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観察力 - 見る、観る、視る -

本日は、前回投稿の最後で告知した通り、コロナ禍で実際にクライアントから相談いただいた事例について、いくつか紹介してみようと思います。

また最後に、このようなお話をいただいた場合に私がまず取り組んでいること、さらにいうと大切にしている「観察することの重要性」について触れてみたいと思います。

事例1)「まずは、データ整備を優先します」

ご担当者から以下のようなお話しをいただきました。 

「本当は今後の戦略について相談したいのですが、その前に何かしらのアウトプットを上司に報告しなければいけないんです。だからまずは膨大な保有データをこれから整備しようと思っています。なので、そのまとめ方について相談にのってもらえないでしょうか」

これ本当によくある話なんですよね。しかし経験上このような話をいただく場合、(担当者はジョブローテーションによって代わっていることが多いので気づいていないのかもですが)実際には企業として5年以上同じことをおっしゃっていることが多いのです。だから故、私は一旦このように伝えます。

「データ整備はもちろん大切なことです。しかしながら、まずは"目的"を探求をすることを優先的に進めて、その結果として仮説生成(アブダクション)を行うのはいかがでしょうか?それによって、データ整備の方向性が明確になります。データ整備とは"効率的な視点"ではなく、"動的でクリエイティブな創造的視点"が優先されるべきものだからです」。

事例2)「DXを推進するにはどうしたらいいですか」

「弊社では、DXが上手くいってはいません。経営層からは、早くなんとかしろと言われているので何かしら提示しなければいけません。どうしたらいいですか?」

日系企業のほぼ9割の会社がDX推進がうまくいかないと聞きます。これは何故なのでしょうか。私がお話を聞いている企業が前提となりますが、感じているのは、"目的"と仮説なくデジタル化を推進しているのでは…辛口で言うならば"目的と手段"を混同したまま使っているのが原因ではないかということです。

目的の連鎖

"目的の連鎖"に関して、アリストテレス『ニコマコス倫理学』について論じている山本芳久教授(東京大学大学院)が以下のような説明をしています。

 ①「何の為に勉強しているの?」
     ↓
②「大学に入る」
     ↓
③「専門的な知識や技術を身につける」
     ↓
④「よい社会人になる」
     ↓
⑤「幸福になる」

②〜④は、"目的"にもなりますが手段にもなります。しかしながら、⑤の「幸福になる」は"目的"にはなりますが手段にはなりません。これをアリストテレスは"最高善"といっています。その意味においても企業も最終目的の"最高善"の意味を解読することが、大切かもしれません。

このようなことからも、日本でも注力されている「リベラルアーツ」の重要性を感じます。経営やマーケティングの追求する領域が哲学的な人間の在り方にまで至っているからです。古代ギリシャの哲学者が2000年以上前に、我々に普遍的生き方を教えてくれているわけですね。今までそのような視点、お持ちだったでしょうか。

 事例3)「まずは自分たちでイノベーションのヒントを探ります」

会社に点在している既存データ(オープンデータと自社販売実績など)を整備する中から、イノベーションのヒントを探りたと思っています。だからまとまるまで少し時間をください。

事例1)と似通っていつつも、かなり多くあるパターンです。そして同様に やはり"目的"を創出する、さらに共有化する共感する作業が大切だと私は伝えています。

加えていうならば、まずは予定調和的考えからの脱却が必要であるとお話しさせていただきます。いままでの"あたりまえの概念"を覆す、つまり自分自身が思い続けている固定概念を切り替える作業が必要になるというのがその理由です。またデータの質は当然のこと、行動や購買データなのか、価値観や背景のデータなのかを分類して全体像を俯瞰するといったグランドデザインが必要であることをここに記しておきましょう。

「観察力」を磨くことから始めよう

事例1)事例2)事例3)でお話をいただいた時、弊社がまずクライアントの皆さまと一緒に実施しているのは「観察力」を磨くという鍛錬です。

「観察力」については、イギリスの小説家、アーサー・コナン・ドイルによる短編小説『ボヘミアの醜聞』の中にある、ホームズとワトソンのこんなやりとりから一端を学ぶことができます。

ホームズ 「君は見ているだけど、観察していないね。その違いは明らかだ。例えば、君は玄関からこの部屋に繋がる階段を頻繁に見ているね。」
ワトソン 「しょっちゅうね。」
ホームズ 「どのくらい頻繁に?」
ワトソン 「え〜と、何百回でしょうね」
ホームズ 「では、何段あるのかな」
ワトソン 「何段かだって?分かりませんよ」
ホームズ 「全くそういうことなんだ!君は観察していない。ただ見ていることは見ているけどね。そこが私のポイントだ。私は17段あることを知っている。何故なら、私は見ているし観察することもしているからね。」

「知覚力を磨く」神田房江 著:ダイヤモンドグラフィック社(P179)

以前にもご紹介しましたが、弊社で実施しているVTS(Visual Thinking Strategy)は,美術評論家による絵画アート作品の見方ではありません。実際には、このホームズのいう「観察力」と似ています。

自分の見方を鍛える、自分なりのストーリーを創る。

アートとは、その人なりの見方ができるものであって、回答が一つではありません。そしてそれを観察社同士が共感できることで相互主観を生み出します。

VTSは21世紀スキルを育成することに寄与しており、批判的評価やクリエティブ能力を向上させ、他人との協調性、共感や共鳴に繋がるとも言われています。その意において、私は大義の顧客を知る活動が重要視される企業人にまずはこの体験をしてもらう時間を大切にしているのです。

他者の思考との融合性 -知の組み替え -

ではこのスキルを磨くことで得られるベネフィットとはなんでしょうか。
よく言われることですが、新しいアイデアというものは0から生まれるものではなく既存にあったもののちょっとした変化から大きなイノベーションが生まれると言われています。

つまり企業においては自社機能で完成できることだけでなく、実は他社の力を融合しながら、知を組み変えることが有効なのです。
(経済学者のヨーゼフ・シュンペーターは「企業の行うイノベーションは、新しい何かを創出するのではなく、すでにある要素を組み替えること(新結合)」と定義しました)。

イノベーションを引き起こす為には、自社機能だけではなく共通の目的を作りながら、自社以外の技術や資源を持つ他の企業を巻き込んで社会的価値創造をすることも一つの方法論となりうる。これが、今求められている新しい企業活動なのかもしれないと私は思っています。

次回noteでは、そんな動きを感じ取れる事例や考え方をご紹介してみましょう。

(続)