おもちゃウォーズ高画質

クレヨンしんちゃん『おもちゃウォーズ』は『オトナ帝国の逆襲』と対を成す

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考察/風の谷のナウシカ/巨神兵/火の七日間/トイ・ストーリー/時計じかけのオレンジ/スター・ウォーズ/嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲/八鍬新之介/うえのきみこ/泣ける/感動/元ネタ/オマージュ


 結論から書くと、私は『クレヨンしんちゃん外伝 おもちゃウォーズ』は名作だと思う。テンポの良さ、笑いと涙、敵キャラに漂う得体の知れない不気味さ、敵キャラとの駆け引き、敵キャラの心情の変化。かなり丁寧に脚本を書いたことが伝わってきた。もう少し力を入れて映画化すれば、かなり売れるはずだ。

 『クレヨンしんちゃん外伝 おもちゃウォーズ』は、2016年11月9日以降にAmazonプライムで限定配信されたアニメだ。Amazonプライム会員であれば1話から最終話の13話まで無料で視聴できる。1話あたり7分間、合計91分なので、短めの映画1本に相当する。

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URLはこちら。

https://www.amazon.co.jp/dp/B01M2CEO5A

 『クレヨンしんちゃん外伝 おもちゃウォーズ』には、名作へのオマージュやリスペクトやパロディと思われる要素がいくつもある。おそらく多くの人は『トイ・ストーリー』を思い出したはずだが、私は他の作品を思い出したので、ここに考察を書きたい。

※これ以降、ネタバレを含むので注意してほしい。





※ここからネタバレ

 『おもちゃウォーズ』にはこのような設定がある。

 「おもちゃを奪われたこどもがダダをこねたとき、DADAエネルギーが発生する。オバーンたちが街の至る所からからDADAエネルギーを集める。DADAエネルギーがメーターを満たしたとき、おもちゃ兵器『ワーガマーマ』が産まれる。」

 この設定は超有名な傑作『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』で街の中を漂う「懐かしさの匂い」の設定と酷似している。DADAエネルギーの量を示す棒グラフのようなメーターさえも『オトナ帝国の逆襲』と酷似している。

 『オトナ帝国の逆襲』では、かすかべ防衛隊が幼稚園バスに乗って敵の居場所に向かうが、かすかべ防衛隊の一人一人が交代でバスを運転するとき、それぞれのキャラの個性が表れ、ギャグになる。

 『おもちゃウォーズ』では、かすかべ防衛隊がオバーンの居場所に向かうときに段ボールで作った電車を使う。ここでもまた、かすかべ防衛隊の一人一人が交代で電車の運転手を演じ、それぞれのキャラが表れ、ギャグになる。

 『オトナ帝国の逆襲』で懐かしさに取り憑かれ、こどもの状態になったひろしとみさえにしんのすけは直面し、ひろしの靴下の匂いをひろしとみさえに嗅がせることで、両親を目覚めさせる。

 『おもちゃウォーズ』においてはボーちゃんが問題解決の鍵となった。「しんちゃんはおもちゃに取り憑かれています」と看破し、しんのすけにお姉さんの写真を見せることで、しんのすけを目覚めさせる。その後もボーちゃんたちは、風間くん、ネネちゃん、マサオくんの弱点(弱点か?)を突き、目覚めさせる。

 『オトナ帝国の逆襲』には、ひろしが自分の幼少期から結婚、しんのすけの誕生、子育て、そして現在までを回想する名場面があり、ここで涙した人も多いようだ。しかし『おもちゃウォーズ』では、アクション仮面が、しんのすけと共に過ごした日々を回想する。ここでも涙を誘う。

 『オトナ帝国の逆襲』はオトナが感じる懐かしさがテーマであり、オトナたちは古い思い出に浸るが、『おもちゃウォーズ』は、こどもが新しいおもちゃを求め古いおもちゃを捨てることがテーマであり、この2作は対を成している。

 『おもちゃウォーズ』の中でアクション仮面が無理矢理まぶたを開けられ、おもちゃがこどもから傷つけられる映像を見せられるシーンは、小説『時計じかけのオレンジ』で主人公が洗脳される治療のシーンと酷似している。

 おもちゃ兵器「ワーガマーマ」は7日間で世界をおもちゃに変えることができる。これは『風の谷のナウシカ』の「巨神兵」と「火の七日間」へのオマージュだろうか?丘の上から街に向かって口から光線を放つ「ワーガマーマ」は、巨神兵と少し似ている。

 また、冒頭でしんのすけたちがうさぎを追いかけてトンネルを走り「ちんだらけ」にたどり着くまでは、『不思議の国のアリス』に似ている。

 第11話「アクション仮面 VS. しんのすけ」で窮地に瀕したしんのすけを前にアクション仮面が涙を流し、そしてしんのすけを助けるクライマックスで、私は『スター・ウォーズ エピソード6 ジェダイの帰還』におけるルーク・スカイウォーカーとダース・ベイダーと皇帝の関係を連想したが、さすがにこの連想は無理矢理すぎるだろうか?

 その他にも過去の映画クレヨンしんちゃんに登場したキャラが再登場しているらしいが、私は過去の映画クレヨンしんちゃんにはあまり詳しくないので、詳しく知りたい方は他のウェブサイトを参照していただきたい。

 さて、ここで物語の核となるセリフを引用したい。アクション仮面が前述のシーンでしんのすけを助けたあと、オバーンとの間でこんな言葉が飛び交った。

 オバーン「バカだねえ。お前たちはいつか捨てられちまうんだよ」

 アクション仮面「そうかもしれん。しかし、私たちはこどもと遊んだとき、たしかに生き、共に喜んだ。とにかく、私はしんのすけくんが大好きだ。たとえいつか、捨てられるとしても。だから助ける」

 よくぞ言ってくれた。

 アクション仮面にツッコミを入れたい方もいるかもしれない。「おいおい、アクション仮面は『しんのすけくんから捨てられる』と思っているのかよ。しんのすけを信用していないのかよ」と。「しんのすけくんは私を捨てたりはしない」と言うほうが優等生的で模範的かもしれない。

 しかし、もしここで「しんのすけくんは私を捨てたりはしない。だから助ける」と言ったら、物語が台無しだ。

 つまり、真のヒーローは相手に見返りを求めない。「捨てられないから助ける」のではない。ちびっ子が助けを求めるから、助けるのだ。「私はしんのすけくんが大好きだ。たとえいつか、捨てられるとしても」と言い切ったからこそ、真のヒーローなのだ。

 もしかしたら、いま子育てをしている親は、このシーンで自分たちの親子関係を重ね合わせたかもしれない。・・・・「自分のこどもがいつか、親である自分を嫌い、親を見捨て、家を出る日が来るかもしれない。しかしそれでも、いま目の前にいるこどもが大好きだ。・・・・」こう感じた親がいるかもしれない。『おもちゃウォーズ』の制作者は、もしかして視聴者の親子関係まで考えて、アクション仮面にこのセリフを言わせたのか?

 監督は八鍬新之介(やくわ しんのすけ)さんだった。監督のお名前も「しんのすけ」。恥ずかしながら私は八鍬新之介さんのことは今まで知らなかった。1981年生まれで、映画ドラえもんの脚本も担当したことがあった。今後の作品も楽しみ。

 ちなみに『おもちゃウォーズ』の脚本は、八鍬新之介さんとうえのきみこさんのお二方が担当された。

 最後に3件の不満と、1件の仮説を書かせていただく。

 1件目に、『チューコーネン仮面』の「視聴率0%の最終回」の内容はなんだったのか、もっと詳しく説明してほしかった。すっきりしなかった。

 2件目に、「マリオネッコ」は結局何者だったのだろう。なぜ「マリオネッコ」だけはこどもと遊びたいと思わなかったのだろう。こちらについても、説明してほしかった。

 第7話でアクション仮面が洗脳されるとき、熊のぬいぐるみがこどもから傷つけられる映像が流れたが、もしかしてこの熊こそが、マリオネッコに変化したのだろうか?だからこどもに復讐しようと決意したのだろうか?

  3件目である。ボーちゃんだけはおもちゃに取り憑かれなかった。ボーちゃんが活躍する場面をもっと描き、全体を通してボーちゃんを第二の主人公にしても良かったのではないか。ボーちゃんは「おもちゃより石」と言っていたが、固い石と固い意思でだじゃれにしても良かったのではないか。

 1件目、2件目、3件目のすべてを解決するためには、『おもちゃウォーズ』の時間があと10分から20分ほど必要だと思われる。

 最後に4件目だが、私の疑問と仮説を書きたい。

 「エクスペンタブルズ」とガリガリ博士は、ファッション対決(TGC)、青ヒゲ危機一発(マサオクライシス)、デート、かけっこという方法でかすかべ防衛隊に闘いを挑んだのだが、なぜ「エクスペンタブルズ」とガリガリ博士は、闘いの方法にファッション、マサオクライシス、デート、かけっこを選んだのだろうか。理由を説明してほしかった。かすかべ防衛隊を効率的におもちゃにしたいのなら、他の方法で攻撃してかすかべ防衛隊をおもちゃにすればよかったのではないのか。

 この理由は2通り考えられる。

 一つ目の仮説として、『おもちゃウォーズ』の制作者が視聴者の気分を盛り上げるために、ファッション、マサオクライシス、デート、かけっこという方法を選んだ、という可能性がありえる。

 次に二つ目の仮説である。一見すると、おもちゃたちは「こどもをおもちゃにしたい」という悪意から行動を起こしたようだが、実は心の奥底では「こどもと一緒に遊びたい」と思っており、ネネちゃんと遊ぶなら一番良いのはファッション対決、マサオくんと遊ぶなら青ヒゲ危機一髪、風間くんならデート、しんのすけならかけっこというように、おもちゃは相手に合わせて最適な遊びを無意識のうちに選んでいた、という可能性がありえる。この流れなら、終盤でかすかべ防衛隊とおもちゃが野球をして遊んでいたことや、『おもちゃウォーズ』の全体を通したテーマとも合致する。

 なので私は、『おもちゃウォーズ』の後半で、おもちゃにこんなセリフが欲しかった。

 「おれたちは何をしていたんだ!デートやファッションショー、かけっこ、マサオクライシスって、こんなんでこどもを倒せるわけがない・・・・おれたちはこどもをおもちゃに変えるために闘うはずが、いつも間にかこどもと一緒に遊んでいた・・・・・おれたちは本当は最初から、一緒に遊びたかったんだ!」


 以上です。読んでくださり、ありがとうございました。

 【追記】こちらのウェブサイトにも感想と解説があります。私とは違った視点で書かれています。

「クレしん版トイストーリー!『クレヨンしんちゃん外伝 おもちゃウォーズ』Amazonプライム配信 【ネタバレ感想】」

【追記】私は歴代の映画の変遷をまとめた記事を書いたので、皆様にお読み頂けますと幸いです。

映画クレヨンしんちゃんの歴史と脚本の傾向

私は『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』の記事も書きました。

『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』は斬新で自由な冒険活劇

クレヨンしんちゃんの企画をお待ちしております。

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