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選んだ島根の地で ― 竹ボーイ・鈴木元太の挑戦

--- 私の選択・私の行動 ① ---
「これ、何かおかしいんじゃないか」
「この状況、なんとか変えたい」
素直な気持ちを、行動に移す。
大規模じゃなくても、自分の手と足を動かして。
今の社会に必要なのはそんな若者なんじゃないか。
これは自分で選択し、自分で行動する若者のストーリー。 

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萩・津和野の名で知られ、「山陰の小京都」とも呼ばれる島根県津和野町。豊かな自然の中に赤い瓦の屋根が続く街並み。石畳で整備された中心部は城下町の雰囲気を漂わせている。この穏やかな町を旅行先に選ぶ大人は多くても、高校生の間での知名度は低いかもしれない。しかし、神奈川県から津和野で3年間過ごすことを選んだ少年がいた。彼の名は鈴木元太くん。

北海道で生まれ育ち、中学時代は神奈川で過ごしたが、高校1年生の夏、東北でのボランティア活動を通して地域活性化に興味を持った。津和野高校では積極的に地域との交流を学びに取り入れていることを知り、転校を決定。併設されている寮に住みながら3年間を過ごした。

実は元太くんは特別な存在ではない。津和野町は65歳以上が人口の45%を占め、少子高齢化に直面している。統廃合の危機にあった津和野高校は、高校魅力化プロジェクトの一部として、学生寮と無料の公営塾を備え、「しまね留学」として県外からの学生を受け入れている。首都圏からの学生も多く、1学年80人のうち、実に3分の1が県外生だという。

元太くんは、グローカルラボという部活で津和野の方たちと交流していくうちに、放置竹林が増えていることを知った。プラスチックが普及したことで竹細工が消え、中国から安いたけのこが輸入され始めたため、竹への需要がなくなったのだ。それだけでなく、少子高齢化の影響もあって整備する人が少なくなっているが、竹林は数年手入れをしないだけで生態系や景観に悪影響が出てしまう。竹の文化を残したい、日本各地でなくなりつつある里山を守りたい。そんな思いをもって始めたのが「竹で築こう」という活動だ。

たけのこ、建築材、竹細工など、様々な用途がある竹は、しっかり活用すれば地域にとって大切な資源となる。春には高校生や地域の方と一緒にたけのこ掘りを企画。同級生も「一緒にたけのこ掘ろうぜ」と誘ったり、人手が足りないから、と手伝ってもらったりしながら巻き込んでいった。たけのこを掘った後は、割った竹を器にして、たけのこご飯や天ぷらを味合う。一緒に汗を流して、おいしい食事を共にすると、初対面の高校生と地域の大人の間にも自然と会話が生まれる。

(タケノコ掘りの様子。写真:本人提供)

「自由で楽しく、フラットで何か新しいつながりや動きが生まれるような場を作りたいと思って活動していました。たけのこ掘りの時も『竹でかごを作るなら秋だなー』とか、まちの民族史に興味がある高校生が地元の方にお話を聞く場面があったりと、高校生と地域の方で会話が生まれていたのがとても嬉しかったです。」

同級生からも一目置かれる存在となり、文化祭では生徒会長から頼まれて、竹のゲートを作ったりもした。また、竹で作った飯盒を使って小学生と一緒に炊飯を行ったり、小学生から町役場の職員、竹林の保有者や地域の住民など、幅広い年代を巻き込んで竹と関わる機会を作っている。

(小学生を対象とした、竹の飯盒炊飯イベント。写真:本人提供)

そんな元太君の活動を支えていたのが、津和野高校で魅力化コーディネーターとして働く「うっしー」こと牛木力さん。学生と地域や社会とのつながりを作ったり、個人のプロジェクトに寄り添ったりする役割だが、ユニークなバックグラウンドと高校生と対等な目線で話す気さくさで、元太君の活動をサポートした。


(牛木力さん。写真:本人提供)

「牛木さんが協力してくれそうなまちの人を紹介してつないでくれたのはとても大きいと思います。高校生活では会えないような人と話すことで視野が広がったので。活動内容や具体的に場所どうするかなどの相談もしたし、振り返りもたくさんしました。アドバイスというのではなく、とてもフラットな状態で話し合えたことが大きいと思います。」

3月には東京大学の推薦入試に合格。学力と北海道大学と共同で行っていた研究に加え、「竹で築こう」の活動が高く評価された。社会課題を解決していく人材として期待され、今年の4月より大学1年生として理科I類に入学した(工学部建築学科進学予定)。「竹で築こう」の活動を後輩に引き継いだ今、持ち前の好奇心と行動力に加え、実際にコミュニティに入って活動した経験をもとに、人と自然の関わりについて研究していきたいと言う。

自分で選択しているという意識を持ちつつ、実際に行動しながら、そして時に学問と関連させながら学ぶことは、高校生にとっても、まちにとっても大事だと思います。推薦入試では、津和野で自分で考えながら手も動かしつつ、知見を得たり学問への興味を持ったりしたということが評価されたと思いますが、僕個人はこのような経験ができたことが良い選択だったと思うし、今後も自分で考えつつ、手を動かしながら選択していきたいと思っています。」

(様々な美しい建築物に魅了されたニューヨークにて。写真:本人提供)

自分の意志で選んだ島根・津和野の地。サポートを得ながら頭と体を動かし、多くの人を巻き込んで活動した日々。自分のやりたいことをやり、充実した日々を送っている人らしい、爽やかな笑顔を見せてくれた元太くんの今後の活動からも目が離せない。

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