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努力の漫才師・和牛の魅力とは

noteで「和牛」と検索し、「定番」タブをクリックしてみてほしい。



……お気づきだろうか?

上位に表示される記事の中に、私の記事がめちゃくちゃ多いことに。

そう、私は和牛ファン。

多くの方がご存知のように、和牛は先日のM-1グランプリ2018で2位だった。3年連続の2位だ。

それを知ったときは、思わず息を止めてしまった。

だけど、ファンとして悔しいとか悲しいという気持ちはない。

今もしおふたりに何かを伝えられるなら、私は「ありがとうございます」と言いたい。

仕事が増えて忙しい中で、また優勝候補のプレッシャーの中で、あれだけ面白いネタを披露してくれた。今年も、M-1で笑わせてくれた。引き続き、好きでいさせてくれた。

そのことに対し、ファンとして感謝でいっぱいだ。M-1が終わって数日が経った今も、和牛のことを考えると涙ぐみそうになる。

今回はそんな和牛の魅力について語ろうと思う。

和牛はボケの水田信二さん(38)とツッコミの川西賢志郎さん(34)によるコンビ。

コントのように役柄を演じる漫才が多く、ふたりとも演技力に定評がある。特に、水田さんが彼氏、川西さんが彼女を演じるカップルネタが人気だ。

ネタの方向性としては、水田さんが淡々と屁理屈をこねて川西さんがそれに翻弄される「屁理屈漫才」が有名だけど、それ以外のスタイルのネタも多数ある。

計算されつくされた台本、早すぎずゆっくりすぎない心地良いテンポ、ふたりとも滑舌が良い上に声が聞き取りやすい、水田さんの飄々とした表情、川西さんの観客の目を惹きつける演技……などなど、彼らの魅力を挙げればきりがない。

だけど、私がこれほどまでに和牛が好きないちばんの理由は、彼らの漫才が「努力」によってできていること。

バラエティで見るとわかるけど、和牛はふたりともそこまで際立ったキャラではない。水田さんの細かい性格が少し特徴的なくらいで、ふたりともわりと「ふつう」の人だ。インパクトは弱い。

だけど、彼らの漫才はとんでもなく面白い。

天才肌の芸人が一瞬で笑いをかっさらうのとは対照的に、じっくりと作り込んだ漫才で笑わせてくれる。時間をかけてネタを書き、何度も何度も稽古をしたことが伝わってくる。

まさに、努力によって作り出された笑いだ。

「漫才はアドリブっぽく見えるほうが面白い。練習量の見える漫才は白けてしまう」と言う人もいる。だけど、和牛のクオリティであれば、練習量が見えることは欠点にはならないと私は思う。

彼らのネタが緻密に計算されていることは、毎年M-1で披露するネタが進化していることからも伺える。

うっとうしいと思うけど、過去にM-1で披露したネタの素晴らしさについて語ろうと思う。


2015年「結婚式を抜け出す花嫁」

得意のカップルネタ。

水田さんが得意のねちっこいキャラを演じているけど、私は屁理屈漫才ではないと思っている。水田さんのボケは最初から最後まで正論であって、屁理屈ではないからだ。

だけど、ふつうは感情に流される場面で正論を言うことが面白いので、ちゃんとボケとして成立している。

私はこのネタが好きだけど、水田さんの演技がリアルすぎて「ああいう男ダメ」と嫌悪感を表す女子も多い。

芝居が上手すぎて「泣かんといてや。好きな人の涙を見るのは辛いから」の台詞では客席がどよめいていた。

このネタは台本が秀逸。私は「誤解せんといてや。ほんまに好きやねんで。俺、この先の人生で君より好きになる女性はいないと思う」の台詞がすごく好き(ちなみに今、記憶だけでこの文章を書いている。台詞をだいたい暗記してるのだ)。

余談だけど、以前DRESSのエッセイに「私は浅はかで傲慢だった」というような文章を書き、公開されてから「なんかこの言葉の並び、聞き覚えがあるなぁ」と思ったらこのネタだった。

寝る前に睡眠学習のようにネタを聞くことがあるので、無自覚のうちに水田さんの言語感覚が染み込んでいる。


2016年「ドライブデート」「花火大会」

共に水田君とマナミちゃんのデートネタ。得意のカップル設定だけど、水田さんの屁理屈キャラは封印し、「無邪気でおバカな水田君」を演じている。

2本とも、とにかくボケの手数が多い。細かいボケを詰め込んだだけじゃなく、ストーリーに流れがあって、起承転結の「転」の部分がしっかりある(ドライブデートでは誤ってお弁当を捨ててしまうところ、花火大会では指輪を蛙の胴体につけて渡すところ)。

台本も緩急が見事だし、ふたりの演技も進化している。

特に、川西さん(マナミちゃん)がただ振り回されるだけではなく、癖の強い言い回しのつっこみで笑いをとるのがいい(「カチカチカチ……そんなに・曲がって・ないやろ!」はアインシュタインの稲ちゃんに物真似されていた)

水田さんのボケで笑い、川西さんのつっこみでまた笑う。

どちらかに偏らない、ふたりのパワーバランスがいい。

ちなみに、和牛はこの年のM-1で人気が爆発し、翌年に東京進出を果たしている。


2017年「ウェディングプランナー」「旅館」

「ウェディングプランナー」は今までに見たことのない画期的な漫才だった。

前半ではとぼけたプランナーを演じた水田さんが、後半では優しそうな新郎を演じる一人二役の漫才。前半の伏線をすべて後半で回収していく。前半は小ボケの連続で、後半はジョブズスタイルのでかい見せ場。

この1年で仕事量が激増しているはずなのに、この完成度……!

「旅館」は、台詞ではなく「間」で笑わせる場面があり、それが今の若手芸人っぽくなくて新鮮だ。具体的には、川西さんが「すみませんでした~」と頭を下げるシーン。4分間しかないのにたっぷりと間を使い、無言で笑わせる。

この2本のネタでは、川西さんが喋っているときはどうしても川西さんを見てしまうのだけど、どうか「川西さんが喋っているときの水田さん」に注目してみてほしい。

ジョブズスタイルのときの川西さん(新婦)を見ている水田さんの笑顔、頭を下げる川西さん(仲居さん)をビールを飲みながら見下ろす水田さんのなんともいえない表情。

表情の演技が秀逸すぎて、ネタを見れば見るほどにジワジワくる。


2018年「ゾンビ」「オレオレ詐欺」

「ゾンビ」は久々に役柄を脱ぎ捨てた本人役での漫才。後半までは得意のコント仕立ても封印し、しゃべくり漫才をしている。

「昨年までとは違ったことをしよう」という、勝つための模索が伝わってくる。

「オレオレ詐欺」は、今までのネタの良い要素がたくさん詰め込まれている。

たとえば、役に入るときに水田さんが勝手に芝居を始めてしまい、川西さんが戸惑いながら乗っかる……というのは和牛の定番。このネタではさらに水田さんが表情で促すというボケが加わり、すごく良かった。

また、ふたりが睨み合う場面で台詞を使わずに笑いをとるのも、旅館ネタの間の演技を髣髴とさせた。


和牛が今年のM-1で見せたネタは、どちらもきっちり作りこまれていた。

正直、今年の和牛は売れまくっていたので、ネタを作る時間があるのか心配していた。

だけど、そんな心配は杞憂だった。彼らは今年もちゃんと笑わせてくれた。

それがとにかく嬉しかったから、順位は別に……という感じ。

この1年、精神的にしんどいことも多かったけど、弱るたびに和牛の漫才やラジオに救われてきた。

本当に、ありがとうございます。

和牛が漫才を続けてくれる限り、来年も私は元気でいられると思う。

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