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在日コリアン福祉施設・エルファが語る「教育の意義」。コロナ禍でも積極的な交流・研修を行う理由とは?【後編】

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2020年春、在日コリアンについて学びたいと強く思っていた筆者は、知人に南珣賢さんを紹介された。福祉施設のため、新型コロナウイルス感染も心配された。しかし、南さんは在日コリアン1世の話を聞く会を設けてくれた。学生のために、ここまで真摯に対応してくれるのはなぜだろう。他の施設とは違う温かさもあった。その背景に迫るため、取材した。

京都市南区東九条にあるNPO法人「京都コリアン生活センター エルファ」が2020年、設立から20年の節目を迎えた。エルファは在日コリアンへの福祉サービスを中心に行うNPO法人。エルファを拠点とした、地域での多文化共生事業も広く行っている。これまで様々な研修・交流を受け入れてきた同団体だが、きっかけには朝鮮民主主義人民共和国による日本人の拉致事件が発覚した年に行われた、ある団体との交流があった。エルファ20年の歩みにおける、研修・交流受け入れの意義について、同センター南珣賢(ナム・スンヒョン)事務局長に聞いた。前編はこちら

(聞き手:三井滉大)

在日コリアン1世のおばあさんと日本人学生が交流する様子(写真提供:谷本修)

京都コリアン生活センター・エルファには他の福祉事業所と大きく様子が異なる点がある。それは子ども、学生、社会人等の研修・交流の積極的な受け入れだ。その数は年間で700人から800人、20年で289団体に及ぶという。研修・交流受け入れのきっかけとして、南事務局長は東本願寺(京都市下京区)の中高生の研修団体との出会いをあげた。

京都の由緒ある東本願寺と交流をはじめた2002年は、朝鮮民主主義人民共和国が長年否定していた日本人の拉致事件を公式に認めるに至った年である(内閣官房 拉致問題対策本部事務局「北朝鮮による拉致問題とは)。この拉致事件の公式発覚日である9月17日以降、日本国内では在日コリアンへのバッシングや嫌がらせが顕著になった(日本弁護士連合会「在日コリアンの子どもたちに対する嫌がらせ等に関する会長声明・緊急アピール」)。当時エルファ職員は、日本社会を敵に回したと感じ、大きなショックを受けていたという。日本社会による批判は、在日コリアンに大きな衝撃を与えた。

そんな時、東本願寺は「当事者の生の声を聞きたい」と交流の申し出をした。交流に参加した中高生からは、率直な質問が飛び交い、危惧していた拉致事件への質問もあったという。しかし、在日コリアンのおばあさんは「悪かった」と謝罪し、こう続けた。「自分は学校に行っていないけど、なぜこんな悲しいこと(拉致事件)が起きたか分かる、それを勉強してほしい」と学生たちに言葉を送ったそうだ。謝罪を受けた中高生たちから「謝ってくれたハルモニ(おばあさん)に自分たちから謝ることができなかった」という感想が寄せられた。

キャプション:エルファの外観(撮影:三井滉大)

東本願寺との交流を通し、在日コリアンの笑顔の裏にある悲しみは、日本人にも伝わることを経験した。これに交流の意義を感じ、交流・研修の積極的受け入れ姿勢に変わったのだった。

南事務局長は交流・研修の受け入れについて「教育は今日、明日で変わるものではない。でもこれからの人生にきっと活きるものだ」と当事者の語りを中心にした教育の意義を強調した。

コロナ禍でのエルファの学び

インターンでインタビューする福井さん(写真左)と答える南事務局長(写真右)(撮影:三井滉大)

2021年の春先に本記事を執筆したが、新型コロナウイルス禍は収束の兆しが見えない。積極的な交流・研修の受け入れ姿勢は、コロナ禍でどのように変化したのだろうか。私は2022年2月下旬に再び、エルファを訪ねた。

そこには制約を受けながらも、訪れる学生らが、当事者の語りに耳を傾ける姿があった。数十名規模の団体の受け入れは出来なくなったが、少数の研修やインターンの受け入れは続けている。「限られた制約のなかでもできる方法を探ってやっていこう」と南事務局長は前向きだ。少人数ならではのメリットもあり、個別でのやり取りが増えた分、ひとりひとりの学びのニーズに合わせた学びの場が実現している。

京都産業大学3年の福井実侑さんは仲間ふたりとインターンに参加した。福井さんは大学で韓国語を専攻しており、言語の他にも朝鮮半島の文化や歴史を学んできた。「在日コリアンの方がいらっしゃる団体がある」と友人からエルファを紹介され、インターンへの参加を決めた。

2月下旬、福井さんは「京都モアネット」という外国にルーツを持つ高齢者・障がい者の生活支援を行う団体の村木美都子さんに話を聞いた。社会保険の制度から外れてきた在日コリアンに制度に加入してもらうように活動をしてきた歴史や、ひとりひとりの文化的背景を尊重した生活支援について聞いた。この日は、受講生のひとりである福井さんに対し、南事務局長と村木さんふたりという手厚い対応だ。福井さんは村木さんの話を丁寧にメモし、質問を投げかけていた。その後は、ヘイトクライム(差別犯罪)対策を求める院内集会にオンライン参加するなど、在日コリアンについての学びは多岐に及んだ。

従来の研修であれば、エルファ利用者と積極的に関わり対話することが醍醐味だが、それは叶わない。利用者の中には感染対策に敏感になっている人もいるため、配慮が必要だからだ。しかし、エルファはこれまで通り豊富な学びの機会を設けていたのだった。

コロナ禍であっても、エルファの研修受け入れに対する思いは変わらない。南事務局長は「人を知ると、より自分を知ることになる」と話す。異なる他者との関わりの中で、自分を客観視できる人を育てている。エルファ、そして南事務局長の教育への熱い思いは、変わっていなかった。

※本記事は2021年6月8日にPaco Mediaに掲載された 「<エルファの20年> 積極的な交流・研修の受け入れ「教育は今日、明日で変わらない、でもこれからの人生にきっと活きる」」の記事を編集、加筆しました。


執筆者:三井滉大/ Kodai Mitsui
編集者:田中真央/Mao Tanaka

インタビューを受けてくれた方:南珣賢(ナム・スンヒョン)さん。慶尚北道にルーツを持つ在日コリアン2世。京都コリアン生活センターエルファ事務局長。朝鮮新報元記者。小学校から大学まで民族教育を受ける。現在、大学にゲストスピーカーとして授業に赴くなど、積極的にエルファの活動を発信している。

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