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映画「SWALLOW(スワロウ)」レビュー

こんにちは。yookiecoです。

🎬イラスト付き映画レビューを不定期にアップしています。基本的には映画.comに投稿したレビューのリポストです。

カバーイラスト

🎨カバーイラストはポスターイメージや映画のシーンを切り取って、パワポでお絵かきしました。

あらすじ

ニューヨーク郊外の邸宅で、誰もがうらやむような暮らしを手に入れた主人公ハンター。しかし、まともに話を聞いてくれない夫や、彼女を蔑ろにする義父母の存在など、彼女を取り巻く日常は孤独で息苦しいものだった。そんな中、ハンターの妊娠が発覚し、夫と義父母は待望の第一子に歓喜の声をあげるが、ハンターの孤独はこれまで以上に深くなっていった。ある日、ふとしたことからガラス玉を飲み込みたいという衝動にかられたハンターは、ガラス玉を口に入れて飲み込んでしまう。そこでハンターが痛みとともに感じたのは、得も言われぬ充足感と快楽だった。異物を飲み込むことに多幸感を抱くようになったハンターは、さらなる危険なものを飲み込みたい欲望にかられていく。

鑑賞のきっかけとか

昨年末、佐々木イン・マイ・マインを渋谷シネクイントで鑑賞した際に、予告編とポスターを見て、これは・・・観たい・・・と思ってました。

てっきりサイコスリラー的な映画かと思いこんでいていて、画鋲飲み込むシーン直視できるかな・・・とドキドキしながら立ち向かったのですが、実際には女性の生きづらさを描いた社会派な作品で、透明人間(リー・ワネル監督、エリザベス・モス主演)にも通じるものがあり、身体的な痛みよりも彼女の心の闇に共感して、深く頷いてしまいました。

自己肯定感の低い人間には、かなり”くる”作品です・・・。そうでなくても多くの女性に響く作品だと思いました。

レビュー

※ネタバレあり※

「ジャンル映画として敬遠して欲しくない、万人の勧めたい傑作」

異物を飲み込んでしまう女性のサイコスリラー的ジャンル映画として敬遠して欲しくはない、万人に勧めたい女性の生きづらさと社会の歪みを描いた真摯な作品

ヘイリー・ベネット演技力美しさが際立っていて、それだけでも見る価値がある。

加えて、映像と画角も非常に美しい。それがかえって作り物のような冷たさを感じさせ、広々とした洗練した家の中にポツンと残された彼女の姿が、世の中から遮断され圧倒的に孤独に見えるのだ。

更に凄いのが、彼女が飲み込む“異物”たちが神々しくすら見え、本来の食べ物がそれはそれは不味く見える演出だ。ビー玉はもちろん、より鋭く毒々しいものにエスカレートしていくのだが、彼女が憑りつかれたように飲み込む物たちが、美味しそうとまでは思わないが魅惑的に映り、家族ではあるが心が通わない他者と口にする物たちは、なんとも気持ちが悪く見えてくる…。

そんな中で、自国から逃げてきたシリア難民の使用人、唯一の理解者となる彼とは、何かを一緒に口にすることは無かった。その代わり、彼女と対等に会話が成り立つ相手として描かれていた。表情こそ硬いが、命に関わる逃避を経験した彼だけが、彼女とはまた違う形ではあるが「生」と向き合ってきた人間であり、自分自身と自分のお腹の中にある「生」に苦しむ彼女に寄り添うことができるのだ。

彼女には友達と呼べる人がいなかった。そして親族についての話題も出てこなかった。それは何故かということが中盤以降に明かされるのだが、その事実はあまりにも衝撃的で。彼女自身が自分の出自に強い後ろめたさを持ち、人生をリセットするための結婚だったからこそ「私は失敗したくない」という言葉が重たく響く…。

そのような自分の出生と向き合うための実父との対峙シーンは、まさに異物が喉を通り胃に落ちていくような苦しさが、見ている側にも生じた。と同時に、やっと彼女が自分自身を“飲み込む“・・・、つまり受け入れ、赦すことができたのだと思うと、自然と涙がこぼれた

最後の公衆トイレのシーンで、彼女が放ったものを見届けた時は、痛々しくもありながら、文字通り溜飲が下がった瞬間だった。

そこから繋がるエンドロール…
冒頭に書いた「作り物」のような感覚を持って見ていたことが、映画のスクリーンを超えて、今この世界で、どこにでも起こっていることなのだと、多くの女性が苦しみ戦っているのだと、フィクションがリアリティへと転換し、突き刺さってくる鋭いエンディングだった。

(映画.com投稿よりリポスト)

記録

2021/1/9 鑑賞 / シネクイント渋谷

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