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雲の結晶標本

『クラウドコレクター 雲をつかむような話』
クラフト・エヴィング 商會/著

学生時代に教えていただいてから絶大な影響を受けていた商會ですが、その実、物語は眠らせたままで写真だけを愉しんでいる本ばかりでした。これもその中の一冊で、雲砂糖の装置や飴のように味わう詩の結晶・涙の標本や睡魔を眠らせた枕など、画と設定だけでも十分に満足してしまえるもの。(読まずに放っていた言い訳ですね)
この頃空想に飢えていたこともあって水を得たように読み始めたのですが、架空に架空を重ねた架空の入れ子のような物語で、読後はまさに雲をつかまされたような心地でした。

21本の不思議な蒸留酒をめぐって永遠を問う旅に出るというのが大筋にあり、今回は珍しく「架空の国」という設定を知らされた状態で話がスタートします。それはなんだか興ざめではなかろうか…と懸念しながら読み進めていましたが、何のことはない、最後にどうにも愛おしい種明かしがあって、こんなに美しい嘘に上手に騙された自分を褒めたくなりました。

雲を見れば逆さに降る雨を想い、空の瓶の中に失った記憶を見る。
レコードの0を中心に世界が回っているかもしれないし、望遠鏡を覗けば自分の背中が見えるかもしれない。

忘れてしまったものはなんだか分からないけれど、私の中にあったからこそ懐かしい。やはり私は記憶とのお付き合いが好きです。

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