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呼吸 口ですべからず

武術の達人の話とか、ヨガの本などでは、最終的な極意は呼吸である、というようなことが書かれている。

私は、そんなアホなことがあるかい。あるいは、ちょっとした心得程度のものだと思って重視して来なかった。

しかし、「BREATH 呼吸の科学」」という本を読んでみると、どうもそうでは無いようだ。
呼吸というのは、我々がぞんざいに扱っていいようなものではないのだ。

我々が呼吸をどこでするかというと鼻だ。
しかし、口でもする。
では、どちらでするべきかというと、まあ、鼻でした方がいいだろうけど口でしても構わない、という程度に考えているのではないかと思う。

しかし、これは大変な心得違いなのだ。
呼吸は、鼻でしなければならない。
口でしてはならないのだ。

何を質面倒臭いことをと思うだろう。
いや、口で呼吸するのはみっともないとか、不作法だとか言っているのではない。

鼻ではなく口で呼吸すると体を壊し、精神も正常でなくなることがあるのだ。

はあ? ・・・だと思う。

以下、口呼吸をするとどのようなことになるか列挙してみる。

【著者の実験】
スタンフォード大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科センターで鼻副鼻腔外科医の指導のもと著者自らが自分の体で実験してみたという。

シリコン製の栓で鼻孔ふさぎ、微量な空気も鼻から出入りさせない状態にして10日間口だけで呼吸する生活をしたのだ。

24時間で、
・いびきは1300パーセント増加し、一晩で75分に及んだ。
・同時に実験に参加したもう一人は、ゼロから4時間10分になった。
・睡眠時無呼吸の発生件数は、4倍になった。

つまり、口呼吸はいびきをかく回数、時間とも劇的増加させた。さらに、睡眠時無呼吸も大幅に増加させたのだ。

ちょっと気になり出しましたか。

さらに、実験開始後5日目には、
・血圧は、平均13ポイント上昇。
・神経系のバランスを示す心拍変動は急激に低下(体がストレス状態にある。)。
・脈拍は増加し、体温は低下、精神の明晰さはどん底になった。

実験開始から10日目
・いびきは4820パーセント増加。
・一番酷い時は、平均25回の「無呼吸イベント」発生。
酸素濃度は85パーセントを下回るほどになった。
(酸素濃度が90パーセント未満になると、血液は身体組織を支えるだけの酸素を運べない。)

これが長引くと、心不全、うつ病、記憶障害、早世の原因になる。

口呼吸では体の水分が40パーセント多く失われる。
夜、目を覚ますと口がカラカラになっていて喉がかわく。

それから、夜中に頻尿になる。
ん? 水分が失われるのなら、尿意が減退するのじゃないと思うだろう。

違うのだ。
睡眠が最も深く、最も安らかになる段階では、脳下垂体がアドレナリンをコントロールするホルモンや、エンドルフィン、成長ホルモンなどの物質を放出するが、その一つであるバソブレシンという物質も出す。

このバソブレシンは、細胞にもっと水分を蓄えるように伝えるのだ。だが、慢性的な睡眠時無呼吸を発症するなどして、深い睡眠が不足すると、バソフレシンが正常に分泌されない。

そうなると、腎臓から水分が放出され、それが尿意の引き金となって、もっと水分を取るべきだとの信号が脳に伝わる。喉が渇くと、ますます小便がしたくなるという構造になる。

といいます。

身の覚えのある人がいるのではないか。

これだけだと、著者の個人的な体験で、たまたまとかいうこともあるではないかと思われるかもしれない。

【ジョン・ドゥーヤード博士の実験】


ジョン・ドゥーヤード博士は、テニス、トライアスロン、ニュージャージ・ネッツまで、精鋭のアスリートたちのトレーナーを務めた人物。

1990年代、プロのサイクリスト集め、心拍数と呼吸数を計測するセンサーを装着してスティショナリーバイクを漕がせ、数分かけてペダルの抵抗力を上げ、実験が進むにつれて、消費するエネルギーが増えるようにした。

口だけで呼吸させると
・強度が増すと、呼吸数も増えた。
最も過酷な段階(200ワットのパワー)では、選手たちは、ハアハアと苦しそうな息をしていた。

鼻で呼吸させると
・運動強度が上がると、呼吸数は減少した。
200ワットの段階では、口呼吸では1分間47回だった呼吸が14回になった。
・なおかつ、運動強度が10倍になったにもかかわらず、テスト開始時の心拍数を維持していた。

という。
本当かいなと思わないでもない。
しかし、この本は全米で77万部売れ、世界40ヵ国で翻訳されているという。

全く出鱈目を書いていたら、批判殺到だろうと思う。
また、当該箇所についての引用文献も巻末に載っている。そのネット版のURLも書いてある。
だから、一応信用してもいいのではないかと、思う。

【エーギル・P・ハーボルドの実験】
1970年代から80年代にかけて、ノルウェー系アメリカ人の歯科矯正医兼研究者がアカゲザルを使って実験したもの。

アカゲザルの群れの半分の鼻孔にシリコンを詰め、残りはそのままにして観察した。

鼻腔にシリコンを詰められた猿は、鼻では全く呼吸ができず、常時口呼吸をするよう無理やり順応させられたことになる(酷いことをしたもんだと著者も言っている。)。

どうなったか。
一様に歯列弓が狭まって、歯が曲がり、口は開いたままになった。ほんの数ヶ月で顔は長くなり、顎は緩んで、目はどんよりとした状態になったという。

つまり、口呼吸を続けていると、体が物理的に変化して気道が変形する
口から空気を吸うと圧力が下がり、口の奥の軟部組織がゆるんで内側にたわみ、全体のスペースが狭くなって呼吸しづらくなる。口呼吸は口呼吸を生む状態になる。

顔の形まで変わるのだ

そして、2年間にわたる実験が終わって、猿たちの鼻腔をふさいでいたシリコンを外すと、猿たちは自然に鼻呼吸に戻り、実験終了から6ヶ月経つと、元の猿らしい風貌に戻ったという。

まだある。
口呼吸を強いられたラットは、迷路を解くのに鼻呼吸をするラットの2倍時間がかかったという実験もある。

人間についても、AD H Dに関する研究で、口呼吸をしていると前頭皮質への酸素の供給が妨げられているという。
鼻呼吸ではそのような影響はない。

つまり、口呼吸=いびき、睡眠時無呼吸になると
寝小便、注意欠陥、多動性障害(ADHD)、糖尿病、高血圧、がんなどの原因なるという。

どうだろうか。
こりゃ、呼吸(鼻呼吸)というのは、ぞんざいに扱っていいようなものではなさそうだ、と思えてきただろうか。









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