見出し画像

BUTTER感想(料理ってこわい)

料理には、恐怖が伴う。
小学生の頃、親の監督なしで自分1人でお菓子作りをするようになってから感じたのは第一に「恐怖」だった。

たったひとりで全工程をやりきれるのか。
気づかぬ内にミスをして、それまでの仕事が全部無駄にならないか。
食べて安全なものを作れるのか。
時間内にやりきれるのか。

もしかしたら料理経験の豊富なひとには、感じたことがない感情かもしれない。
私はどちらかと言えば、いや。どちらかとも言わずとも、料理が下手だ。とくに食材のカット、加熱が苦手なので、それこそほんとうに「食べて安全」なものを作れるようになったのは、結婚して台所を預かるようになってからだと思う。

野菜に比べて、生の肉や魚のテラテラとした生命力を前にすると、もし失敗して捨てざるを得なかった時に、彼らは何のために生きてきたのだろうと途方に暮れることもある。

そういった恐怖心を初めて小説で言語化してもらった。
それが「BUTTER」だった。
私以外にもそう感じていたひとがいた、ということに肩の荷がおりたように感じた。

きっと柚木麻子はそういう些細な、でも確かに存在している恐怖を描くのがうまい。
人間関係が歪んでいく様を描く一方、そこにふと立ち現れる不可解な恐ろしさに、何度もギクリと身体を固めた。

本書は「木嶋佳苗事件」を題材にした作品。雑誌編集者の里佳が被告人・梶井真奈子への取材の中で2人の関係が歪に歪み、支配者と被支配者の関係がゆらりゆらりと揺れていく緊張感が面白い。2人をつなぐ「食」というキーワードが、それぞれの女性にとって様々な意味を持っていることも興味深い。

そろそろ暑くなってくるのでヒヤリとした恐怖感を感じたい方は是非。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?