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福祉の視点

流行りのものには疎く、おおむね話題になっているときは知らないことが多い。

北川恵海(きたがわえみ)著『ちょっと今から仕事やめてくる』KADOKAWA/アスキー・メディアワークス 、2015年。

原作は同名小説だが、自分が観たのは映画の方だ。

成島出監督、福士蒼汰・工藤阿須加出演(配給:東宝)2017年。


はじめは、胃が痛くなるような場面が続き、見続けるのをやめようと何度か思ったが、結局最後まで観た。

行きつ戻りつしながらも、少しずつ人が変わっていく、強くなっていくというのは、こういう感じなのだと思った。誰が見ても、必要な言葉がある映画は稀有だが、この映画はその一つだと思う。

人生があって初めて、仕事がある。

その大前提は誰でも知っているが、実際一日24時間、365日、そのうちの殆どを仕事に充てる生活を送っていると、いつのまにか簡単に『仕事に生かされている人間』になってしまう。

心が、神経が、感覚が、仕事の中で、もしくは仕事との関連でのみ、機能するようになっていく。

もしそれが、自分の生活の延長として続けられる仕事なら、構わないかもしれない。けれど、ある場所に行かないとできないとか、一個人で負える以上の責任が発生するとか、会社員として組織の中でうまくやりつつ、ミスのない仕事を求められるとか、そういう、後から自分が参入していく形で関わる仕事の場合、仕事や組織のルールに飲まれて、本来ならば、自分で守れるはずの健康や生命にまで危害が及ぶ可能性がある。

今は、「働き方改革」などという名目で、労働時間や場所といった、変えやすい「囲い」を変えてみることが、始まっている。

なぜ、そんなことをと思うが、企業一般、官公庁にしたって、仕事の中身は千差万別、AIの導入など予算のある所は技術革新をするが、そうではない所は、昔とさほど仕事の内容など、変えられるわけもないからだ。

人手が足りなければ、給与体系を変えて安く雇うか、必要な時だけ調達できる人材派遣や臨時雇用に "非正規” 雇用のある社会。改革の中身を正確に表現するならば、ほんとうは「雇い方改革」で、雇い主の利益のための改革である。

働き方を変えられるのは、その本人だけで、ほかの誰でもない。

働き手=労働者たち自身が提唱して実現させるべき改革は、もっと違う中身のはずだ。


国や地方公共団体が担い、財政負担に窮し、増加する需要に対して年々質が下がりゆく福祉政策について、これまで「福祉」と名の付く企業以外はすべて、一線を引いてきた。

営利活動と、分かりやすい対価もなしに救済する福祉の視点は、両立できないという意見はある。けれども、終身雇用という日本独自の雇用システムが、従来、暗黙のうちに果たしてきた役割は、労働者の人生を、定年に至るまで『まもる』という、福祉的視点でもあったような気がするのである。

公(おおやけ)の福祉政策があっても、それらのお世話になる前に、労働者の生活を守る枠組みがなくてはならない。企業や官公庁が、その役割から自由になる代わりに、労働者に時間と自由な場所が与えられるというなら、その資源を使って、自分たちを活かす場と仕事を創っていくしかない。

福祉の視点は、働く人すべてが、自身と周囲のために深めていかないといけない課題なのだ。


心が動くと、頭も動いてしまう。話が膨らんでしまったが、続きはまた後日、考えよう。


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