見出し画像

永禄四辛酉三月晦日三好筑前守殿御成之次㐧之事にみる饗応料理をなんとなく科学から見る③

色々見る御成の饗応料理

同人誌の中に「バイはバイか?」という話を入れた中で、バイについては毒化する現象があることも記載したが、それらをみながら、饗応料理に使用されていた食材の中で、将軍をもてなすための料理の安全性という面である。

度々現代では、食の安全性が問われるが、この時代でも同様である。

食物は、現在法などの規制などを用いて、安全性が保たれているが、それでも食中毒などは発生する事例はよく目にするであろう。将軍に出す料理ももちろん、何かあってはいけないから、対策が様々あったはずなのではないかと思う。

中で一番は、やはり魚介類が一番品目的には多く、野菜などの記述に乏しい。毒性がある植物を理解しながら、調理されているのではないかと思うが、そもそも主客側と主催側どちらもが同じ食事をすることから、片方に毒性があるものを調理しようとすると、内部統制が必要になるはずだが、まず、この毒性がある植物が使われたかどうか?は排他しても良いと思う。あくまで、目的が御成である以上、多人数が関わり、非常に難しくなる。
さて、ではきのこ類はどうか?というところである。
そもそも、きのこ類に関しては、御成が行われたシーズンには多量にきのこが生える時期からは外れている事だけはしっかりと言えるため、どんなに美味しいきのこが春に生えていようが、この人数分必要となると、めちゃくちゃ必要となるので、きのこが使われなくて正直ホッとしている自分がどこかにいる。

これできのこの記述が、バリバリとあったら、それこそきのこ界に大激震が走ってしまう。春先のきのこにあるアミガサタケなんか、生えていたとしても中が空洞になっていて、その中に昆虫がいるなど、そんなのが昔に残っていた可能性がある。きのこの話は置いておいて、そろそろちゃんとした話に戻りましょう。

よく起きなかったな食中毒

饗応料理の準備された数、奉公衆なども併せたら大凡300膳以上にも上るそうだ。大凡30人が同じものを食するというところで、とても気になるのが食中毒である。
食品衛生というのはWHOで定義があって「食品衛生とは、生育、生産、あるいは製造時から最終的に人に摂取されるまでの全ての段階において、食品の安全性、健全性、健常性を確保するために必要なあらゆる手段である」と定義がされているのを鑑みて、この御成の膳が準備されたことに当てはめる。
この膳を担当したのは進士美作守晴舎、有識者の方はおそらくすぐに思い出すのが、奉公衆であり、義輝側の人間であること。そしてこの御成でも、膳係として配備されていることを考えると、三好側が用意した人間というより、御成はやっぱり奉公衆側(取次)からの提案があって義興に官位などの御礼のために御成してもらってはいかがか?という提案が三好長逸ら重臣に伝えられたとして「いやいや、ちょっと時期が」と言ってもやっぱり御成を実施しているあたりが…と話がずれた。

この進士がいわゆる食品を管理をする人間、つまり衛生管理者として、準備するわけです。

彼がまず選ばれた理由が食性病害知識(そのまま食べると健康障害を起こす原因となるが、調理をすることにより安全なものに変化をさせるという知識など)があるというところで、義輝や公家衆、長慶や義興らの口に入る物が「より安全」であることが重要。
そのために知識を持った人間が担当するというのも間違いではない。
食品における品質の構成として、大きく三つの分類に構成されていて、基本的特性、機能的特性、二次特性と構成されているが、この饗応料理に特性を当てはめると、下記のようではないか?と推察する。

進士氏を起用した理由は品質の構成がある。

基本的特性

  1. 安全性(生物的要因の知識を持っていたなど)

  2. 信頼性(心理的要因の義輝側に近い奉公衆であること)

二次特性

  1. 付加特性(式三献などの文化性に精通していた)

知識や技術以外にも、御成の御膳というのは提供する側の人間が信頼される者が誠実に実施されるのが現在でも求められるひとつである。「何を食べて、何を食べないようにするか」というのが根底にある。最近は手料理が家庭外で提供されることは敬遠される動きがあるが、これは、信頼感に基づいている動きだと予測する。それは、戦国時代でもこの食を通して動きが見れると思う。
饗応料理の中にある、バイ貝を使用した記述はとても興味深いものである。バイ貝は考えての通り、食品による健康障害リスクが存在する魚介類である。しかし、このバイ貝にも種類があり、螺という記述から様々な種類が予測はできるが、進士氏なりに考えた食材を準備させたのではないだろうか?

安全性とリスクの関係性

なんでもそうだが、この行動原則にはつながる指標はあるはずで、少し比べたのが、Codexの食品衛生一般原則がある。少し長いのでこの一般原則は大体ネットで検索できるから、検索して欲しい。
進士氏を起用した件は元々、そういった料理技術などの教育や調練などを行われて養われてきたのであり、製品に関しての情報や消費する人(この場合だと義輝や公家衆、三好一族など)も意識を持つこと。
つまり消費者側も情報を理解する必要がある。

御成は義興が主催として、義輝を招くという事実から、導き出される情報は、ここで出される食事に関しては、進士氏に全ての責任があり、彼が製造・管理などフードプロセスに関わる全てを管理しているという情報が浮かび上がる。
この施設を選ぶにしても、施設の管理も必要になる。
ここで、最初に戻るが、約30人以上の人間が同じ用意された食事したとき、ひとつ考えられるのがこの時代で、食中毒がよく起きなかったという点である。

御成料理はほとんどが魚介

食中毒の原因となる微生物には、細菌(感染型と毒素型)、自然毒(植物性、動物性)、原虫類などがある。
もしかしたら、御成後に若干お腹を下したくらいでは、この頃の医師に漢方などの薬を処方してもらって、整腸されて終わるケースも存在していたかもしれない。実際のところ現代でも食中毒が本当に発生している回数を把握するのが困難だと思う。
食中毒が発生していた場合、多くは発生した施設、発生した原因食品などあるが、この調査にはマスターテーブル法が使用される。
統計をとって「ある食品を、同じ場所で」というところから、その食品を食べた・食べていない、発症した・発症していないに分けて出される。

この食中毒に関しては、魚介という中心的なものに、マリントキシンという自然毒が大きく把握する重要な知識である。

バイ貝の毒化は、餌としてTTXを持つフグの内臓を食べたことにより蓄積、毒化することもある

30人分の食事、それを10回くらい合計300膳、配給するとすれば、夕食付きの旅館で団体旅行、修学旅行で出される食事を思い出すとしっくりくるのではないだろうか。
それでも、大人数の食事を準備する時点で、このような衛生の知識が必須として、起用されたのだろうか。もしくは、文化性から見ているものかは不明である。

御成記に見る御膳を実食して思ったこと

2023年にイベントに参加した時、コロナ明け後で、それまで実は数年間、家族以外の人間と喋りながら食事をすることが激減しており、各々喋りながら食事をする会というのは本当に久しぶりだった。

食の安全性という面から、こういった会食という機会を経てわかったことがひとつある。
歴史を通した食を、歴史と同じような擬似的な状況を作り出すというのは、非常に面白い試みであり、同じ意識を持つ人たちとの有益な場であるというのが、正直な感想だった。
しかし、客観的に漫画という形で見直して描いた時、政治ではなく、食という点と自らが研究する菌類の毒性学に接点を見出し、御成というのは政治利用も持っていたが、食という知識は本当に信頼がおける管理者がいて成り立つ物だと確信する。

それは食品衛生を見ても、それは現代とさほど変わりのない事実なのではないかと思う。
考えると義輝はこの御成に向かった時、和睦はしたが敵対していた三好側に招かれたという状況であれば、信用がおけないと判断すると、ここで出される食事は危険だと判断されてしまうかもしれない。
そうなれば、提供する側もその食事は信頼を得た管理すべき人間が全てを担当するために、そのために進士晴舎がその最も優先される知識・専門性、そして人柄を持っていたということになる。その人物を立てたのが主催側だとすれば(もちろん規則などに則っている可能性もあるけど)義輝に対する三好側の対応というのは本当に和睦し、官位などいただきありがとうございました、という気持ちがあったとしてもおかしくはないかと考えた。

だが、式典的な意味合いだとすれば、別にここまで考えるほどではなかったのかと思う。

ただ、提供される食事というのは、唯一「体内に取り込まれる」物であり、毒性学に精通しているものがいれば、食事が出される前に混入し、標的となる人物を裏側で合わせて痛手を負わせることができただろう。
そうなると、進士氏に対して全ての責任が出てくる。三好長慶が伊勢貞孝邸に招かれた時、切り付けられた事件があるが、こういった現場というのは、複数人が同時に会食をするという場所だと、標的を狙うことも可能である。

そのような現場には、何かあっては相応しくはないし、それが起きたらそれこそ三好を狙うものが多くなる感じもする。

この辺りの政治的な考察などについては、専門家にお任せして、こんな御成という式典もあったのだということを思いながら、そこで行われていた食事があって、それを体験できたというのを、非日常な特別感を味わえたという思い出にしておこう。

生息地域を調べるという事を、なぜ調べたいと思ったか、本当に不明すぎる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?