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マンション管理組合が抱える4つのリスク

管理組合の役員さんに対して、管理見直しのアプローチの方法を説明する際に、私がかならずお話しすることがあります。

それが「管理組合が抱える4つのリスク」です。

どんな管理組合も、この4つのリスクから免れることはできません。

しかしながら、分譲マンションを購入した時の高揚感・カタルシスの影響で、多くの方々はこれらに気づかないまま時が経過してしまっているのが現実です。

ただ、本当に充実したマンションライフを送りたいなら、この4つのリスクと真摯に向き合って対策を考え、それを着実に実行する必要があります。

1.適正な水準ではない管理委託費

皆さんが毎月銀行引き落としで徴収されている管理費。これが一体何に使われているかご存じでしょうか?

主要なものは、次の3つです。
◆ 管理委託費
◆ 光熱費
◆ マンション保険料

その中でも全体の7〜8割と圧倒的な割合を占めているのが、管理会社に支払う「管理委託費」です。

この委託費の内訳としてその構成する項目を見てみましょう。

◆ 管理員業務費
◆ 事務管理費(管理組合の出納会計のほか、理事会・総会の運営サポート全般)
◆ 清掃業務費(掃き拭き中心の日常清掃のほか、床の機械洗浄を中心とする定期清掃がある)
◆ 設備保守費(エレベーター、消防設備、給水設備、機械式駐車場、宅配ロッカーなど)
◆ 植栽管理費
◆ 遠隔監視・緊急対応業務費(専有住戸内を含む場合が多い)

管理会社との契約の取り決めで、これらを毎月定額の費用として支払っているケースがほとんどだと思います。

下記の管理費単価の動向から、3LDKタイプの部屋を前提とした場合の負担を計算すると、およそ月額1万5,000円(216円×70㎡=15,120円)になるのではないでしょうか。

ただ、実際にこれらの費用を賄っているのは「管理費だけ」ではありません。

管理費以外にも、いわゆる専用使用料として「駐車場使用料」なども加算されることで帳尻を合わせているでしょう。マンションの中には、駐車場使用料が管理費収入とほぼ同じ水準で貢献しているところも見かけます。

問題は、この「管理委託費が果たして適正な金額なのか?」ということです。

ところで、皆さんのマンションの管理会社はどちらでしょうか?
その管理会社は、マンションが竣工する前から決まっていませんでしたか?

ほとんどの分譲マンションでは、竣工後の管理を受託するのは売主である「デベロッパーの系列会社」です。

三菱地所の「ザ・パーク・ハウス」なら三菱地所コミュニティ、三井不動産の「パーク・ホームズ」なら三井不動産レジデンシャルサービス、野村不動産の「プラウド」なら野村不動産パートナーズといった具合です。

「三井のマンションなのに、野村が管理している」なんてケースはまず聞いたことがありません。

そして、買主である皆さんも、それが当然であるかのように受け入れていることでしょう。

というもの、マンション購入の決め手となる要因の一つが「売主の信用力・ブランド力」だからです。

また、その後のアフターサービスや、横浜市で発覚した杭打の偽装事件などのように何らかの瑕疵が見つかった場合も含めて管理も売主と同じ系列の会社に任せた方が無難であると考える傾向もあります。

それよりも注目すべきなのは、管理会社を選ぶ際に「競争原理が働かない」という点にあります。

そのため、管理委託費は管理会社の「言い値」で決まっているのが実情で、その後もほとんど見直されないまま放置されています。

その結果、適正な金額と比較すると、少なくとも3割から4割くらい割高な負担を強いられています

ところが、残念ながら一般の人には自分のマンションの管理費が割高な設定かどうかという知見を持ち合わせていません。

たとえば、エレベーターの保守点検費が毎月7万円かかるとします。これって「適正な金額」なのかをどうやって判断しますか?

この費用を見積もるには、1年のうち何回技術者が現場で点検するのか、契約はフルメンテナンスなのか、何階建てのマンションなのか、速度は分速何メートルか、といった設備や仕様に関する条件をもとに検討しなければなりません。

しかし、管理組合役員の方は「業界の素人」ばかりなのが普通ですから、判断のしようがありませんね。

せいぜい別の管理会社から相見積もりを取って比べるのが関の山でしょう。

でも、実際にはそこまで粘り強く管理を見直そうとする人は稀です。と言うより、そもそも問題意識のない管理組合がほとんどなので、そういう発想も湧かないのが実情です。

では、当事者である管理会社に見直しを要求したらどうなるでしょう?ハッキリ言って、あなたのマンションを受け持つフロント担当者もよく知らないと思われます。

社内の縦割り型の業務分担制のなか、管理委託費の原価構造まで熟知しているのは、リプレイス(管理会社変更)の営業部隊など、ごくごく一部しかいないはずです。

もちろん高いだろうなとは感じていますが、一体会社がどれくらいマージンを抜いているかまでは熟知していないでしょう。

そして、割高な管理委託費は見直されないまま放置されていくのです。

2. 修繕積立金の「簿外債務」問題

マンションの区分所有者にとって、管理費以上に深刻な問題が「修繕積立金の負担」に関するリスクです。

一般的に、新築時の修繕積立金は管理費の半額程度の水準であることが多いでしょう。たとえば管理費が14,000円なら、積立金は7,000円くらいといった具合です。

マンション購入する前に販売会社がやってくれる資金シミュレーションではも、これらの負担はそのままキープされる前提で考えていませんでしたか?

しかし、そこに実は大きな「落とし穴」があります。

実は、新築時の金額はマンション購入を促すための「見せ球」であって、本来必要な金額の半分程度にわざと設定しているのです。

2011年に国交省がマンション購入者向けにリリースした「修繕積立金ガイドラインがあります。これによると、均等積立方式にもとづき必要な修繕積立金は、専有面積(㎡)あたり月額200円前後です。

ところが、新築マンションの平均は月額95円に過ぎないというデータがあります。

このガイドラインで示されている金額は、マンションの竣工後30年間で必要となる大規模修繕、主要設備の更新を一通り盛り込んだライフサイクルコストの目安となるものです。

ライフサイクルコストとして必要な金額に対して新築時に半額以下しか集めないなら、最終的に当初の金額の4倍くらいに増やさないと帳尻が合わないだろうことは、小学生でも分かる話です。

しかし、その点の説明がマンション販売時に十分なされないこともあり、重要なリスクを認識しないまま購入を決断してしまうことになります。

なぜ説明がなされないのか?それは、売主の販売戦略上の事情にすぎません。

もし、新築時から本来必要な水準で徴収金額を設定したら、購入者の可処分所得がそれだけ減ることになりますね。となると、住宅ローンを組む際の借入可能額も数百万円単位で少なくなるはずです。

つまり、販売価格をなるたけ高く維持するために、故意に修繕積立金を低めに設定しているのです。

その結果、管理組合の会計上、徴収した積立金は銀行預金等で資産に計上され、常に貸借対照表上はバランスしてはいますが、は半分以下しか満たしていないのが実態なのです。

私は、このように長期修繕計画で必要とされる資金総額に対して修繕積立金が将来不足する状況のことを「簿外債務問題」と呼んでいます。

3.「ずぶの素人」が運営する脆弱な体制

管理組合の役員さんの仕事って、町内会や学校のPTAと同じく「貧乏くじ」だと思われてますよね?

せっかくの休みの日をつぶされて、よく分からない専門的な話や隣近所の揉め事を巡ってあーでもない、こーでもないと議論して最後は結論を出さなくてはならないし、かと言って大した報酬も期待できない「半強制ボランティア」というイメージが一般的なのではないでしょうか。

でも、考えてみてください。管理組合を巡ってかなり大きな単位のおカネが動いています。管理費と修繕積立金、駐車場使用料をあわせて毎月3万円払っていれば年間36万円。100戸のマンションなら年間収益は4千万円近くにものぼります。修繕積立金にいたっては、10年も貯まれば軽く「億」を越える金額になります。

このマンションを巡る多額のおカネをどうやって運用するのかを、皆さんは理事長をはじめ管理組合の役員たちに委ねています。こうしてみると、管理組合とは「資産管理会社」であり、その理事会は「経営幹部・取締役会」と置き換えることができます。

でも、管理組合を会社のような組織と比較した場合、明らかに異なる点があります。

それは「経営を担うのが、プロフェッショナルかそうでないか」です。

特に多くの上場会社では、所有と経営が分離していることが多く、所有しているのは株主でも、経営幹部や役員はたいていの場合「その道のプロ」です。

一方、管理組合はといえば、「所有も経営も同じ区分所有者」です。つまり専門知識のない「素人」の双肩にかかっています。そのうえ、輪番制を採用し、役員は毎年一斉交代するのが慣例になっている組合が多いのが実情です。

「多額のおカネの使い道を管理して専門的な知識が求められる」のに、「町内会やPTAと同じような半強制ボランティア方式の人事で運用している」のが管理組合運営の最大のリスクだと言えます。

これって怖くないですか?

4.利益相反の管理会社への依存体質

専従者もおらず、揃ってみな「素人」なのに、輪番制で役員が毎年のように交代する管理組合が、果たして自立して運営できるのでしょうか?はい、もちろんできるわけがありません。

「だから、管理会社に組合運営を任せましょうね」というのが分譲マンション業界の「常識」です。

国交省の管理組合を対象とする調査結果においても、管理組合全体のおよそ7割は「全部委託」といって、管理人業務から、清掃・設備保守・事務管理までの一切をパッケージにして管理会社に頼んでいます。

「任せる」といえば聞こえはいいですが、実際には「丸投げ」状態になっている組合も少なくありません。「丸投げ」とは、管理会社に対するチェックやモニタリング機能が働かない、ということです。

そうなると、管理会社は事実上セルフチェックを求められることになりますが、顧客である組合との間にいい意味での緊張感がなくなり、緩みが出てきます。その結果、品質とコストの面でリスクが生じてきます。

酷い場合には、管理会社の社員が管理組合の財産を長年着服するような事件も起きています。

そこまでではなくても、工事も管理にかかる費用が適正かどうかを判断できる知見を持ち合わせないまま管理会社に発注することで、管理組合が割高なコストを負担している事例は枚挙に暇がありません。

「管理組合、言い換えれば全区分所有者が負担している費用が、管理会社の売上・利益になっている」という利害関係がある以上、管理会社は「業者」であって、「パートナー」として扱うのは間違いです。

管理会社から管理組合の利益を守るには、管理組合サイドに立つ人材が必要だという認識を持つことが大切なのです。

【ライター関連サイト】

◆ 世直し本舗|村上智史の「士魂商才!」(blog)

◆ マンション管理見直し本舗 会社サイト



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