夜明けの攻防(産後2ヶ月目の日記)

赤ちゃんが生後2ヶ月となり、夫は仕事へと戻った。

と、ゆるゆるスタートを切った、育児をひとりで担う生活も2週間がたち。

……なんだか最近、どどっと疲れがでてきたように思う。

原因は分かっている。寝不足だ。

赤ちゃんの、一度に寝る時間が長くなってきたとはいえ、ミルクとミルクの間隔はまだ4時間ほど。現在は、真夜中と明け方に2回起きて世話をしている。

深夜1時。

本日も、赤ちゃんの「ふんぎゃ~~」が聞こえてきた。

となりで寝ている夫をチラッとみると、「ううう~ん」と言いながら布団のなかに潜りこむ。うん。まぁそうなるよね。わかる、明日も朝早くから仕事だし、夜間のミルクは私の出番だ。

深夜の暗闇がずーーんと体にのしかかったようで、重いけれど、なんとか布団から這い出てミルクをつくり、泣いている赤ちゃんに飲ませた。

飲み終わったあとはゲップをさせ、オムツをかえる。最後は赤ちゃんが再入眠するまでの間、トントンゆらゆら。

次第に子どもはまったりと目をつむるが、それに反比例するかのように、私の目はどんどんと冴えてくる。……ああ、まただ。眠れない。

それから明け方ちかくまで、Kindleで漫画を読んだり、目を瞑って考えごとしたり(しかも暗い…)するうちに。

「ふ、ふぎゃ~~」

赤ちゃんの泣き声でうとうとしていた自分に気がつき、ハッと起きあがる。

部屋のなかは、すでに薄っすら明るく、時計の針は「5時」を指している。ずいぶんと夜明けが早くなったなと思いながら、またミルクをつくって、赤ちゃんに飲ませる。

手持ちぶさたにTwitterをひらくと、タイムラインには「おはようございます」という誰かのつぶやき。そうか、もう深夜じゃない。

朝だ。

たまらず、私もツイートする。

そのうちに6時になり、夫も起きだした。

「おはよう、夜は何時に起きたの?」という夫に、「1時と5時」と答える。思いの外、自分の声が不機嫌に聞こえた。

……せめて5時。5時のミルクは夫があげてほしいと訴えると、夫はすんなり「いいよ」と返す。

それなのに「だよね。毎朝5時起きでも、8時間は寝られるね」と、息を吐くようにイヤミが口からこぼれてしまった。

* * *

この週の土曜。夫はなんだかそわそわしている。

理由を聞くと、「今日は、深夜1時からドバイワールドカップ(←競馬)なんだよ!日本馬がダントツの一番人気だし、生で観戦しようかなあ」などと言っている。

え、そうなんだ。じゃあ、ちょうど赤ちゃんのミルクタイムだね。あげながら観ればいいじゃん。なんて話をしながら、この日も子どもたちと一緒に10時に就寝した。

深夜12時。

いつもより少し早めの「ふぎゃあああ」という、赤ちゃんの泣き声で目が覚める。

「……ドバイ、……ワールドカップ」

と夫に声をかけると、布団のなかから「今、何時?」と、ぼそぼそ聞こえてきた。「12時になったところ」というと「あと、一時間もある......」という返事とともに寝息。

だめだ。こりゃ。

結局、12時と4時(←いつもより1時間ずつ早かった)に起きてミルクをあげ、私はまたこの日も、眠すぎる朝をむかえた。

翌朝。夫にドバイワールドカップの結果を聞いてみると、「日本馬が、勝ったよ!!すごかった。ほとんど鞭うってないのに」と興奮気味に話すので、あーあーそーですか、生で観られなくて残念だったねぇ。私は自分に鞭うって4時起きしたよ。などと、またイヤミを言ってしまった。

* * *

「つかれた。家出したい」

その日の夜。子どもたちの寝かしつけをしながら、そう切り出した。

「一日でいいからひとりでゆっくり寝たい。高級ホテルのふっかふかのベッドとかで」というと

「そっか、いいね。いいね。行っといでよ。温泉とかでもいいんじゃない」と、まるで、たまには友達とランチしておいでよ。みたいなノリですすめてくる夫。

え、いいの?ひとりで出来るの?お風呂とか、寝かしつけとか大変だよ?

「いいよ。いいよ。なんとかなるでしょ」

毎朝5時のミルクをあげてほしいといったときと変わらないトーンで、夫は、いとも簡単に私の家出を「いいよ」と言った。

そっか。もーつかれた!無理!ってなったら、潔く任せてしまっていいのかあ。

その夜。ふたりで私の家出プランを練っているうちに、なんだかここ数日のイライラが馬鹿らしく思えてきた。

家出するときは、べつに高級ホテルや温泉に泊まらなくてもいいや。高いし。漫画喫茶で存分に漫画よんだり、レイトショーを見にいったり。美味しいウィスキーとチョコレートのあるバーもよいな。でも、お酒飲むなら夫婦で一緒に行きたいよなあ。

……まあ。夫公認の家出という切り札も手に入れたことだし。

もうすこし、起きない夫との夜明けの攻防を繰り広げようか。

そう思って寝ついたものの、やはり朝5時に私が真っ先に飛び起きて、まんまと完敗したのだった。

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