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タクシードライバー観た話


ホアキン・フェニックスがアカデミー賞で主演男優賞を受賞した。
するだろうと思っていた。
2019年公開のJOKERはタクシードライバーという作品をオマージュしていると何度も目にした。
ホアキンは、トラヴィスに何を感じたのだろう。


※以下ネタバレばかりです。未鑑賞の方は、ご注意ください。

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『タクシードライバー』は、1976年公開のアメリカ映画。監督はマーティン・スコセッシ。脚本はポール・シュレイダー。主演はロバート・デ・ニーロ。製作はマイケル・フィリップス、ジュリア・フィリップス。コロムビア映画配給。 第29回カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作品。 (Wikipedia)

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ディストピアのトラヴィス

ロバート・デニーロ演じるトラヴィスは、夜の街で、タクシードライバーを務めながら眠れない夜を消費していた。荒れ果てた街は、まるでゴミ箱の中のように、何もかもが機能していない。

そんな街で、トラヴィスは意中の女性、ベッツィー(演:シビル・シェパード)をポルノ映画に誘い、振られる。(そこから逆上するのだが。)のちに出会う、売春婦のアイリス(演:ジョディー・フォスター)は、スポーツ(演:ハーヴェイ・カイテル)と呼ばれる雇い主の元で、未成年にも関わらず、腐った館で若さを消費していた。街だけでなく、そこに住む個人も破綻している。ゴミの中で生きているような不思議な街だ。

ベッツィーに断られたトラヴィスは、『何故無視をするんだ』と逆上した挙句、『殺してやる』と脅す。そこからトラヴィスは、ゴミ箱の穴の中をドンドン転がり落ちていく。荒み始めた生活の中で、売春婦のアイリスがトラヴィスの運転するタクシーに逃げ込み、雇い主に連れ戻される場面に遭遇する。突然の出来事に何も出来なかったトラヴィスは、その出来事をボードにピンで留めたように、アイリスの救出を目論み始めた。

彼がまず、始めたことは自身の改造。身体を鍛え、銃の扱いを覚える。そして、鏡の前に立ち、狂い始める。

“You talkin' to me? You talkin' to me?
You talkin' to me?
Then who the hell else are you talking...
you talking to me?
Well I'm the only one here.
Who the fuck do you think you're talking to?
Oh yeah? OK. ”(台詞抜粋)

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JOKERにそっくりそのままのシーンがある。
主人公のアーサーが、テレビの前でユラユラと踊りながら、同じく、『You talkin' to me?』と虚無に語りかけ、発砲する。この発砲が、狂い始める合図だったのだろう。

ディストピアの世を嘆き狂った人間は穴の中へ転がり落ちていく。理想的な白兎を探して。そして最後には他の誰でもなく、自分自身が判決を下すのだ。

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御伽噺との別れ

私の好きな小説から引用すると、
“人は高い所に立ってそこからの景色を見た時、「高い」という感覚より先に、「遠い」と感じる”そうだ。

ドローンがまだSFだけの物だった時代に、この映画は、古いアパートの一室の天井をくり抜いてラストシーンの撮影をしている。現場からどんどん離れて夢のように揺らいでいく映像は、かなりラジカルな手法だったに違いない。けれど、きっと、トラヴィスにとってその表現が必要だったのだ。

アイリス救出を遂げた後のトラヴィスは、何事もなかったかのように、元の風貌に戻り、タクシードライバーをしている。私たち、視聴者側ですら、夢だったのか?と錯覚してしまうほどに。だが、アイリスの両親から届いた1通の手紙が“夢ではなかった”と彼に告げる。

あの出来事は、現実だったのか?彼の頭の中のシュミレーションに過ぎなかったのでは?けれど確かに、事件前後でトラヴィスが全く違って見える。

血溜まりの中、アイリスの泣き叫ぶ声を遠くに聴きながら、彼は遂行したことを歓喜したのか、絶望したのか。御伽噺は幕を閉じる。彼の中の何かも幕引きを迎えたのだった。


まとめ

トラヴィスは、街を変えたかったのだろうか。それとも、落魄れた他者を?自分自身を?
何かを、変えようと踠いている様は、他者から見ると滑稽に見えるのかもしれない。 まるでピエロのように。
けれど少なくともトラヴィス自身は、変化があったように見える。

時代が時代で、ここがゴッサムなら、確かに、彼を祀りあげることも、あったのかもしれないと感じた。


★★★★☆

よき。

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