見出し画像

『「身体拘束最小化」を実現した松沢病院の方法とプロセスを全公開』を、組織を変える必要がある人にオススメする

『「身体拘束最小化」を実現した松沢病院の方法とプロセスを全公開』(東京都立松沢病院編集/医学書院)を読んでいる。

松沢病院は、東京都が設置・運営する精神科専門病院。

この本は、身体拘束が多かった松沢病院が、2012年に身体拘束最小化へ舵を取り、実際に身体拘束を減らしていった実践を描いている。

患者がベッドから落ちるのを防ぐために安全帯をつけたり、車椅子で転倒したりするのを避けるために安全ベルトをつけたり、経鼻チューブなどの器具を抜かないようにミトンをつけたり、「患者の安全を守るために」という理由で病院ではさまざまな身体拘束が行われる

ぼくの父が広島の病院に入院したときも、「暴れてベッドから落ちてしまう」といいうことで安全帯で身体拘束されていた。

本書の第一章で、身体拘束の定義が曖昧だと語られる。「身体拘束がない」とされる病院でも、実際に拘束帯が巻かれ、ミトンがつけられ、車椅子ベルトが装着されているという。
身体拘束の定義が曖昧だからだ。
一時的な固定は身体拘束に含めないでいるが「一時的」が何分、何時間かは定義されていない。それぞれの現場の解釈にゆだねられている。

「拘束」を「安全帯」「安全ベルト」という言葉に替えて、都合の良い解釈をしていないか、と問う。

松沢病院では、身体拘束を明確に定義し、最小化へ取り組んでいく。

とはいえ、とても難しい問題だ。「定義して、身体拘束ゼロを目指せばいい」では終わらない

たとえば第2章に、車椅子ベルトの使用をやめて、車いすテーブルに代替していったエピソードがでてくる。ベルトで固定するのではなくて、患者の胸の前に設定できるアームレストやプラスティックテーブルで転倒・転落を予防するのだ。

「ベルトの時は股を通すのできつかったし、恥ずかしかった」が、テーブルだとそういったことがなくなる。拘束感もなくなる。

だが、看護師から「車椅子ベルトと車椅子テーブルの違いがわからない。結局は患者を動けなくしていると思う」という意見が上がってくる。
こういった意見を、「身体拘束最小化への意識の向上」と捉えて、「代替手段はあくまでも途中経過であり、常に見直し、そこで止まらない」という考え方を提示しているのが、この取り組みの凄いところだ。

松沢病院では、2016年に車椅子ベルトの使用者がゼロになり、次のステップとして車椅子テーブルの使用を最小限にするために日々創意工夫している。

『「身体拘束最小化」を実現した松沢病院の方法とプロセスを全公開』(東京都立松沢病院編集/医学書院)は、こういった取り組み、25の方法、15の事例といった記述のあいだに、看護師、病院長、看護師長など、それぞれの立場の人のテキストや対談が挟み込まれている(「身体拘束最小化を目指す」という新医院長が言い出した時の「患者の安全を守れなくなる、そんなの無理!」と現場が凍りついた感じ等、立ち位置によっていろいろな受け取り方や意識の変化が語られるので、多角的に読み取れる)。

これは病院内の話にとどまらない。プロジェクトや組織を改革していく必要がある人は、とても参考になる「プロジェクト攻略本」だ。オススメ。

ここから先は

0字
・オンライン講座「ゲームづくり道場」をほぼ毎月1、2回。 ・創作に関する記事 ・メンバー特典記事 ・チャットでの交流

米光一成の表現道場

¥800 / 月 初月無料

記事単体で購入できますが、月額800円「表現道場マガジン」がお得です。noteの機能で初月無料もできるのでぜひ。池袋コミュニティカレッジ「…

サポートいただいたら、記事に還元できることに使います。表現道場マガジンをよろしく! また、記事単体で購入できますが、月額800円「表現道場マガジン」がお得です。