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本作りの裏側に迫る!自作文庫本の制作プロセスを徹底解説!#シロクマ文芸部

 本を書く、というお題だ。
 本来なら文芸部のメンバーたるもの創作を書いて作品にしなければならないだろうが、「本を書く・本を作る」ことそのものについて書いてみるのも、もしかしたら誰かの役に立つかもしれない――などと思ったので、覚書的に書いてみようと思う。

 現在、毎月1~2冊、作品を文庫化している。
 (出来上がった文庫本は、こんな感じ ↓ 

 これまで電子書籍にしたぶん以外はもう電子書籍化はしないつもりだ。今は、共同書店におくものと、5月のフリマで並べる本を作っている。

 印刷するのは、1回の印刷で5部ずつ。万が一「予約」的な形で要望がありそうなら、増刷することもあるかもしれないが、基本はこの世に5冊。自分の分と、「吉穂みらいの本棚」を作成中の幼馴染の分を除くと、店頭に置くのは3冊まで。
 一期一会、売り切れ御免の、超レアものの文庫本だ。

自作文庫本ができるまでの過程


本が出来上がるまでの流れは、おおざっぱにこんな感じ。

 1 脱稿 原稿を仕上げる
 2 校正① 誤字脱字、表記など原稿を確認・訂正する
 3 直し 確認で出た不具合などを修正する
 4 校正② 再度、確認する
 5 編集 本文以外のページを構成する
 6 装丁 表紙やカバー、帯などのデザインをする
 7 入稿・印刷 原稿を整え、規定に従い印刷をオーダーする
 8 製本完了 印刷屋さんから本が届く。チェック。
 9 販売 共同書店/フリマで売る
 10 宣伝 本は宣伝しないと誰かの元には届きません・・・

 さらっと書いたが、そのひとつひとつの行程が、なかなか大変だ。
 ものを書く人はみんなそうだと思うが、正直「1」までで終わりにしたい。それ以外したくない。作るのは専門の人に任せて、自分は創作だけに専念していたい。それが本音だと思う。笑
 もちろん、脱稿までに散々推敲している。脱稿は推敲をとりあえずやめた状態、まあ、他の人が読んでも差支えなかろうという状態、そう言う状態での「1」である。

 本を作り始めてからは、もうこのあたりですでに「ああ商業出版っていいなぁ」と思いはじめる。早っ。笑
 せめて「誰かが校正をしてくれないかなあ」と思う。みんな思うと思う。

 自分ひとりで何度も何度も読んでいると、目が完全に慣れてしまって大きな間違いに気づかなかったり、ヒエラルキーをヒラエルキーなんて書いていることにも気が付かなかったりする。頭の中で完全に組み換えしている。第三者の新しい目で「ここ間違ってますよ」と言ってほしい、と痛切に願う。

 やはり商業出版は羨ましい。
 それは、書店にずらりと自分の本が並んで、見知らぬ人が手に取り、ぱらぱらとめくって、うん、と頷き買って行くという光景を羨んでの「いいなぁ」ではない。いやそれも羨ましいが、とにかく本になる過程に手間がないのが羨ましいのだ。

 出版社で編集の人がついてくれる場合は、だいたいのことを編集の担当の方がリードしてやってくれるであろう。本編に新たに付け加えたり削ったりといった「本のプロ」のノウハウで作品を直すことから始まるかもしれない。
 校正は丁寧に赤などを入れてくれるだろうし、販売目的・営利目的であるので商業出版ではNGな表現を削ったり、より適切な表現に直すよう具体的なアドバイスもくれると思う。校正だけでなく、編集や装丁なども、プロの方がやった仕事に対しての確認作業になるだろうし、本が出来上がったあとは、販売と宣伝もしてくれるはずだ。

 何より、最も苦しい作業、「7」入稿・印刷に、ほとんど関わらなくていい。これは本当に素晴らしいことだ。

 これが「自費出版」でも、出版社さんによっては担当者さんをつけてくれて、丁寧に教えてくれながら伴走してくれるところもあるらしい。しかし当然、有料である。カネカネカネである(笑)。が、当然ながら本としての完成度、クオリティはあがるし、印刷には関わらなくていい。←しつこい

 とはいえ、ここまでですでに、「私にはまあ、これがいいかも」と思う過程がところどころある。まず「コンプラ・ポリコレ的にこれを削れ」と言われて作品が変わるのはちょっと嫌だなと思っている。そこがプロとアマの違いだと思うし、アマの方がいいと思うところでもある。それと、締め切りが無いこと。自分で本を書いて作るのは大変だけれど、ただひとつ素晴らしいのは「自由」であることだ。
 スケジュールは自分で決めればいいし、途中でやめることもできる。商業出版ではそうはいかない。

 などと言っているが、これは生涯商業出版に縁がない人の負け惜しみでもある。「出版」するならどんな形がいいかと言えば、もちろん「商業出版」がいちばんいいに決まっている。ある程度まとまったものを書いている人で、大変だけど自由でいいから商業出版なんぞしたくない、という人は多分いないと思う。いつかどういうかたちでもいいから商業出版してみたい――そうなったらいいなぁと願うものだし、それが正しい。なぜといって商業出版は「本」としての正しいあり方だからだ。完成度として100%だからだ。アマチュアの本づくりは決して100%にはならない。書店にあんなふうは並んでいるのには、ちゃんと理由があるのである。

 先ほどから「印刷が大変」としつこく述べているが、それを説明する前に少し、自費出版と商業出版の違いについて書いておこうと思う。

自費出版と商業出版


 自費出版は最初に、50万円、100万などのまとまったお金が必要になる。そして最低部数は100部や300部だ(自費出版の会社によって異なる)。
 これらは、そのまま自宅に送られる。出版社によっては、どこか特定の場所においてくれるところもあるらしいが、基本は自分で販路を確保して、人にあげたり売ったりすることになる。当然、売れなければ全て自宅保管の在庫になる。本にしたい作品が少ない、またはお金に余裕があり、販路がある、自宅に保管場所がある人には、自費出版が向いていると思う。

 商業出版は、だいたい3,000部くらいが最低部数と聞く。桁が違う。でももし売れなくても、自宅に在庫を抱えることはない。ただ、出版社に返本される。売れた数より返本数が多ければ、よほど著名な作家でない限り「次はない」と言うものだろう。
 バンバン売れる作家になりたい、と言う人は言わずもがな、たとえ売れなくても生涯の記念に1冊、と本を出す場合でも、やはり絶対的にいいのは商業出版だ。出版社があらゆる手配をしてくれ、販促をしてくれ、ISBNがつき、国立国会図書館にも自動的に(出版社の義務なので)納本される。

 私は幸いなことにというか不幸なことにというか、印刷して本にしたい作品は沢山ある。だけれども、自由になるお金があまりない。
 1作品だけなら、100万円かけて自費出版はありかもしれない。10作品以上あって、その中の作品自体が長い、分冊せざるを得ない、と言う場合には自費出版などしたら破産してしまう(し、家から在庫の本があふれ出てしまう)。

自作文庫本の制作費


 ここで、自作文庫本にかかる製作費のことに触れておこう。
 本の印刷には「オフセット印刷」と「オンデマンド印刷」がある。その違いについて詳しい説明は今回はしないが、書店に並ぶものはほぼ「オフセット印刷」である。「版」を使うので予定の部数が売切れてさらに印刷するときには「重版」と表現する。少数部数の印刷は基本的にレーザープリントを使用したオンデマンド印刷になる。無くなればいつでも増刷できるが、「重版」とは言わない。

 オンデマンド印刷の中でも、使う紙によって印刷部数が違ってくる。私の使いたい紙の最低印刷部数は5部からなので、いまのところ5部ずつ印刷を頼んでいる。
 金額はページ数で計算されるので、1冊およそ1,500~1,700円くらい。それが5部で税込みだいたい10,000円前後かかる計算だ。

 これを1,000円ほどの値段をつけて共同書店で売っている。
 もう少し高く設定してもいいのではと言ってくれる方もいるが、たかだか文庫本だ。しかもクオリティに難ありだ。聞いたこともないような人が書いた、未完成甚だしい1,700円の文庫本を買いたい人がいるだろうか。
 1冊につき500円~700円の完全なる赤字だけれど、趣味の本を買ってくださる方がいるだけでも有難いので、値上げするつもりはない。そして、文庫本の制作を重ねるごとに本のクオリティを上げたいと努力はしている。

 自費出版で100冊50万、300冊100万かかると思えば、例えば10作品を5部ずつ作っても10万円で済む。趣味として高いのか安いのかわからない。フラダンスなどをしても、毎月のお月謝+発表会などというと衣装代や参加費がかかるというし、気がついたら10万円くらいかかるかもしれない。印刷したい作品が無くなり次第、終了することでもあるし、どうしてもやりたい、今しかできないと思ったことだ。自分では納得してやっている。

入稿・印刷がめちゃ大変


 さて、本を作るうえで何が大変と言って、一番大変なのは印刷だと私は思う。厳密には印刷するのは印刷やさんなので印刷そのものではない。印刷できる形に整える入稿が大変なのだ。

 印刷なんて、印刷屋さんにぽいと丸投げすればいいんじゃないのと思われるかもしれない。が、印刷やさんだって「ぽい」と丸投げされた原稿がスムーズに印刷できるシロモノだったら苦労はない。素人の不備な原稿が送られてくる印刷屋さんもさぞかし大変だろうと思う。

 品質は印刷屋さんによって違うだろうが、私が利用している「1冊から本にできる」印刷屋さんは、「OneBooks」さんと言う。私のオーダー技術が進歩しないために失敗を繰り返しているが、製本のクオリティは高いと思う。出来上がりにはとても満足している。
 お試し印刷などはない。有料でもそういったサービスはない(自費出版にはあるし、Amazonにもある)。基本的に直しをかけることはないので、作品に不備があったとしてもそのまま印刷される(それでこの前はこんな失敗をしてしまった)。そういうサービスがないから安くできるのであって、もちろんそこを理解したうえで利用している。

 作品が出来上がって校正・編集し、装丁を決めたら、入稿データを作る。
 この入稿データを作る作業が厄介なのだ。
 illustrationやPhotoshopなどをお持ちの方には楽々作業なのかもしれないが、もともとそういうことに疎いおばちゃんにとってはなによりここが鬼門だ。

 印刷屋さんに入稿したあとに不備を指摘され、私が非常に苦労したことベスト3を挙げてみる。

①フォントの埋め込み

 これには本当に苦労した。印刷屋さんから、TrueTypeのフォントはPDFに埋め込まれていないときちんと印刷できません、埋め込みを検討してください、という指導がはいる(指導というのは私の表現。でも最近ちょっと育てられてる気になっている。笑)。フォントの埋め込みだの、TrueTypeだの、なんのことかさっぱりわからない。ググりながら必死で探し、苦労してやり方を発見した。何度か埋め込みじたいを諦めた本があるが、今はやり方を把握した。

②表紙・オビなどの画像の解像度が低い

 これはCanvaを使いこなせていない為と、CanvaからPDF化して入稿していたせいで、どうしても直すやり方がわからなかったのだが、先日ちょっとしたことで非常に簡単に直せるということが判明し「なんだー」という気持ちになった。OneBooksさんは、とても親切にピクセルを幅○○×縦○○にすると解像度が上がります、とまで書いてくれているので、その通りにしたかったのだが、そのやり方がずっとわからなかった。そして、その解像度を確認する術もわからなかった。こちらもようやくやり方を習得。

③ハイパーリンクが青字で印刷される

 『駐妻記』はもう直すことができなかったので、青字のまま印刷されている。印刷屋さんでは、こちらが入稿した原稿の色もそのまま反映されるので、原稿の段階でしか青字を黒字に直せないとわかり、それ以後、ハイバーリンクを消す方法を模索。現在はCalibreでいちどDOCXにしてWordに戻し、そこで修正をかけてPDF化、その後Adobeで切り貼りして本編に合体させている。ベストな方法ではないが、今のところこの方法で乗り切っている、という感じ。

 そもそも入稿するまでに、私は次のようなステップを踏んでいる。

 Word原稿
 ↓
 ロマンサー(電子書籍用EPUB原稿のため。電子書籍はこのまま入稿)
 ↓
 Calibre(無料互換ソフト※これについてはいつか書きたい)
 ↓
 PDF原稿(文庫本用)データ作成
 ↓
 Adobeで、ひな型をとっている登場人物紹介のページなどを、PDF原稿に挿入。ひな型では間に合わない追加・削除が出てきたら、Wordで原稿作成し、PDF化したうえで原稿に挿入
 ↓
 Adobeでヘッダーフッターでページ数を追加
 ↓
 Adobeでフォントの埋め込みを確認
 ↓
 Adobeで表紙カバーの解像度を確認
 ↓
 入稿に必要なデータを集めたフォルダを作り、圧縮して印刷屋さんへ

 もう電子書籍は作らないと思うので、ロマンサーは省いてもいいのだが、Wordに比べてロマンサーはルビの始末や禁則処理を自動でやってくれるし、奥付が綺麗に入るので、やめられない。それに万が一電子書籍にしたくなった場合でもEPUB原稿をすぐに作れるという利点もある。

本の制作・販売にかけているお金


 最後に、じゃあトータルいくらかかっているのか、について、自分でもちょっと知るのが怖いけれど書いてみたい。
ロマンサーはもう永年契約(笑)してしまったので、サブスクではなくなった。サブスクだと月額600円だったが、「サポーター」として1万円払うと、ずっと使うことができる。私は作品数が多く、ロマンサーはヘビーユースするということが途中からわかったので、サポーターになった。
 次に、吉穂堂
 神田神保町の「PASSAGE」の3階の小さな棚は、月額5000円のサブスクだ。こちらはしかし、「PASSAGE」では最も安い棚だ(春に新しくできる「PASSAGE」の3号店は、価格帯の平均が1万円だそうで最高は1万5千円)。
 自分にはぴったりの棚だと思っている。
 それからCanva。月額1,500円。これはnoteでも使うし、デザイン・絵が描けない自分にとっては命綱。毎日バリバリにヘビーユースなのでプロになった(いい響きだけど高い)。
 そしてAdobe。1,800円。
 以上で、本関連のサブスクが8,300円/月だ。
 noteプロ、文芸部にも入っている。
 そして先ほどの制作費が、1作品につき5部印刷して10,000円。

 実際厳しい。正直厳しいけれど、あともう少し、自分の作品を出しきるまでと割り切ってやっている。とりあえず、コロナ禍に気がつくといろいろ入っていた、ネトフリやアジアンドキュメンタリー、Hulu、NHKオンデマンドなどの映像配信系のサブスクを全てやめた。UNextだけは夫の家族会員なのでこっそり観ることができる。笑 それでも大赤字ではあるが、無暗に配信系のサブスクをやっていたころよりは納得できるかもしれない。

 というわけで、大変長くなったけれど、本の制作についてざっくりとお話してみた。

 作り慣れた方には「なんだそんなことで躓いていたのか」と思われるかもしれないし、やったことが無い方には「そんな難しそうなこと無理」と思われるかもしれないが、たとえ失敗したとしてもやる価値はあることだと思う。

 こうした文庫本制作は、なんというか最終手段というか、人生も終盤の人向けと言うか、記念品的なことではある。

 これまでいろいろ頑張ってきたけど、そろそろ肩ひじ張らずに自分のやってきた記念に手元に本を残してみたい、とりあえず寝るときに枕元に置いて、パラパラ読んで寝たい。という方向けには、こんな方法もあるよと、ご提示しようと思ってこの記事を書いてみた。

 自作文庫本、いいものですよ。
 世界に1冊の自分の本を手にしたときの喜びは、何物にも代えがたいもの。
 今の幸せは、寝る前にベッドに入って自分の文庫本を開くこと。究極の自己満足だが、毎晩、ちょっとずつ読んで寝るのが至福の時だ。




 ここまで書いて、はたとタイトルに迷った。
 こういう記事はあまり書かないのでタイトルを考えるのが少しメンドクサイ。笑
 せっかくだからAIにタイトルを聞いてみることにする。

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 案外いいじゃないの!
 便利な世の中。そう、便利な世の中になったからこそ、私でも自作文庫本を作ることができるんだなと改めて感じた次第。

 長い記事を読んでいただいてありがとうございます。

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