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鳥越 憲三郎 の「倭人・倭国伝 全釈」を読む

予想以上に難解で集中力が擦り切れました。

倭人・倭国について記した中国の正史、それは『漢書』から『旧唐書』まで十一種の史書にわたる。そのすべてを日本文で読み下し、語句の注釈のほか詳細な解説をつけたのは、本書が初めてのことである。
その執筆にあたって、もっとも大きな目的としたのは、これまで幾多の論者で発表した「倭族論」の締めくくりの書とすることであった。彼らは中国の南部に横たわる長江流域に発祥し、稲作と高床式住居を文化的特質として、東南アジア諸国からインドネシア諸島、さらに朝鮮半島中・南部から日本列島に移動分布した民族で、それを「倭族」という新しい概念でとらえたものである。
そのことは中国の正史に見える倭人・倭国が、日本人、日本国に対しての呼称であるとしてきた先学者たちの見解を、真っ向から否定するものであった。「倭人」という語のおこりは、黄河流域を原住地として政治的・軍事的に覇権を掌握した民族が、とりわけ秦・漢の時代以降、彼らの迫害によって四散亡命した長江流域の原住民に対して、蔑んでつけた卑称であった。

十一種の史書とは漢書、後漢書、三国志、晋書、宋書、南斉書、梁書、隋書、北史、南史、旧唐書のことだ。これらの史書は時間軸で直列した中国大陸を治めた国々の歴史というような単純なものではなく、時間軸にも地域的にも抜け漏れ、重複があるようだ。時代を下れは当然遡れるだけ遡ったものに纏めたいと思う気持ちは解る気がする。

しかし、過去のことは結局他の昔からある底本から拝借するしかないので当然似たような記述になってしまう。しかしこれをどこから持ってきたのか。不正解な本を基にしてしまったり、持ってくる時に間違って転記してしまったりすることで内容は歪んだものになってしまう場合もある。
本書はこれらの史書に登場する「倭人」、「倭国」に関する記述を読解し他の史書と比較して正誤を見極めていこうという、これまで試みられたことがないことをやったのだという。残念ながらそれぞれの史書の立ち位置すらややこしいこれらの本について書かれた詳細は読んでも頭に入りずらい難解なものでした。

しかし、大きな主張としてこれらの史書に登場する倭人・倭国が必ずしも日本列島にあった国のことのみを指している訳ではないということについては、そもそもヤマト王権、邪馬台と史書に書かれた出来事の時間軸が合っていないという点は説得力があると思う。
ヤマト王権は、これも勿論所説あるが王権の胎動期が190年代-260年代としているのに対し、漢王朝は前漢(紀元前206年 - 8年)と後漢(25年 - 220年)であって、前漢時代に倭国から入貢したという記述をこれが日本から大和朝廷からのものであるということにはそもそも無理があるという訳だ。
それゃそうだよね。

この時に書かれている倭国・倭人は日本列島にいた人びとのことではなく、中国の南部に横たわる長江流域に発祥し、稲作と高床式住居を文化的特質として、東南アジア諸国からインドネシア諸島、さらに朝鮮半島中・南部から日本列島に移動分布した民族のことを指しているのだとしている。そしてこのような解釈の変更に基づき史書を読解していくことで新たな世界観が浮かび上がってくるという訳だ。

ちょっと前に読んだ斎藤 成也の「核DNA解析でたどる 日本人の源流」を上記の認識を踏まえて再度確認してみよう。これはミトコンドリアDNAを解析することで血統とその分岐した時期を変化量から推定するという最新の知見によるものだ。
これによると、

第三段階前半とされる約3000年前~1700年前に朝鮮半島を中心としたユーラシア大陸から、第二波渡来民と遺伝的に近いがすこし異なる第三波の渡来民が日本列島に到来し、水田稲作などの技術を導入した。彼らとその子孫は、日本列島中央部の中心軸にもっぱら沿って居住域を拡大し、急速に人口が増えていったのだという。彼らが九州地域で農耕を基礎とした国家形成を進めていったであろうことは想像に難くない。当然のことながら彼らが農耕技術だけを持ち込んでいる訳はなく、それを運用して暮らしを支える組織や分担、文化も同時に持ち込んできたのである。彼らが九州から近畿地方へと政治の中心を移していったのだとう。このことからも中国南部の稲作を行っていた人々と日本人の源流が同根となっていると考えるのは至極当然のことのように思える。

倭人・倭国=日本人であるはずであるという頑固な考えは一旦納めてここは少し冷静にそのような可能性もあるよね的な柔軟な発想で歴史認識を再考証していくことで新たな日本人観、あらたなアジア圏観が生まれ、そしてそれは前向きに我々の関係を前進させるものになるんじゃないだろうかと思う次第であります。

更には日本人の源流がアジアを飛び越してヨーロッパにあるなんてほざいている化粧品メーカーの会長の考えなんて 逆立ちしてもない「ない」っすよ

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