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第2章 行政書士で成功するための考え方

「月商100万円は、通過点」
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すべての基準を「行政書士」から「自分」に変えよう

行政書士業界は、全員がスタートラインに立っている状況です。そこで次に出てくる疑問は、「では、これから何をどうしたらいいのか?」というものです。

実際、私自身に寄せられる多くの相談の中でも、「行政書士の資格は取った。次に何をしたらいいのでしょうか?」というものが飛び抜けています。

しかしながら、これは根本から間違っている質問です。なぜなら、「資格を取ったら何をしたらいいのか?」という質問は、「行政書士」という資格を基準に考えてしまっているからです。この行政書士が基準になってしまうことを私は「資格基準」と呼んでいますが、資格基準のまま生きてしまうと非常に不幸です。「行政書士は、こういう営業をするものだ」「行政書士はこういう生き方をするものだ」と言われれば、その通りにしなくてはならなくなってしまいます。

これではまるで、自分の人生プランを誰かに委ねてしまっているのと同じです。

そこで基準を行政書士ではなく、「自分自身」に持ってくる必要があります。重要なのは、「行政書士としてどうしたらいいか」ではなく、「行政書士である自分は何をしたいのか」と考えることです。

行政書士業界にも「風潮」があります。例えば、「行政書士は営業なんてするもんじゃない」というものです。確かにネットもない、競争もない時代であれば、それもひとつの美学として良かったのかもしれません。

しかし、もはやそのような時代ではありません。この化石のような考え方が、今でも一部生きているのが恐ろしいところですが、行政書士でビジネスをしたいと決意したのはあなたなのですから、あなたの人生を行政書士として定型化することはありません。

「自分はどうなりたいのか?」が重要なのです。

意外だったアドバイスと「悪しき理想専業主義」

私が開業した頃、とにかくいろいろな行政書士に会ってリサーチしなければ話にならないと考え、さまざまな行政書士からアポを取りました。

その際、東京会のある支部の支部長を務めた方にお会いする機会がありました。菓子折を持って「今度開業しました」と挨拶に伺ったところ、その方は開口一番にこのようなことをおっしゃいました。

「横須賀先生、あなたはまだ若い。だから、行政書士が全てじゃないよ。僕も学習塾をやったりしている。教えることが好きなんだ」

このアドバイスは、正直、意外なものでした。これまで話を聞いた他の先輩方からは、行政書士専業でいくことが美徳と教わりましたし、私も専業主義でいくつもりでした。しかし、時代やマーケット、そして行政書士のビジネスモデルを考慮し、自分自身が実践する中で、その先生がおっしゃることが真理だとわかってきたのです。

その考え方が正しかったことを象徴するのが、次の出来事です。

2004年で当時24歳。私自身、初めてセミナーを行うことがありました。たまたま紹介してくださった方から、「横須賀さんはとても人生経験が面白いから、体験談を中心にセミナーをしてほしい」と依頼されました。当時は、どんな仕事でも引き受けていたので、喜んでこの仕事を受けました。

当時は「楽天日記(※現在の楽天ブログ)」がとても流行っていて、セミナーを開催することを日記にも掲載しました。すると、ある行政書士の方から、「いいかい、横須賀君。行政書士はセミナーとかをするものじゃないんだ。真面目に業務の勉強をし、書類をつくる。徹夜だって当たり前だ。女房子供泣かせてこそ一人前だよ。儲けを考えたりするなんてもってのほか。あとから付いてくるもんだ。だからセミナーは控えた方がいい」と忠告されました。

忠告してくださったことは大変ありがたいことでしたが、内容は完全に無視し、セミナーを決行したのです。この話をすると、「横須賀先生って意外と武闘派なんですね」と言われることがありますが、私としてはごく当たり前のことだと感じています。

なぜなら、行政書士の資格を取ったのは私の意思で、その資格を使って独立し、ビジネスをすることも私の意思だからです。もちろん、いただいたアドバイスが真っ当なものであれば受け止めますが、このアドバイスは、どう考えても「生き方」に関するアドバイスです。もちろん行政書士として業務の勉強をすること、真っ当なサービスをすること。これは心がけていますが、それはもう前提として当たり前というのが私の考えです。

当時から、「行政書士に縛られ、行政書士以外の仕事をすることが悪という考え方はもう古い」と考えていたのに加え、なぜ自分の生き方、ビジネスのやり方に苦言を呈されなければならないのだろうと感じていました。

結果として、この初めてのセミナーから知名度が上がり、次々とセミナーや仕事の依頼が来るようになりました。つまり、これがブレイクスルーポイントとなったのです。

つまり、行政書士だからといって、行政書士の業務以外のことをしていけないわけではないのです。コンサルティングをしても、セミナーをしてもいいのです。行政書士というのは、あくまでも資格のひとつなのですから、あなたが行政書士の資格を使ってほかの仕事をしても、法令や良心に反しない限りは自由なのです。

ちなみに、この「行政書士は行政書士業務だけをするべき、それが美徳」という考え方を、私は「悪しき時代の理想専業主義」と呼んでいます。もはやこの考え方は時代にマッチしていないのです。おそらく本書の内容を苦々しく思われる方もいるでしょう。しかし、それが事実なのです。

行政書士の資格を取ったからといって、何も行政書士に縛られることはないのです。基準を自分に置いてください。

行政書士に向いているかどうかの「タイプ別判断法」

少しあなたの足についている「かせ」が外れて来たかと思います。

この「かせ」はくせ者です。最初は役に立つと思っていた資格という武器が、いつのまにか足にまとわりつく重い「かせ」となる。「行政書士とはこうあるべきだ」「行政書士は営業トークをしてはいけない」など、いつの間にかあなたの人生まで引きずろうとします。この機会にあなたの「かせ」を外してしまってください。

考え方を「自分基準」に変えた後、次に考えてほしいのが、「行政書士に向いているかどうか」ということです。これには2つのポイントがあります。

ひとつは、盲目的に「行政書士を天職だと思い込まない」ということ。乱暴な言い方をすれば、行政書士は国が作った単なるひとつの資格です。仕事の内容も法律によって決まっています。

主な仕事の内容は、相談に乗ること、法律関係の書類を作成、提出することです。しかし、行政書士として扱える仕事の内容は、どの行政書士でも一緒です。もちろん仕事の熟練度により、サービスの質は変わりますが、あえてわかりやすい言い方をすれば、定型の仕事です。つまり、この仕事が向いていないという方も多いわけです。

わかりやすく、違う職種に置き換えてみましょう。

例えば、飲食店でホールスタッフのアルバイトをしていたとします。そこで、その経験を活かし、独立して飲食店のオーナーになって、料理を自分でつくることになりました。しかし、どうも楽しくない。そこで気がついたのが、自分は「お客様とのコミュニケーションが楽しかった」ということ。つまり、料理をつくるという仕事には向いていなかったわけです。

このように、向き不向きがあります。ですから、あまり盲目的に「俺には行政書士の仕事しかないんだ」と思い込まないこと。もっと自分の可能性を考えてよいはずです。

その上で行政書士で生きていくことを決意し、下記のようなタイプに該当するのであれば、あなたは行政書士に向いていると言えます。

①小心者、神経質
私もこの部類に入るのですが、小心者、神経質の方は比較的向いています。なぜなら、書類をつくるということは、細部まで気をつかう必要があるからです。あの書類の期限が気になる、この押印が気になる、など細かいところまで気になるほうが、行政書士に向いているのです。
②話し好き、コミュニケーション好き
意外に思われるかもしれませんが、黙々と書類だけつくっているのが仕事ではありません。お客様と打ち合わせをしたり、書類取得のお願いを電話やメールでしたりなど、行政書士の仕事は、実はコミュニケーションが非常に多い仕事です。さらに法律関係の仕事を扱いますので、難しい言葉をわかりやすく置き換えて説明したりする高いコミュニケーション能力が必要になってきます。

また、話すだけでなく、悩みを抱えて事務所に来られるお客様の話を聞く能力も、極めて重要です。

以前は、資格の力は絶大でした。さらに行政書士人口も少なかったので、「お客様から依頼をしてくるもの」とも思われていたため、コミュニケーション能力が多少なくとも、お客様は仕事を頼まざるを得なかったのです。そのため、「営業力がない」「コミュニケーション能力がない」人にも向いていると言われていたことがあります。しかしながら、もう行政書士の資格を持っているからといって、何とかなる時代ではありません。お客様との円滑なコミュニケーションを取れる能力が必要なのです。
③縁の下の力持ちが好きな人
行政書士の仕事そのものは非常に地味です。マンガ『カバチタレ!』などの影響により、弁護士のような派手な世界をイメージしている方も多いかもしれませんが、お客様と打ち合わせをし、書類をつくり、期限までに書類を提出する、これが仕事です。それに加え、仕事もあくまでもお客様のビジネスをサポートするのが仕事となります。そのため、自分自身が目立ちたいために行政書士をするのは向いていないといえます。
④企画・発想力が豊かな人
今後は行政書士の仕事だけで何とかしようという発想では、時代に取り残されます。そのため、行政書士にプラスアルファしたコンサルティングやセミナーなどを積極的に仕掛けていく必要があります。ですから、画一的な考え方よりも、豊かな発想力を持っている方が今後活躍の場を増やしていくでしょう。

以上が行政書士に向いている人となります。

ところで、最後に「企画・発想が豊かな人」という行政書士に向いている人のカテゴリーをつくりましたが、開業する前に忘れてほしくないことがあります。それは、「これまでのキャリアを活かす」ということです。行政書士は、試験の受験資格がないことから、さまざまなキャリアを重ねた方が多くいます。

しかし、ほとんどの場合、過去のキャリアをゼロにして、「これからは行政書士1本でやっていきます!」としてしまう方が多いのです。これは本当にもったいないことです。

行政書士となった瞬間、今度は行政書士の中で差別化をしていく必要があります。しかしながら、業務の中で差別化を図ろうとしても、何十年も行政書士業務をしているベテランにはかないません。そこでこれまでのキャリアを活かしながら行政書士をしたほうが、確実に差別化ができるでしょう。

例えば、営業経験が長ければ、営業を教える仕事をしながら行政書士をしてもかまわないのです。これまでのキャリアを活かしてください。

この点、私は非常に苦しみました。何の社会人経験もないまま開業してしまったので、差別化どころか、社会人としてのマナーも知らないなど、マイナス点ばかりでした。段階を追って、個人で仕事を取る方法がわかってきましたので、開業から1年経ってから、営業を教えるような仕事に取り組むことができましたが、生かせるキャリアがないということは非常に苦労をともないました。

行政書士オンリーで過去のキャリアをゼロにしてしまうのは、武器を捨てて戦いに挑むようなものです。ぜひ、これまでのキャリアを活かす道を探してみてください。

行政書士に求められる3つの能力

さて、「向いている人」の次は、こうした能力は最低限求められるということを解説しておきましょう。

①わかりやすく伝えるコミュニケーション能力
人好き、コミュニケーション好きな人は、行政書士に向いているとお伝えしましたが、これはあくまで人間性の話です。これとは別に、「難しい言葉をわかりやすく伝える」コミュニケーション能力が必要です。

どうしても専門用語が多い業界ですので、つい専門用語を使ってしまう傾向にありますが、お客様は専門知識を持っていません。持っていないからこそ、あなたに仕事を依頼しているのですから、難しいことをわかりやすく伝えるコミュニケーション能力は、極めて重要でしょう。

そして、言われれば当たり前なのですが、言われないと忘れてしまうことがあります。それは「元気でいる」「明るくふるまう」ことです。行政書士は「法律事務」ということで固いイメージがありますが、明るい人、元気な人のところに仕事が集まります。「会社設立を目指す起業家を応援します! 元気にします!」と名刺に書いてあるのに元気ないのでは話になりません。ぜひ、明るく元気にお客様と接してください。

特に、私のように大学を卒業してすぐに独立してしまった人は、あまり働いた経験がないために、自信が持てずに暗くなりがちです。何もなければ、せめて元気で明るい存在になってください。
②調査能力
行政書士の業務は広範囲ですので、すべての知識を網羅することは不可能です。そのため、お客様から相談を受けたときに、相談の悩みごとを解決するための「調査」が必要になります。

具体的には、役所の窓口、専門書、ネット検索、専門家の人脈などを頼りに、調べる能力を身につける必要があります。最近ではネットでほとんどの調べ物が完結しますが、ネットの情報は、①情報が不確か、②情報が古い、などの問題があり、最終的には役所などで最新情報を確認する必要が出てきます。そこで、自分なりの調査パターンを確立させておくのがいいでしょう。

私の場合は、次のようにして調査できる環境を整えました。
 (1)役所の代表電話一覧を用意しておく
 (2)専門書を事務所に備え置く
 (3)使えるホームページのブックマーク化
 (4)常日頃からの人脈構築

これでも調べられない場合は、正直に「前例がないので、時間がほしい」とお伝えすれば問題ありません。
③ハッタリ能力、宿題能力
行政書士はさまざまな相談を受けます。メールなどで相談された場合はゆっくり調べられますが、対面で聞かれたときにわからないことを聞かれる場合も多々あるのです。私の場合、会社の手続き関係は深いところまでわかりますが、その他の知識は広く浅くで細かいところまで即答できるかどうかは微妙なところです。

そこで、「わからないことを聞かれても堂々としているハッタリ能力」が重要になります。具体的には、わからないことを聞かれたら挙動不審にならず、「調べる必要があります。また今度ご連絡させていただいてもよろしいですか?」と堂々と言うことです。不安な顔は相手に伝わりますので、堂々としていましょう。

「即答できなかったら、信頼を勝ち取れないのでは?」と思われるかもしれません。しかし、物理的にも1万種類以上あると言われている行政書士の業務すべてに精通するのは不可能です。したがって、この方法しかないともいえます。

そうはいっても、この方法で顧客の信頼を勝ち取れるのだろうかと不安に思われるかもしれません。その不安を払拭するために、ひとつの例を出しましょう。

例えば、あなたの住んでいる家の外壁が痛んできたような気がして、リフォーム会社に来てもらった。そこであなたは「うちの壁、どうしちゃったんですかね?」と訪ねます。すると、リフォーム業者は堂々と「ちょっとわかりませんね……調べる必要がありますので、お時間いただけますか?」と言われたらどう思うでしょう。特に不審にと思うことは何もないはずです。

もし、相手が挙動不審になったら、「この人大丈夫かしら」と思うかもしれませんが、堂々としていれば、不審に思うことはないはずです。ですから、「堂々とする」ことが信頼を得るために重要です。

そして、堂々と「相談を持ち帰る」ことが重要です。もし相手に細かいことを聞かれても、あやふやな知識では断定しないこと。これはあなたの信頼を損なわないことと、相手に事故を起こさせないというふたつの意味で重要です。ですから、しつこく聞かれても、「今は断定的なことは言えないです、少し調べる必要がありますね」と堂々と持ち帰ること。そして事務所に戻ってじっくり調べればいいのです。最初は怖いです。しかし、このプロセスをくぐり抜けていかない限り、一流の行政書士にはなれません。

どのように自信を付けていけばいいか?

「行政書士でやっていく自信がなかなか持てません」と、正直におっしゃる方もいらっしゃいます。全くわからない業界に飛び込んで、しかもキャリアのある先輩行政書士としのぎを削るわけですから、その気持ちはよくわかります。

私も最初は自信が持てませんでした。必死で自信を持つためにはどうしたらいいかと考えました。そこで出た結論は「学び続けること」と「経験を積むこと」、これしかなかったのです。

行政書士として、生まれて初めての面談の相談は、離婚に関する相談でした。慰謝料がいくら取れるか、親権はどうなるのか、さまざまな疑問が湧く業務です。事前にできるだけ書物を読み、裁判例を調べ、相談に臨みました。

相談日当日、調布市のとあるビルに入っている喫茶店で女性のお客様を待ちました。足が震えていたのを覚えています。予定表らしき手帳には、相談に答えるためのカンニングペーパーでぎっしりです。どちらかというとお客様の愚痴を聞くことがメインになっていましたが、それでもなんとか相談の9割ほどには答えることができました。最終的に2時間ほどの面談で相談料をいただきました。2時間という短い時間でしたが、私には永遠に終わらない時間のように感じました。こうして私の初めての相談は幕を下ろします。

また次に別の案件で相談をいただきました。相続に関する案件です。相談の流れは把握できた。調べ方もわかっている。大丈夫だ。と、自分に言い聞かせました。その結果、初めての相談よりは足がふるえることもなく、相談を終えることができました。

あとはこれの繰り返しです。繰り返していくことで、少しずつ自信はついてきます。逆に言えば、短期間で自信を付けることは不可能です。私自身、自信の芽は少しずつ伸びていきました。3年、4年経ち、それが確固たるものになっても、今でもイレギュラーな相談に戸惑うことはあります。でも、そうした経験が積み重なって、自信になるのです。

プロとしての自覚を持って報酬をもらう

報酬をいただくときに「すみません」と言うか「ありがとうございます」と言うかで、その人がプロかどうかを見抜くことができるという意見があります。

お金を「すみません」と言って受け取るのは十分なサービスを提供できていないという不安の表れから。「ありがとうございます」と言って報酬を受け取ることができるのは、自信を持ってサービスを提供できたらからというわけです。

この言葉の違いが全てではありませんが、開業間もない頃は、自分のことをまだまだ半人前だと思ってしまいます。自分を過大評価し、自信が過信となり、不注意から事故を起こしてしまうのはよくありませんが、あまりにも過小評価するのも、開業後は控えたいものです。

なぜなら、あなたの自己評価がどうであれ、お客様はあなたをプロだと思って仕事を依頼しているからです。

以前、「横須賀さんは、若いのにもうプロですね」とお客様に言われたことがあります。まだ24歳の頃です。そのとき、「いえいえ、私なんかまだまだです」とつい本音で返し、報酬をいただいたときも「何だかすみません」と言ってしまった後に、そのお客様からこう言われました。

「横須賀さん、私は横須賀さんにお金を払っているんです。ですから、プロなんですよ。逆にまだプロじゃないとか言われたら、私が悲しいです。だからプロとして堂々としてください」

本当にこの言葉をいただいたことに感謝をしています。自己評価は重要じゃない。目の前のお客様に少しでも質の高いサービスを提供することが重要なんだと感じました。それからは、堂々と胸を張って「ありがとうございます」といただくようになりました。ちょっとした気の持ち方なのですが、重要なことだと考えています。

ところで、もしかしたらお金を稼ぐことに悪い意識を持っている方がいらっしゃるかもしれません。「儲けることは悪いこと」、日本の教育や世間の空気はどうしてもこうした拝金主義を嫌う傾向にあります。

このことは行政書士業界にあり、業界全体として「儲け=悪」というイメージが強いことも否めません。「清貧でいること」が美徳のように思われる業界でもあります。

しかしながら、開業し、生計を立てる上ではお金を稼ぐことは極めて重要です。そして報酬は、お客様の感謝なしには発生しません。お客様が喜んでいるからこそ、お金が支払われるわけです。つまり、稼いでいるということはお客様が喜んでいるということなのです。もちろんあくどく稼いで私腹を肥やすのは褒められたものではありません。適切な金額で良いサービスを提供することは、社会の役にも立ち、良いことなのです。

極端な言い方をすれば、たくさん稼いでお客様に貢献すれば、自分のスタッフも家族も喜びます。納税もたっぷりすれば、国も潤います。稼いで循環させた方が、全てにおいて好循環なのです。

なお、「政治家が信頼できないから、税金払いたくない。税金の使い道が気になる」という方は政治家になるしかありません。不平不満を言うのは起業家の仕事ではありません。自分のできる範囲で問題解決をすること。これが重要です。

もし、この考え方でもお金をもらうことに抵抗がある、という場合には、価格より価値を重視してください。例えば、5万円の業務だったら、10万円を付けてもいいようなサービスの質にします。そうすると、「安くて良いもの」に変わりますので、報酬を受け取りやすくなります。

「自分マインド」を持つ

「行政書士で重要なマインドは何ですか?」と聞かれたら、サラリーマンの考え方を捨てる、自分の人生に責任を取る、決意するなど多数ありますが、特に重要だと考えていることは、前述の「自分基準」に変えることと、「自分マインド」を持つことの2つを提案したいと思います。

「自分マインド」とは何か? その解説をする前に、私のエピソードをひとつお話しましょう。

2003年の開業から1年が経った頃、実際はその少し先に売上がグンと伸びるのですが、当時はまだひと月10万円~40万円の売上をいったり来たりする日々が続きました。当時、行政書士としてはかなり若いほうで、24歳という年齢の方にお会いすることはほとんどありませんでした。その中で、ちょっとした甘えがありました。

「24歳で食えているだけすごいほうだ。まだ若いからあまりうまくいってなくても大丈夫だろう」そんな風に考えている頃がありました。

しかし、自分とあまり変わらない若い行政書士がいることを知り、さらに売上は遠く及ばない年商1000万円を超えた人達がいることに気がつきました。

「同じような年代で活躍している人がいたんだ……それに比べ、なんて自分は才能がないのだろう。ダメなんだろう」と落ち込みました。

しかし、あるときこう考えたのです。

「なぜ、他人と比べる必要があるのだろうか? 別に今は負けていたっていいじゃないか。いつか超えればそれでいいじゃないか。そもそも自分は会社をリストラされ、準備なしに始めてしまったじゃないか。彼らとは何もかもが違うんだ」

行政書士は扱う仕事が同じです。ですから、つい「同じ時期の開業」「同じ年代の開業者」と自分を比べてしまうのです。しかし、これまでのキャリアも人脈も違うわけですから、同じように伸びるわけがないのです。そもそも比べて、仮に勝ったとしても自分のプライドが満たされるだけ。勝つこと自体に特出した利点はないのです。

もちろん競争心は重要ですし、勝つことでモチベーションが上がるという利点もあるでしょう。しかし、上には上がいます。その都度比べてしまっていたら、いつまで経っても満たされることはありません。これは行政書士に限ったことではありませんが、競争に終わりはないのです。ですから、他人と自分を比べないこと。これが重要なのです。

さらに付け加えて重要な考え方が、他人のことを考えるより、「自分の設定した目標を達成すること」です。ここに目を向けてください。自分自身がしたいことは何か? 自分自身の目標は何か? このように、まずは自分に目を向けること。これが「自分マインド」です。

扱う仕事が同じなので、どうしても他人と比べてしまいがちになりますが、それより自分の目標に近づくこと。そして目の前のお客様に喜んでもらうことを第一に考える。これが重要です。自分の目標を達成することに目が向けば、誰がどんな営業をしていても、どんな戦略をとっていても気になりません。同業者のリサーチは重要ですが、あくまでも自分の目標達成することを中心に考える「自分マインド」が重要なのです。

最後にもうひとつ。「自分マインド」を具体的に描いてください。抽象的ですが、非常に重要です。

脳科学的な解説は専門書に任せるとして、人はなりたい自分を強く描くことによって、そこを目指し始めます。「自分はダメな人間だ」と思っていたら、ダメになります。「できるかもしれない」と思えば、時間がかかってもなることができます。つまり、良い「セルフイメージ」を描いてほしいのです。

私の場合、最初は「フットワークが良く、知識も抜群な若手ナンバーワン行政書士」というセルフイメージを持っていました。こういったセルフイメージを持つことで、前向きに舵が取れるのです。

ポイントは、ネガティブなセルフイメージは叶うのが早く、ポジティブなセルフイメージは叶うまでに時間がかかるという点です。常に良いイメージを持つようにしてください。

すべて自分ひとりで完結させようとしない

「ホームページは自分でつくったほうがいいですか?」という相談も数多く寄せられるものです。これは「見栄えのいいサイトがつくれるならば、どっちでもいい」というのが答え。お金がない場合は自分で作るしかありませんが、お金があれば依頼できます。問題なのは、すべて自分でやろうとしてしまう考え方です。

仕事を最適化するには、「誰かに任せる」ことがポイントです。ホームページ作成、名刺デザイン、事務所のロゴなど、全部の仕事を自分ひとりで請け負ってしまったら、どんなに時間があっても足りません。効率を考えれば、自分しかできない営業や、サイトの文章作成などに専念すべきです。行政書士は書類作成のプロです。うたい文句として「法律書類の作成はプロにお任せください」と普段ピーアールしているくらいですので、ホームページ作成などもプロに任せるクセをつけましょう。

ちなみに、いろいろな仕事を誰かに頼むことで、自分自身に仕事を紹介してもらえることもあります。このように、誰かを頼る、ということは善いことづくめなのです。

私の場合、最初はお金がなかったので全て自作でした。2年間はとにかく自作。3年目で初めてウェブデザイナーに依頼し、現在は会社にウェブデザイナーをひとり採用しています。少しずつ、自分から「自分でなくてもできる仕事」を手放していきましょう。

実務と営業の考え方

行政書士業界には「実務を学ぶのが先か? 営業を仕掛けるのが先か?」という議論があります。これは、法律手続きを行う以上、実務知識をしっかり学んでから開業すべきという考え方と、行政書士といっても商売なのだから、営業ありきという考え方の対立軸です。

私自身の結論を言えば、「営業を重点に、実務知識を平行して学んでいく」ことがベストだと考えています。実務の勉強は終わりがありません。つまり、「ここまで学んだからOK」という目安がないのです。

ですから、実務知識だけ追っていると、永遠に開業できません。また、どこかの事務所に入って学ぶという方法もありますが、求人をしているところは本当に稀です。新卒採用はおろか、求人サイトにもないでしょう。

つまり現実的に働きながら学ぶというのは極めて難しいのです。それでもなお、事務所経験を積みたいという方は、片っ端から行政書士に電話なりメールなりで聞いてみることです。行政書士事務所の場合、縁故などで採用することが多いといえます。ですから、何かのタイミングで採用してもらえることがあるかもしれません。

このように、個人的な結論としては、営業が先です。ただし、実務知識がなくてもいいということではありません。「行政書士たるもの、実務知識はあって当たり前」です。具体的な学び方は別章に譲りますが、実務知識がなくて悩んでいるという場合には、悩む時間を読書の時間などにあててください。

開業のタイミングはいつか?

さて、これまで行政書士の実態、そして行政書士で成功するためのマインドについて解説してきました。いよいよ、具体的に開業するにはどうしたらいいかという項目に入ります。

その中で一番多い相談が、「開業資金」と「開業の時期」です。まずは開業資金の考え方から解説していきましょう。

具体的な開業資金の金額ですが、これに正解はありません。もう一度思い出してみてください。どうすればいいかではなく、どうしたいかです。少額の開業資金しかなくても、すぐ開業したい場合は開業する。不安であれば、できるだけ資金を用意する。基本的にはこれだけです。

私の場合は、前述のとおり30万円ほどで開業しました。なぜこの金額で踏み切れたかというと、男の一人暮らしなので、月に10万円あればなんとかなります。当時のアパートの家賃が6万円ほどでしたので、生活費を3万円に切り詰めれば3か月はなんとかなります。その3か月の間になんとかすれば、食っていけるという算段です。もし厳しくなれば、アルバイトをするというリスクヘッジもしていましたので、開業に踏み切ったのです。

しかしながら、これはあくまで私のケースですので、全ての方に当てはめると危険過ぎます。

そこで、開業資金を考える一定の公式を公開します。それが、「(1か月の生活費+1か月の事務所維持費+1か月の販促費)×軌道に乗せるまでの期間」です。

ポイントは、販促費まで含めること。生活費だけで計算してしまうと、広告費や交際費などの捻出が難しくなりますから、必ず販促費を含めてください。その販促費は、最低でも10万円は用意したいところです。最初は自宅を事務所にすれば、その分経費もかかりませんので、これで計算してみるといいでしょう。

なお、参考までに「お金がありすぎても失敗することがある」ということを覚えておいてください。お金があると、人間は怠けます。余裕が出てしまいます。「まだこれだけあるから大丈夫」、しかし、そんなお金はあっという間になくなります。

逆に、お金がないと必死になります。頭を使います。私の場合は後者でした。お金がないので、できるだけお金がかからず効率の良い方法を探し、行動をするようになります。

有り余る開業資金でスタートするのか、必要最低限の資金でスタートするのか、その答えは経営者となるあなたの判断です。

重要なので何度もお伝えしますが、「どうしたらいいか」ではなく、「どうしたいか」です。すべての判断は経営者であるあなたがするのです。こうした「判断すること」も経営者の仕事としては極めて重要なことなので、ぜひこの機会に覚えておいてください。

開業してから「営業を学ぶ」

次に多い質問が、「いつ開業すればいいのか?」です。

もうすでにお分かりだと思いますが、これもあなたが決めることです。そもそも、「このタイミングで開業したから成功する」という法則はありません。

年齢も関係ありません。よく「もう年配だからダメですか?」とか「23歳ではまだ早いでしょうか?」という質問がありますが、起業すれば誰しも1年生です。そして、若ければ体力があるなどのメリットはありますが、人脈、お金、経験の差で劣る可能性は高いです。逆に年配の方なら、体力は低下していたとしても、これまでの人脈や経験があるはずです。

ですから、先ほどの開業資金が貯まる頃を目安に、ご自身で開業の時期を決めてください。

ただし、何も考えずに「今だ!」と思って開業してしまうのは考え物です。最低限、本書の内容を理解して、経営や営業に関するビジネス書とセミナーなどからビジネスの基本を学ぶこと。これが失敗しないためには極めて重要なことです。

開業したものの、うまくいかない。こういう方達の最大の原因は、実知識がないことではありません。最大の失敗原因は、「経営や営業、マーケティングを学んでいない状態で開業してしまった」というものです。

多くの開業者が「もっと開業前にビジネスを勉強しておけば良かった」と言います。ですから、資格を取ったからすぐに開業し、営業は開業してからでは遅すぎますので、開業前から学んでください。

特に、現在は会社に勤めているのであれば、行政書士の資格を取ったからといってすぐに辞めて独立起業というのは考えものです。安直な独立起業をしてしまって、後で仕事は向いてなかったし、収入は減るし……ということになったら、後悔してもしきれません。もしあなたが会社勤めをしていて、しかも家族もいる場合などは、安易に会社を辞め、独立開業というのは控えてください。というのも、いわゆる開業本さえ読めばなんとかなるだろう、資格があるのでなんとかなるだろうという甘い幻想では、まず成功しないからです。

私自身は、お金もなく、営業や経営の知識もない、そんな状態で開業してしまいました。ですから、開業した後に営業を実践し、そして学び続けました。正直、実務をしながら経営の勉強を平行させるのは、肉体的にも精神的にも非常に厳しいものがありました。朝に本を読み勉強し、日中は手続きとお客様との打ち合わせ。帰ってからもビジネスの勉強……そして仕事が減ってしまえば、勉強する意欲は落ちます。そして電話やガスを止められてしまうことも多々ありました。本書をお読みのあなたには、このように苦しい思いをしてほしくありません。一定のビジネスの勉強。そしてある程度の開業資金を持った上で開業するようにしてください。

開業資金や運転資金を借りるべきか?

会社の給料から開業資金を貯めることができない場合には、どうすればいいでしょうか。全く開業資金がない場合には、「家族に頼む」か「お金を調達する」しかありません。

家族に頼むというのは、2パターンあります。ひとつは、結婚しているなら、共働きをし、生活の収入源を確保するというもの。もうひとつは、家族(親族)にお金を借りるというものです。

借金は悪ではありません。まったく縁もゆかりもないところから借りるよりは、融通の効く家族などから借りたほうが良いです。最終的に稼いで返せばいいので、家族から借りるのもひとつの手です。

「お金を調達する」のは、日本政策金融公庫などの金融機関から借りることです。公的な融資は金利も低く、借りやすいお金と言えます。例えば200万円借りたからといって、毎月何十万円も返済に追われるようなことはありません。特に行政書士などの公的な資格はお金を借りやすいと言われています。

なお、もしあなたが融資の業務を扱いたいと考えるのでしたら、一度くらい借りておくのもいいでしょう。お客様に「融資は適切に借りて適切に返し、効率良く活用しましょう」と営業する場合、自分自身が借りているほうが説得力があります。

例えば、私も会社設立を仕事にしているので、自分自身の会社をつくりました。現在はその会社を中心にコンサルティングビジネスをしているわけですが、自分がつくっていることで、お客様に安心感も与えます。

ちなみに、資金繰りが苦しくなるほど、お金を借りことが難しくなります。開業は、ある意味では借りるチャンスでもあります。この判断も経営者として下してほしいと思います。

「自分マインド」で成功しよう

 何度も繰り返しになりますが、最終的に自分自身の目標を達成すること。これが重要です。他人と比べず、そして自分自身でビジネスを決断していく。これが行政書士で成功するために必要な「自分マインド」なのです。

※掲載されている内容は、作品の執筆年代・執筆された状況を考慮し、書籍販売当時のまま掲載しています。

本書「行列のできる行政書士事務所の作り方」は、当初「Marketing Grip」と改題し、POWERCONTENTSPUBLISHINGより加筆編集の上再出版される予定でしたが、現在の刊行が未定となったため、現在は横須賀輝尚オンラインサロン四谷会議でその改変原稿を読むことが可能になっております。

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