「顔がツヤツヤしてて、シミひとつないですね」、と言われた。
そうですか、ありがとうございますと、答えたが、内心、
「当然ですがな。毎日、タワシで磨いているんだもの。」と思っていた。

顔をタワシで磨くというのには、根拠がある。

子供の頃、中学か高校の頃だったと思うが、祖母の家に行った。何の用で行ったのか、全く覚えていないが、祖母の顔がツヤツヤしていて、それこそシミしひとつなかった。

子供心にも、不思議に思えるくらいだった。
そこで、どうしてそんなツヤツヤした顔なのか聞いてみた。
答えが、「タワシで磨く」だった。
毎日、全身、タワシで磨いているという。

聞いた時は、衝撃だった。
顔の色艶の良さに注目した以上の衝撃。
鍋や水槽の、しつこい汚れをガシガシ削り落とす時に使うタワシで、人間の体を磨くという発想自体に驚いた。

何と野蛮なと、正直思ったものだ。
自分でやってみようなどとは、つゆほども思わず、奇異な行動だというくらいに思って、忘れた。

数年前、知り合いの税理士さん（年上）の顔を見て、なんてツヤツヤしているのだと思って、どんな鍛錬をしておられるのか聞いてみた。
「何もしておらん。亀の子タワシで磨いているだけだ。」と、どこかで聞いたことのある答えが返ってきた。

一挙に、祖母のエピソードが、蘇ってきた。
その日、早速、スーパーに行ってタワシを買ってきた。

毛先がやわらかいやつとか、洗いやすいように柄がついているやつには、目もくれず、最もタワシらしい束子。

The Tawashi・・・・創業百年、亀の子束子。