編集は「人を信じる」仕事

近年で言えば、2014年は2人、2015年は4人、2016年は2人だった。何の話かというと、私を担当している編集さんの中で、退職した人の数だ。ただしその退職は私が原因ではなく(もしかしたらそうかもしれないけど)、「前々から辞めたかったので」「ほかの出版社に転職」といった理由からだ。

こんなことが続くと、「私の担当になる編集さんは退職してしまう」というジンクスになってしまう。はじめて担当になった編集さんでも、雑談の合間に「実は僕、会社辞めたいって思ってるんですよね」なんて言われてしまうことが多い。「○○社での最後の仕事を、三浦さんとご一緒できて楽しかったです!」といった言葉を何度聞いたことか。

しかし、昨年(2017年)はちょっと違っていた。11月の段階で、まだ誰も退職していなかったのだ。これはいよいよジンクスが途切れるか……と期待していたら、最後にデカい爆弾を落とされることになった。

「私、今年いっぱいで辞めることにしたんで」

土壇場になって、超有能ベテランスーパーエリート編集者のAさんから、退職することを伝えられたのだ。これは普通の編集さんが5人同時に辞めるほどの衝撃だった。

Aさんは誰でも知っているようなベストセラーをいくつも手掛け、多くの編集者やライターを育てた人だ。私にとっても、ライター人生における「育ての親」と言っても過言ではない。Aさんは私の原稿にバッサリと赤字を入れてくれるので、私はそれを指針にして仕事のスキルを上げてきた。そのうえ、「あなたの好きなようにしていいよ」といつも私を信頼してくれる、グレートマザー的編集者だ。

そんなAさんとの出会いは、運命的とまではいかなくても、ちょっと普通ではない感じだった。私がまだ駆け出しのライターだったときに、ある出版社に営業に行った。そこでは、Aさんとは別の編集者さんに対応してもらっていたのだが、その場に偶然Aさんが通りかかったのだ。

「ねぇ、本を1冊、丸ごと書いてみない?」

通りすがりで、しかも名刺交換をしたばかりの得体の知れないライターである私に、Aさんはこう言ったのだ。私はもちろん「はい。やらせてください!」と答えた。そのときの私といえば、一つの仕事においては、せいぜい1冊の3分の1程度しか書いたことがなかったのに、だ。

はじめての大量のライティングに緊張しながらも、私は必死になって書きまくった。そして、締め切りよりも2週間早く入稿することができた。それが気に入られたのか、Aさんからは現在に至るまで、たくさんの仕事をいただいている。

「見ず知らずの私に、よく仕事を任せる気になりましたね」

先日、久々にAさんに会い、出会ったときのことをしみじみと話してみた。Aさんは、「なんとなく、三浦さんだったら大丈夫だと思っただけだよ」と笑った。「『なんとなく』で、仕事を任せちゃダメですよ!」と私が言うと、Aさんは「まぁ、そうなんだけどさ。それが私の仕事だから」とまた笑った。

「この人だ! って思ったら、自分の勘を信じてヤマを張る必要もあるんだよ、編集って仕事は」

Aさんがベストセラーを生み出しているのは、時代の半歩前ぐらいを予測して、それに合わせた書籍を作っているからだ。そんな書籍作りも、ライターの育成も、Aさんにとっては同じことなんだろう。

「つまりね、自分を信じて、人を信じることが、編集の仕事ってこと!」

退職と同時に禁煙に挑んだものの、3日で挫折したというAさんが、気持ちよさそうにタバコの煙を吐き出しながら言った。はい、心に刻みます。

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三浦 由子

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