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小説を書くために親族のことを思い出して、お茶とカフェオレを飲んだ

あまりに気圧がだめで寝込んでいたけれど、何もしていない自分がいやになりすぎたので、部屋掃除をほんのすこし進めてそうじした!ということにして飲むヨーグルトを飲んで、ぽにょぽにょした腹を見て、すこし痩せたかもしれないと思った。

小説を書いていて、設定がすごくうまくいっていないと思っていたので大きく変えることにした。わたしにとってはめずらしいことで、具体的には職場の話を親族の話に変えることにした。仕事で出会った人と仲良くしなくてはいけない、というシチュエーションがどうしてもわたしにはわからなくて、そんなもんてきとうに乗り切ればいいじゃん、と思うくらいにはわたしは仕事に対して真っ当な真剣な真面目な考えを持っていなくて、けれど血のつながりはどうしようもない。血族にこういう人がいる、というひとを認めなくてはならない。自分と何親等か離れていたとしても、自分の身内であることからは逃げられない。同じ会社の人とは会社を辞めれば逃げられる。

わたしにとって親族の集まりはとても拘束力のあるものだった。父方の親族が旭川の祖母の家に大々的に集まるものだった。女性陣が料理をつくって男性陣はだらだらと時間を潰していた。
その集まりにいとこがひとり来なくなった。札幌で就職したいとこだった。やっぱり都会の方がいいんだろうね、結婚もしないで、でも付き合ってる人はいるらしいよ、といとこの話は尽きなくて、そのことがわたしはいやで仕方がなかった。そういうことがいやだから来なくなっちゃうんだよ、と思いながらヒレカツをかじっていた。

祖母が亡くなってから親族の集まりはなくなった。東京で暮らすわたしは祖母の葬儀にコロナウイルスの関係で「来てはいけない」と言われた。わたしは行かなかった。葬式は苦手だった。悲しくしなきゃいけない雰囲気がしんどかった。自分が出たことのあるお葬式をわたしはほとんど覚えていないが、義父の葬式のときは親族側として多少なりとも働いた。けれどあまりできることがなくて、葬儀を行うスペースの真裏にある食事が取れる簡素な食堂のようなスペースに寿司が運び込まれるのをぼんやり見ていた。生のお寿司なのだろうか、それとも助六寿司なのだろうか、わからないままにぼんやり立っていると、仕出しの準備をしていたおばさんが湯呑みをわたしに渡してくれた。はい、と言って渡された湯呑みをどうしたらいいか困っていると、そこに置いて、と言われた。わたしは湯呑みを置いた。ありがとう、助かった、とおばさんは言った。そしてあたたかいお茶の入った湯呑みを持ってきてくれて、すこし休むといい、と言ってくれた。

座ってお茶を飲んでいるとほんとうに血が繋がっているわけではない(けれど父ではある)人の葬式にずいぶん戸惑っていたのだということが身に染みてくる。夫に礼服を買えと言ってずいぶん喧嘩になった。スーツでいいと言い張る夫に、長男であるのだから、とあまり言いたくない言葉で彼を説得しなくてはならないのはいやなことだった。
父と母が北海道から来てくれたときに泣きつきそうになった。母は「あんたそんないい礼服いつ買ったの?」とだけ言った。わたしはようやくそこで笑った。

離婚してからはほんとうに親族付き合いがなくなってしまって、ときどき母に電話をするくらいだ。いとこはそれぞれ子どもをもっていてそれぞれの家庭に忙しい。
たまに弟と会う。弟は弟で仕事のことやプライベートに悩みを抱えながらバキバキにカードゲームのオタクをやっている。わたしはそのことをすごくいいと思っている。なにかについて真剣に取り組むことはうつくしい。

歌集が出るタイミングが読めなかったので3月末から予定をあまり入れていなかった。いま、かなり余裕があるのですこしずつ壊滅的な状態になっている家を掃除している。
服の山の中から母から送られてきたお菓子が出てきた。わたしは春のあるあるとして調子が悪かった。賞味期限が2ヶ月切れたお菓子をどうしても食べたかった。けれど捨てるしかなくて、悔しかった。悔しくて、涙が出た。わたしはお菓子を食べたかった。

部屋をもう少し片付けたら小説を書いて短歌を書いて、それには謝礼が出るものも出ないものもある。職業としての物書きのようなものの足場が見えてきている。ここで頑張らないといけないと思うと、やはりお菓子のことが悔しくて、冷蔵庫に買ってあるカフェオレを飲んで呼吸を整えることにする。とてもおいしいカフェオレだと思って学生時代ご褒美として買っていたものだ。いま飲んでみると牛乳の味もコーヒーの風味も甘ったるくてチープな感じがする。いまよく売っているペットボトルコーヒーの方がずいぶんおいしいと思う。けれどこのカフェオレにしか埋められないものが学生の頃にはあった。

ものを書くために使います。がんばって書くためにからあげを食べたりするのにも使うかもしれません。