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継続は

 色味のない屋内の市民プールを泳ぐ。気の済むまでひとしきり泳いで、さて休むかとプールから上がる。隅の方にあったベンチへ歩み寄るとこれがぐっしょりと濡れている。妙な気持ち悪さを覚えるが、恐る恐るでも腰を下ろせば、なぜかすっかり平気になる。

 そうして、ずっと向こうの白いタイル張りの壁をぼんやり眺めていると、視界の端に他の泳ぐのが目に入る。少し呼吸も整ったので、もう一度泳ぐことにして、再びプールに足を入れようとするとこれが身震いするほど冷たい。ふとプールを見渡すとそこはただの大きな水風呂であった。さっきまでそんな冷たさに目もくれず泳いでいたものが、その瞬間なにか億劫になる。そうしてその日はもう泳ぐのをやめて帰ることにした。 

 お目当てのプールは早々にやめにして、なぜかチンケな気色の悪いプラスチックのベンチには嫌でも座る。物には目的が要るのだ。それさえあれば私はどんなに冷たいプールにだって飛び込めるのに。

 私は気休めのためばかりでは泳いでいられない。が、それはやっぱり気休めの副産物なのかもしれない。ともかく泳ぎ回らないことにはなにも分からないままである。考えてばかりでは億劫になる。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は……


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