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桜のトゲ

「世の中にたえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし」在原業平 


 なにぶん桜の季節である。日本に住んでいると、「生命は大なり小なり咲き誇っていずれ散る」という人生観を植え付けられる。美しいものにはトゲがあって、桜はその美しさと引き換えに、そんな儚い人生観を受け入れさせる。

 世の中、知らなくていいものばかり。くだらないものに目がくらむ。浦島太郎が竜宮城を知らなければ、なんと平穏に過ごしていただろう。余計な心配が、私の心をざわつかせる。そして美しいものは無責任にその生き方をかき乱しては、どこかへ去ってしまう。 

 欲しいままに生きることと、ひもじいことをひもじいとも知らずに生きることとどちらが幸せなのだろう。 

 桜などなくても、なにも思わず暮らせていたものを。のどかな私の心はおかげでどんどん複雑になる。勝手に咲いて、勝手に散ってほしい。名もない花はそうしているから。 

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