける背景には、雇用を維持したいという地方政府の意図があるためだ。EUとの電動車摩擦は、採算を度外視した国家資本主義と、公正で自由な競争を原理とする市場経済との摩擦と言うこともできるだろう。

不動産バブルの崩壊が示すように、ゆがみを是正する市場の作用を極度に軽視した国家資本主義は持続可能なものではない。中国のような超大国であれば国際経済に大きな副作用をもたらす。「市場経済国」として認定せよとする中国政府の主張をここ数年、見聞きすることがなくなったが、世界で通用する意味での市場経済の実現に取り組んでほしいと思う。

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