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ファンを育てる採用活動のやり方

私は株式会社アクシアというシステム開発を行う会社を経営しています。2006年に創業して、もうすぐ創業から丸15年になります。小さな会社ながら今では大変ありがたいことに「アクシアで働きたい」と思っていただける方がたくさんいるので、採用に困るようなことはほとんどありません。

それも「ちょっとこの会社に興味がある」程度の軽い気持ちではなく、アクシアで働くためにスキルを磨き、アクシアで働くために1年でも2年でも応募が出るのを待ち続けてくれるような、熱烈なファンが今ではたくさんいます。本当にありがたいことです。

しかし最初からこのような状態だったわけではありません。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、アクシアは2012年から残業ゼロの会社となりましたが、それ以前は長時間残業の完全なブラック企業でした。2012年から会社が生まれ変わったのは事実ですが、そこからいきなりファンが生まれたわけではありません。変化が生じ始めたのは2017年頃からのことです。

このnoteでは、ファンを生み出すために2017年からこの3年間の間にアクシアが行ってきたことをご紹介します。

3年間での求職者の変化

2016年頃まではアクシアの採用は求人サイトに頼っていました。求人サイトに出稿すれば相応の応募者は獲得できていましたが、自社の会社ウェブサイト経由で応募してくる人の数は、1年に1人くらいだったと思います。

2017年から状況が一変しました。求人サイトで募集しなくても、自社の会社ウェブサイト経由で応募が殺到するようになりました。当時はほぼ毎日求人応募の問い合わせをいただいていました。

応募者の数が多すぎて全てに対応していくことが難しくなり、2017年の9月には未経験者からの応募をお断りすることになりました。アクシアはシステム開発を行う会社ですので、ここでの未経験者とはプログラミングの未経験者ということです。

その後いったんは応募者の数が減少したのですが、徐々に応募者の数が増えてきて今度は経験者からの応募数が平均すると毎日くるようになりました。それまでは「良い人材に巡り会えたら無理してでも採用する」という方針で採用活動を行っていましたが、徐々に採用業務の負担が大きくなってきました。そこで「良い人材に巡り会えたら無理してでも採用する」という方針を撤回し、2018年には採用活動を全面的に中止することになりました。

アクシアでの採用はいったん中止になりましたが、この頃から「アクシアさんがきっかけでエンジニアに転職することができました」というお礼のご連絡をいただくことが増えてきました。アクシアでの採用は完全に見合わせていましたが、アクシアがきっかけでエンジニアになりたいと思った人達が他社に応募してエンジニアとして転職される方が増えました。

そして2020年の現在は、必要になった時だけ求人応募を出すわけですが、Twitterで1件募集のツイートをするだけで200人以上の人が応募してきてくれます。しかも、アクシアのことが大好きでアクシアの求人が出ることをずっと待ち望んでくれていた人達がかなりの割合を占めています。その中には、上述の通りアクシアがきっかけでエンジニアになったけど、アクシアで募集していないのでいったん他社で就職されたような方も多数含まれています。

2016年以前の、年に1人応募があるかないか程度の状況と比較すると、この3年間でアクシアの採用状況は激変しました。

まず最初にアクシアが行ったこと

全然応募者が来なかった当時、アクシアがまず最初に行ったことは「情報発信の強化」これに尽きます。なんだそんな当たり前のことかと思われるかもしれませんが、これは思っているよりも簡単なことではありません。

情報発信の手段としてはブログやYouTubeが良いでしょう。TwitterやFacebookも活用する必要はありますが、これだけだと情報量が不十分になるのでこれらは補助的に活用する感じです。私の場合は下記のブログを更新し続けました。

残業ゼロのIT企業アクシア社長ブログ

採用を強化するための情報発信というと、SNSでひたすら募集要項の情報ばかりを発信してしまうような企業も時々見かけますが、募集要項のような情報はどこかに1回掲載しておけばそれで十分です。無味乾燥な情報発信の回数をいくら増やしても何の意味もありません。必要とされない情報をひたすら晒し続けるのはスパム行為とあまり変わりません。

そうではなくて大事なのは、会社や経営者の考え方、文化、価値観などがわかる生々しい情報です。求人募集要項の機会的な情報からは読み取ることのできない、会社の生の情報が最も重要な情報発信です。

会社の価値観がわかるような生々しい情報を発信するためには、現場の一従業員に情報発信を丸投げしているだけでは難しいでしょう。それではその会社にどんな制度があるとか、どんな仕事をしているといった機会的な情報を発信することはできても、経営者はどんな考え方をする人で、会社の文化はどのようになっているのかといった、求職者の共感を得られるような生の情報を発信することは難しいでしょう。

アクシアの場合は代表である私が積極的に情報発信していく形を取りました。必ずしも社長が情報発信しなければならないというわけではありませんが、少なくとも情報発信を重要ミッションとして位置づけ、経営陣が積極的に関与していかない限りは意味のある情報発信は難しいでしょう。現場に丸投げではまず不可能です。

良い会社であるだけではファンは育たない

「残業ゼロだからアクシアさんはたくさん応募者が来るんだよね」とよく言われます。これはよく勘違いされてしまうのですが、会社がよくなればそれだけでファンが増えて応募者が増えるわけではありません。アクシアは2012年からずっと残業ゼロですが、2016年までは会社ウェブサイト経由での応募者は全く増えませんでした。

これは考えてみれば当たり前のことなのですが、商品を売るときでも良い商品を作ればそれだけで売れるわけではありませんよね?もちろん口コミなどの色々な要因によって売れることもありますが、基本的には売るための施策であるマーケティングが必要となります。

マーケティングとは人によって様々な解釈がありますが、一言でいうと売るための仕組みを作ることであり、顧客とのコミュニケーションです。採用活動も全く同じで、良い会社を作るだけでは求職者は集まりません。求職者を集め、ファンを生み出すためには、求職者との適切なコミュニケーションが必要となります。

今のアクシアは、アクシアがどんな会社で、経営者がどんなことを考えていて、どんな価値観を持つ会社なのか、それを肌で感じてもらうために必要な情報をブログやSNSで情報発信しています。

膨大な情報量を発信してきているので、アクシアでは会社説明会のようなことを行う必要がありません。なぜなら応募してきてくれた人のほとんどは、応募の時点で既にブログ、SNS、書籍、取材記事等からアクシアの情報に触れ、アクシアがどんな価値観を持つ会社なのかを深く理解してきてくれているからです。

中にはアクシアのことに詳しすぎて、むしろ私よりアクシアのことについて詳しく知っているのではないかと、私が驚かされる応募者がいるくらいです。

2016年の頃と2017年の頃とで、会社が大きく変わったわけではありませんが、応募者の数は激変しました。その違いは情報発信を行っていたかどうかです。適切な情報発信を行うことで多くの人に会社のことが認知されて、アクシアという会社の文化や価値観を知ってもらうことができました。

すべての人に好きになってもらう必要はない

ファンを育てると言うと、すべての人に好きになってもらえるように、嫌われることがないようにしようと考える人がいますが、これは間違いです。というよりも、すべての人に好きになってもらうことは不可能です。なぜなら、価値観は人それぞれ違うからです。

すべての人に好きになってもらうことは不可能ですが、すべての人に嫌われないようにすることは不可能ではありません。そのためには何も情報発信しないことです。あるいは情報発信するとしても、誰からも嫌われることのないように当たり障りのない無味乾燥なつまらない情報だけを発信していればそれは可能です。

しかしこんなことをしても意味がないのは何となくわかるでしょう。大事なのは「誰からも嫌われないこと」ではなく、「ファンを生み出すこと」です。もう少し言い方を変えると、自社の価値観とマッチする人を見つけることです。

余計な煽りをしたりして意味のない嫌われ方をする必要はありませんが、自社の考え方を情報発信した結果、「この会社は好きではない」という人が出てきても全く問題ありません。むしろ適切に情報発信したことによって、このように価値観のマッチしない人からの応募及び入社を事前に防止できているという点では、採用活動に有益な効果をもたらしていると考えることができるでしょう。

それよりも大事なことは、自社の価値観とぴったりマッチしたファンを見つけ出すことです。「この会社ちょっと好きかも」くらいではダメです。そうではなく、根っこのところの価値観がピッタリマッチしていて「この会社めちゃくちゃ好きでたまらない!」という人を見つけ出すことが重要です。

そう考えると、誰かに嫌われることを恐れて自社の考え方をオブラートに包んで情報発信している場合ではないことがわかるのではないでしょうか。誰かに嫌われてもいいし批判されてもいいから、自分達の率直な考え方、価値観をストレートに、正直に情報発信していくことが何よりも大事です。

繰り返しになりますが、すべての人に好きになってもらう必要はありません。

ギャップを埋める情報発信を行う

ファンを生み出すため必要なこととして、情報発信を行う必要性、すべての人に好きになってもらう必要はないということを説明してきました。そして本日のnoteで最も重要なことがこれです。

ギャップを埋める情報発信を行う

ファンを生み出し、育てていくためには、おそらくこれが最も重要なポイントとなります。以下説明していきます。

情報発信を強化していくと、良くも悪くも自分達のことをたくさんの人に認知してもらえるようになります。そうすると何が起きるかというと、中には「正しくメッセージが伝わっていない」ということが起きるようになります。たくさんの人に応募してもらえて嬉しいのですが「こういうことじゃないんだよなぁ・・・」という応募者も多数出てきます。

イメージしやすいようにアクシアでの具体例を一つ出すと、情報発信して応募者の数が膨大に増えた結果、中には「やる気だけは誰にも負けません!」と言いながら全くスキルアップの努力をしていない人、努力はしているけれども、その努力のやり方が微妙な人が大勢出てくるようになりました。

「本当はこういうふうにしてきてくれてると、こちらも採用の検討ができるし嬉しいんだけどなぁ」と思う場面が多々あります。これはアクシアが発信しているメッセージが正しく求職者に伝わっていない状態です。これからの情報発信において、このギャップは埋めていく必要がありました。

そこでギャップを埋めるために2018年に私が書いた記事がこちらです。

この記事は当時たくさんの人に読んでいただき、その後アクシアにもたらした効果も絶大でした。

まずは未経験者からの応募であっても、全く勉強していない人からの応募が減りました。今では業務未経験の人であっても何らかの実績を携えて応募してきてくれる人がほとんどです。中には私が驚くくらいの成果を作ってきてくれる人も結構います。こうしたことはTwitterでも定期的に発信するようにしています。

次に「プログラマーになりたいと思った人がやるべき7つのこと」のブログを公開したことで、本当にやる気はあるけれども具体的にどのように進めれば良いかわからないという人が、この記事の内容を実践してくれるようになりました。

結果として、この記事を参考にしたおかげでエンジニアになることができましたというご連絡を本当にたくさんの方からいただくようになりました。そのようなお礼の連絡をいただけることは私にとっても心から嬉しいと思えることです。

エンジニアになりたいと本気で思うのなら正しい努力を行う必要がある、それなのにその努力を行っていない、あるいは努力の方向性が間違っている人がたくさんいた、そのギャップを埋めるためのメッセージを発信した。。このギャップを埋めるためのメッセージを発信したことで、応募者が(アクシアが考える)正しい努力をしてくれるようになったわけですが、この情報発信によって最近起きている新たな変化についてもご紹介します。

「プログラマーになりたいと思った人がやるべき7つのこと」の記事を公開したのが2018年3月です。あれから2年半ほど経つわけですが、最近はこの記事を読んでエンジニアとして転職に成功し、就職した会社でエンジニアとしての実務経験を積んでさらにスキルに磨きをかけてきた、そういう人からの応募が増えてきています。

私が種まきのように書いて情報発信したブログ記事によって、2、3年経過した現在になって、さらに大きな効果となって現れてきているわけです。これは会社にとっては本当に大きな効果です。

「ギャップを埋める情報発信」を行うことによって、どんどんアクシアの価値観にマッチするファンが育っていくわけです。

たくさんの応募者と接していく中で「これはうちの会社が考えてることと違うんだけどな」と思うことがあれば、それについて「うちの会社はこういうふうに考えている」ということを情報発信していけば良いわけです。そうすることで間違って伝わっていたメッセージが、より正しく世の中に伝わっていくようになり、自社のイメージする人材により近いファンが育っていくようになります。

ファンがいるとなぜ嬉しいのか?

ファンがいるとなぜ嬉しいのか?これはアイドルのようにファンからチヤホヤされて嬉しいとかそういう話ではありません。採用もビジネスの一環ですから。

応募してきてくれた時点ですでに自社のことを熟知してくれている、自社のことを大好きでいてくれている、これは言ってみれば入社する前からすでにロイヤリティが非常に高い状態なわけです。

ロイヤリティが高い従業員というのは、会社にとっては大変心強い存在です。ロイヤリティの話をするとクソリプが来そうなので予め言っておきますが、ロイヤリティが高ければ奴隷のようにこき使えるからとかそんな低レベルな話ではないですよ?うちの会社はそんな会社ではありませんし、そんなやり方で今の時代ロイヤリティを保つことなどできません。

「心からこの会社が好きだ」という人を採用すると、色んなことを自分ごととして考えてくれます。そうすると「積極性」や「自主性」といった面で、他の従業員とは圧倒的な差が出てきます。結果として、会社に対する貢献度及びその従業員自身の成長速度にも圧倒的な差が生じます。

はっきり言って、ロイヤリティなんかなくたって会社経営はいくらでもできます。アクシアにもそれくらいのマネジメント能力はあります。それでもロイヤリティの高い人材が入ってきた時のパワーというものは凄まじいものがあります。会社が好きだから業務を自分ごととしてとらえることができ、積極的に自主的に行動できるわけですから、結果に差が出るのは当然です。

これは考えてみれば当然のことですね。大好きな恋人・友人・家族のためなら喜んでもらえるようにと、自然に考えて行動できますよね。ただの知り合いのためにはそこまで頑張れないようなことでも、大好きな人のためなら積極的に頑張れますよね。だから会社のことが好きでロイヤリティが高い人の方が成果を出しやすいことも当たり前のことなのです。

だからこそファンを育てて、そういう人を採用していくことが会社にとって重要なわけです。私の抱いているイメージをもう少し正確にお伝えすると、ファンを生み出すというよりは、世の中のどこかにいる自社の価値観にピッタリ合ったファンを見つけ出す、という表現の方がしっくりくるかもしれません。そのための情報発信なのです。

価値観の合ったファンを見つけ出すわけですから、見栄を張って嘘の情報を発信するなどもってのほかです。嘘の情報を発信してしまえば、嘘の情報に基づく価値観にマッチした人が集まってきてしまいます。そうした人を採用しても、入社後に感じてしまう違和感はどうすることもできなくなってしまいますし、嘘がバレた時の信用を取り戻すことは難しいでしょう。

情報発信はコミュニケーションです。嘘をつかず、背伸びせず、身の丈にあったありのままの自社の情報をストレートに発信していくことが、自社のファンを育てていくためには最も重要なことだと思います。

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