ちょ、そこの元サブカル女子!~白川ユウコの平成サブカル青春記 第二十六回/だいたい三十回くらい書きます

 
1997年 平成9年 21歳 大学3年生


☆7月 イギリスから中国へ香港返還、宮崎駿「もののけ姫」「新世紀エヴァンゲリオン Air まごごろを君に」、週刊少年ジャンプで尾田栄一郎「ONE PIECE」連載開始
☆8月 ダイアナ妃死去、ストリッパー一条さゆり死去
☆9月 マザー・テレサ死去


 夏休みは、三つのアルバイトに勤しんだ。編集プロダクション、紀伊国屋書店、軍服パブ。仕送りの家賃と、生活費や教材費に充てる奨学金だけでは遊べない。
 遊びといっても、週末にクラブで朝まで踊っても2~3000円の入場料と飲み物500円ほど、もしくは水道水。洋服だって高価なものは買わない。本はなるべく立ち読み、図書館、図書室、貸し借り、どうしても欲しかったらバイト先で社割で購入。大学の友達とは私の下高井戸の部屋で家飲み。食事はほとんど自炊。
 紀伊国屋書店渋谷店でレジ業務中、何冊かお会計に出されたお客様にクレジットカードのサインを求めた。書かれた文字は「小林カツ代」…お顔見たらご本人!!「カツ代先生!一人暮らし始めて最初に買ったの、先生の本です!」というと、「あらー、ありがとう。ここのお店も私の本をたくさん置いてくれてうれしいわ」というお言葉を賜った。揚げ物だけは怖いのと、廃油の処理に困るので未経験だったが、ひととおりのことはできた。自炊は安い。
 では、なぜそんなにまでしてお金をかせいだのかというと、ようやく、高校時代に友人コイちゃんと出会ってからの悲願、インド旅行の実現!旅費はバンコク経由の航空券12万円プラス諸々、予算は20万円ほど。
 日程は9月1日から2週間。コイちゃんはすでに4年前にインド一人旅から帰ってきていた。二人の愛読書は小田空先生著『目のうろこ』。女の貧乏旅行上等記。漫画、イラスト、文章で世界各国の事情とエピソードと旅のノウハウがぎゅっと詰まったすてきな本。私は幼稚園児の頃から小田先生が「りぼん」で連載していた「空くんの手紙」が大好きだった。加えてコイちゃんと私は大の大槻ケンヂファン。いざ行かん北インド三都市、デリー・アグラ・ジャイプール!
 成田空港から朝早く出発するために、コイちゃんは京王線沿線下高井戸の私の部屋に前泊した。8月31日。テレビをつけたまま漫画などを読んでいると、ニュース速報。イギリスのダイアナ妃、車が激突して死去?うわあ!なんてこと!
 ニューデリーからオールドデリーの安宿(一泊1500円ほど)滞在を経て、タージマハルのあるアグラへ鉄道で移動。この街は世界中から観光客が集まるので、犯罪も多い。一泊だけして長距離バスでジャイプールへ。
 「地球の歩き方」に載っていた宿に部屋はあるかと主人に尋ねると、「日本から来たのか。おいで。イギリスの有名な女性が亡くなった。インドでも日本でも人気のあった人だ。偉大な人だ」(英語)といってロビー(ちっちゃな応接間)のテレビを見せてくれた。「知ってます。ダイアナ妃でしょう?」(英語)というと、画面に映ったのは、横たわったマザー・テレサだった。英国・印度・日本。なんだか不思議な転換点に立ち会った気持ちだった。
 インド女一人旅経験者のコイちゃんと、英検2級でセクハラリクシャードライバーにガーッと説教できる程度には会話のできる私の二人。多少のアクシデントはあったが深刻なトラブルには遭わず、ハプニングの連続ですてきな旅であった。
 私は小さなスケッチブックと色鉛筆を持っていき、毎日、絵日記を書いていた。カメラは盗難のターゲットにされるのであまりバッグからは出せず、紙にスケッチしたり目で記憶して、夜の宿でイラストと文章を書いた。チケットやレシートなど、捨ててしまうような小さな紙類も、糊で貼り付けるとそれなりにお洒落なスクラップブックになる。
 帰国して土産話をするにも、写真だと毎回、口で解説しなければならないけれど、イラスト&文章なら、見てもらうだけでいい。これは大変好評で、「またどこかへ行ったら書いて見せて」と言われた。またどこかへ行って書こう、と思った。


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