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この国に、この国民在り

エヴァン・オズノス著、笠井 亮平訳、白水社、2015年。

『ネオ・チャイナ 富、真実、心のよりどころを求める13億人の野望』

(原題:Age of Ambition:Chasing Fortune,Truth,and Faith in the New China)


 ゆっくりと時間をかけて、2段組、縦書きで印字された文章を読み進めた。語弊を怖れずに言えば、イギリス生まれの記者だからというのもあるのだろうか、中国への "自然な" 親しみをもって、できるだけ "大人な" 解釈を排し、純粋に見知らぬ "摩訶不思議" を見つめる「静かな好奇心」をその筆致に感じ、最後まで引き込まれ、飽きなかった。

 タイトルのイメージは、 "New China" の熱気、エネルギーのありかについて高らかに謳い上げた、「いかにもな本」ということになるのだろうが、個人的には、その印象は「宣伝用」だろうと思われた。たとえるなら、大きな、きらきら光るスノードームを360度ぐるぐる回して、色んな角度から中国のきらめきの "違い" を観察した本、といった感じだ。

 対象との間に、深い霧の下りた層があるような、適度な距離感がある。それは異邦人として、中にまで踏み入れない、立ち入らないという制約を著者が逆手にとり、「その距離でも十分に説明可能な熱量がある」という証明にしている点で、素晴らしいと思う。

 中国政府の権能や、その大きさは誰もが知るところではあるが、ではそうした政府の下で生きる人々が何を耐え、何を望み、何を考えているのかとなると、意図的に見えづらくされている部分もある。こと日本に住んでいると意識することは少ないが、終局、「政府イコールその国の国民性」ではなく、「この政府にこの国民在り」なのだと、読んでいて、思わず頷いてしまうこと然りだった。

 

 馴染まない文化や、社会基準を目にしたとき、どこから理解可能なものとしていくのか。それはどこまでもミニマムな視点で、その文化を生きる個人の生き様を一つずつ分析し、行動倫理や動機を知っていくことでしか始められない。そんな認識をこの本は与えてくれた。

 当時、本屋でお薦めされていた本なので、読まれた方も多いだろうが、出会いに改めて感謝である。

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