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花町風子のおなかいっぱい胸いっぱい

Special Thanks

本作品は、頭のなかで夢子さん口調(?)で語りかけてきた、花町風子の飲食店巡りの物語。(と言っても、今回出てくるのは1店舗。シリーズ化未定。)
勝手にありがとうございます、ごめんなさい、六太さん、夢子さん。ファンです。思ったより夢子さん口調が真似できていないかも、まあそれも風子なのだということにしておきます。
そして、職場近くで行きつけと化しつつある某喫茶店さんとそこのマスター、店員さんから着想を得ました。これからも通います。いつか常連と名乗れるかしら。
タイトルはラジオの箱番組風(怒られる)。
それでは、もしよろしければ読んでやってくださいませ。

すーこ

「あら花町さん! 今日はどちらへ?」
「ちょっとそこまで」
 エレベーターで一緒になった他部署の同僚と、たわいもない話をしながら外へ出ます。彼女はコンビニへ行くよう。私もいつもお世話になっているコンビニです。そこで別れて、私は大通りの横断歩道を渡ります。

 大通りをしばらく進むと、左手に見えてきますよ。ほら、都会のビル街でひときわ目を引く、あの昔ながらの喫茶店。名前? 扉の横を見てくださいな。彫られているでしょう。時の流れを感じさせる、少し読みづらいけれど、味のある「ウインド」の文字。初めて入るときは緊張しました。重厚感のあるこの扉の前で。ドアノブに手をかけるまで、数秒。この時間が長く感じたこと。
 あら、私ときたら、自己紹介が遅れました。私、花町風子と申します。華麗の華でなく花盛りの花に、街路樹の街でなく小野小町の町、楓でなく風来坊、花鳥風月の風、そして子どもの子。花町風子でございます。小学校二年生までに習う漢字で構成されていますの。読みやすくていいでしょう。以後お見知りおきを。

 さて、ドアを開けましょう。中に入れば、外の喧騒を感じさせない、静かでゆったりとした空気に包まれますよ。少し気難しい顔をしたマスターが、カウンターを勧めてくれます。常連さんで賑わっていますから、お一人でしたらカウンターでも堪えてくださいな。
 でもね、このカウンターがいいんです。前の作業場は少し掘られて床が下がっていて、こちらからは全貌は見えないのですけれど、慣れた手つきで料理を進めていく鮮やかな手さばきは、お見事と言わざるを得ません。奥の厨房と手前の作業場、ホールを忙しなく移動しながら、店員さん、料理人さんにてきぱきと指示を出していきます。少し無愛想ながらも、ちゃんと馴染みのお客様をしっかりおもてなししているのは、通えば伝わってくるんです。といっても通いはじめたばかりなんですけどね。マスターや店員さんの様子がよく見え、お客様の楽しげな声を後ろに聞きながら待つ、このカウンターでのひとときも、ここでの大切な時間だったりします。
 内装や音楽も素敵なんですよ。レンガ調の壁に囲まれつつ、このカウンター前の作業場の面だけは石がはめ込まれた壁になっており、味のある西洋画が飾られているの。カウンターとレジの間の机には、サスペンダーをして髭を生やした陽気な西洋のおじさんの置物。椅子も机も昔ながらの喫茶店らしい、歴史を感じる木目の綺麗な木でできたもの。音楽は、レコードがかかっていて、なんてことはなく、なんと最新のBluetoothスピーカーで懐メロがかかっていて、そこは今どき。でも、選曲がいいんです。ここは、いっとき、仕事を忘れさせてくれます。

「たけちゃん、カウンター1番さんに、サラダとアイスコーヒー」
 店員さんが、アイスコーヒーを持ってきてくださいました。あなた、たけちゃんって言うのね! お世辞にもたけちゃん感はないけれど。マスター以上に表情のない顔をして、あなた、接客業楽しい? って心配になるほどのあなた。マスターにたけちゃんって呼ばれる間柄なんて。私は五回目にして、静かに感動しております。
「ミルクとシロップは?」
「えっと…大丈夫です」
 そう言うと、すっとアイスコーヒーとストローを置いて、たけちゃんさんは作業場へと戻っていきました。私ったら、本当はコーヒーが苦手でミルクがほしかったのに、なぜか口から断り文句が飛び出してしまいました。それでもここのアイスコーヒーは比較的飲みやすいので、大人しくいただきます。ゴクリ。おいしい。最近暑くなってきたから、このおっきい氷の入ったコーヒーが沁み渡ります。サラダも野菜たっぷりで、手作りのドレッシングがやさしいお味でおいしいです。
「たけちゃん、カウンター1番さんには僕が行くから、ご新規さんお願い」
「っす」
 たけちゃんさん、マスターに対してあなた。まあまあ、それでもいつもいらっしゃるし、辞めるつもりも辞めさせるつもりもなさそうね。そういう関係性を築いてきたんでしょうね。

「お待たせしました、オーロラパスタです」
 オーロラパスタことトマトクリームパスタが運ばれてきましたよ。ここのオーロラパスタ、絶品なの。
「おいしっ」
 あらうっかり、独り言ちてしまいました。でも、それくらいおいしいのよ。粉チーズも器で持ってきてくださるけど、粉チーズ好きの私でもほとんどかけないくらい、ソースが洗練されていて絶妙な塩加減なの。パスタや具と絡み合って、やみつきになっちゃう。黙々と食べ進めながら、おいしさと、心地よい雰囲気に浸る、この贅沢なひとときのおかげで、午後の仕事もがんばれるというもの。あぁ、おなかいっぱい! おいしいもので満たされると、充足感が違います。

「ごちそうさまでした」
 お会計を済ませて、また都会の街へと戻っていきます。ここはこの界隈ではお財布にやさしめなところもありがたくって助かります。
 自分らしさを見失いそうになるとき、ここに来ます。するとどうでしょう、からっぽになった気持ちでいられ、こぽこぽと泉が湧くように、元気が湧いてくるのです。田舎生まれ田舎育ちの私は、やっぱり緑が恋しく、静けさが恋しい。少し余裕のある昼休みに、ここで落ち着いて、寄り道をして、道路のアスファルトの間から伸びた花を見ながら職場に戻るのが、私のひそかな楽しみのひとつだったりします。
 職場が近づいてまいりました。それでは、ごきげんよう。

🍃

久々に、なんでもない新作です。

このときの話、着地は少し想定とは違うものになりました。
でも、書きながら純粋に楽しかったです。
六太さんのように軽やかにユーモアたっぷり、茶目っ気たっぷりには書けませんが;
いつもと違う口調になりきって書くのもいいですね♪
外食は料理ももちろん、お店の雰囲気も大切で、その居心地のよさが長く行きたくなるところです。後、懐にやさしいところも。
おいしいところは紹介したくなるんですが、許可をとる勇気もなく、ずっと書くのをあきらめておりました。
でも、物語風に書けばいけるんじゃ!?しかも、喫茶店で頭のなかに風子さんが誕生してしまいました!これは書くしかない!
そうして、風子さんに語っていただきました。
夢子さんと最近行きだした喫茶店がなければ、風子さんはこの世に生まれませんでした。
改めまして、夢子さんと生みの親六太さん、喫茶店の渋いマスターと店員さん、ありがとうございます。

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