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「法とは願い」キングダムから紐解く、組織と事業に表れる“願い”のカタチ

明けましておめでとうございます。2023年は、どのような1年にしたいですか? 年の初めに新たな目標を立てた方も多いのではないでしょうか。
達成をめざすには、ただ闇雲に取り組んでもうまくいきません。理想は目標に向けて、自然と行動が変わること。それには仕組みやルールの設計がポイントになってきます。そこで今回は、組織と仕組み、ルールについて考えてみたいと思います。
みなさんの会社には就業規則やルールをはじめ、組織を運営するための何かしらの仕組みやしかけがあるはずです。それらはどうして採用されたのでしょう? 今なぜ、そのやり方で運用しているのでしょう?

私の大好きな本に『キングダム』という漫画があります。古代中国の戦乱の時代が舞台で、ストーリーやキャラクターから経営のヒントを得ることも多く、事あるごとに繰り返し読むほどです。劇中では数々の名言が繰り出されていますが、今日のテーマにぴったりのものがあります。そう、ファンならおなじみの李斯(リシ)が放ったあの台詞です。

法は願いだ

と言ってもピンとくる人は少ないほど、マニアックなシーンかもしれません(苦笑)

少しシーンを補足しますと、6つの国がおよそ500年に及び中華統一の争いを繰り広げる中、「国を治めるのは、人ではなく法であるべきだ」と説く秦国の若き王、嬴政(エイセイ)。彼の側近である昌文君(ショウブンクン)は、法の教えを乞おうと、秦国で最も法に造詣の深い李斯に会いに行きます。そこで李斯が放ったのが、「法は願いだ」という言葉でした。
李斯は、法とは国家がその国に臨む人間の在り方の理想を形にしたものであり、中華統一の後にすべての人にどうあってほしいのか、どう生きてほしいのか、どこに向かってほしいのかを思い描くことから始まると、昌文君に説きます。「法とは何か」と李斯に問われ、「刑罰をもって人を律し治めるもの」としか答えられなかった昌文君は、“願い”という言葉を前に激しく狼狽えるのでした。

何度読み返しても痺れます(笑)。
私がなぜこんなにもマニアックに痺れるのか。
そして、仕組みというものにこだわるのか。それは新卒入社時に立ちはだかった壁が原点にあります。
ジョブウェブで企業の採用支援に携わっていた当時は、お取引先の担当者や経営層から会社の掲げる想いや考えを伺う機会が多くありました。従業員でも経営者でもなく、組織の外側から関わる身として欠かせないプロセスです。お取引先の想いはどの会社も情熱に溢れていて、自分も熱量高く期待に応えたいと思わせるものばかりでした。
興味深くお話を聞ける一方で、困ったこともありました。というのも、思いだけではその会社の持ち味をつかむのが難しかったからです。それぞれが大切にしていること、譲れない価値観は理解できるのですが、思いは得てして抽象的な表現になりがちです。中には違う業界なのにほとんど同じ言葉になることもあり、差別化しにくいと感じていました。

ビジネスモデルは願いだ!

どうすれば第三者である自分も、その会社“らしさ”を理解できるのか。そこで私が注目したのが、ビジネスモデルです。それぞれの会社の事業には、「誰に」、「何を」「どのように」が必ず含まれています。どういったお客様に、どういう商品やサービスを、どのような規模や方法で届けていくかは競合でも違いが見られます。つまり会社としての“思い”が、個性として反映されるのです。
学習塾などはわかりやすいでしょう。小学生から高校生まで幅広くカバーする塾があれば、中学受験や医学部受験に特化した予備校もありますし、規模も全国区の大手から、特定の県や市に絞った地域密着型、現代版寺子屋的な個人経営の塾も健在します。独自のメソッドが顧客を惹きつけるかと思えば、一人ひとりに合わせたオーダー型が売りの塾も。家庭教師や映像授業、通信講座なども含めれば、多種多様なビジネスモデルが挙げられます。
特に少子化で競争が激化する業界ですが、企業が描くビジョンとなると“子どもの未来の可能性を広げる”、“知ることの面白さを伝える”、“社会をリードする人材を育てる””、“学び合う地域社会を築く”など、表現の差はあっても思いが重なることは容易に想像がつきます。しかしビジネスモデルを掛け合わせると、「トップ層の能力を開花させたいんだな」、「勉強が苦手な子に、自信をつけさせたいんだな」、「国全体の子どもの学ぶ力を底上げしたいんだな」というように、その会社の思いの解像度が上がるのです。
そしてビジネスモデルは、組織をつくるうえで重要なカギを握ります。なぜなら体制や個々の役割、求める人材像などはビジネスを起点に組織を設計していくからです。さらには働く人のマインドや振る舞いにも、影響を与えます。
上位校合格が必定、時に子どもの闘争心を煽ることも厭わないという塾なら、講師やマネージャーにも競争を取り入れ、入会者数や合格実績で評価する成果主義の強い組織になることは想像に難くありません。
片や同じ進学塾でも、子どもの性格や特徴を見つつ、家庭の教育方針も含めて本人に合った学校を提案し、受験体験を通じて自分で調べる、考える、決める習慣を育む方針だとしたら、競争とはまた違った形で組織を運営していくでしょう。人事制度についても、継続率や紹介数、満足度といった数値だけでなく、バリューやクレドに基づく行動を評価する仕組みを採用すると思います。
ここで組織としての正しさを問うつもりはありません。けれどもビジネスモデルが組織の仕組みや文化に強く作用することは、理解できるのではないでしょうか。裏を返せば、組織の仕組みや築きたい企業文化がビジネスモデルとマッチしていないと、事業がうまく成長しないといえます。

組織の行動指針や人事制度も願いだ

では会社の思いやビジネスモデルをもとに、組織の仕組みをどのように築いていくのがよいのでしょう。ポイントは2つあると考えます。
ひとつは働く人にフォーカスし、組織としてどうありたいか、願いを明らかにすることです。この組織で働く人にどのようになってほしいか、仕事に臨むうえで大切にしてほしい姿勢に態度や行動を言語化し、働く人同士がどういう関係を築けるとよいのか。組織としてのビジョンを描き、すべてのメンバーが把握していることがまず重要です。
このときに描かれるビジョンは、おそらく積極性、自発的、失敗を恐れない、協力し合うなど、自由で自律的な要素が多分に含まれることでしょう。しかしそれだけではうまくいかないのが組織です。企業の社会的信用を担保し、経営の根幹を揺るがす危機を回避するには、してはいけないこと、最低限守ることといった、ルールも同時に設けなければいけません。ビジョンが攻めならば、ルールは守り。両者のバランスが重要です。
これまで日本の企業の多くは、ルールによって秩序を保ってきた側面があるのかと感じます。しかしルールに傾倒し過ぎたことで組織の閉塞感を招き、個々が自身の考えを持つ機会を奪ってしまったことは否めません。ビジョンとルールのちょうどいい塩梅を探る必要があります。
ポイントの2つめは、はじめから完成形を求めないことだと思います。変わること、変えることを前提に、今できることの最大限で考えることです。『NO RULES』で知られるネットフリックスも、最初から自由な会社だったわけではありません。優秀で自立(自律)した人材がネットフリックスの利益のために活躍できるよう、自由と責任のカルチャーを築いていきました。
組織は生き物ですから、同じ状態が続くわけではありません。規模や成熟度、事業成長によっても、ベストな仕組みは変わっていくことでしょう。私がCountry Managerを務める25Holdings Japanは、メンバーが10人にも満たないスタートアップです。従業員が数万人いるような大企業と違い、小回りの利く組織ではありますが、どうすれば事業をドライブさせ、一人ひとりの能力が発揮されるチームになるか、創業者の藤田と日々話し合っていながら仕組みを設計しています。
たとえば、強いカルチャーを築くために重要なバリューの浸透。日本事業のメンバー全員で毎週金曜日の終礼時に、自分以外の仲間の「バリューに基づく行動だと感じたエピソード」を紹介する時間を設けています。将来的にはバリューに基づいた評価制度を構築し、行動に紐づくグレードを作るのかもしれません。しかし今の時点では小規模だからこそ、個人とじっくり向き合うことができます。そのためこのやり方も組織の状況によって変えていくつもりです。
他にもペットにまつわる事業をしているため、オフィスにペット同伴での出勤を可能にしたり、同伴時はマイカー通勤を認めガソリン代や駐車場代を会社負担にしたりしています。     そしてペットと共に暮らす支援については、将来的にはより充実を図っていきたいと考えています。
会社と従業員の幸せや理想の実現のために、どのくらいの自由度を確保し、どこまでルールをつくるのか。組織の成長に合わせ、試行錯誤と変容を繰り返していくことが、仕組みとして自然なサイクルだと考えています。

キングダムの「法は願いだ」に痺れてからはや数年。
ようやくこのような形でアウトプットすることができました。

仕組みが持つパワーは、良くも悪くも組織に強く作用します。
他社が取り入れてうまくいったことも自社ではうまく行かないことがよくあるように、自分たちであれば、どのようなビジネスモデルや、人事制度を作るべきなのか。
そこにはどんな願いを込めるのか。

私自身も、仕組みに向き合い、仕組みに願いを込め、人と組織とビジネスがよい形で作用し合う1年にしたいものです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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