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大丈夫だよと伝えたくて【二十歳の自分に勧める本】

『書くンジャーズ』、土曜日担当の吉村伊織(よしむらいおり)です。
今週のテーマは、【  二十歳の自分に勧める本 】


ということで、今の僕が二十歳の自分にどんな本を勧めるか、その本を通じてどんなことを伝えたいか、考えてみました。

僕が二十歳になったのは1999年。今から20年前です。

20年前の僕を思い出すと、切なくなります。

その当時お付き合いをしていた女性(今の妻です)が心を崩してしまい、身も心もボロボロになっていました。「心療内科」という診療科目があることを知ったのはその時です。
僕自身は、大切な人が悩み苦しんでいる様子を見ながら何をどうすればいいのか分からず、一緒に過ごせる時間は、ただただ一緒にいるだけ。心に関する知識はなく、無力感の真っただ中にいました。

彼女は当然辛かったはずです。
でも、日に日に痩せこけて疲れ果てていく彼女のそばにいて、何もできずに呆然と立ち尽くすことにも、彼女とはまた別の苦しみがありました。
「明日もこの人は生きていられるのかな?」「また会えるのかな?」ということばが、よく頭をよぎっていました。


そんな二十歳の自分に、今の僕から伝えたいのは、
『大丈夫だよ』ということ。
希望を捨てないでほしいし、ただ一緒にいることには意味があるということ。

それを伝えるために、この本を選びます。

『人の心はどこまでわかるか』

noteでも以前紹介した本です。
 >>人の心はどこまで分かるか【カウンセリングスキル】

この本は、日本のカウンセリングの草分け的な存在の河合隼雄先生の著著で、医療機関や大学、学校など様々な現場で日々「心」の問題に向き合われている17人の心理療法家からの質問に河合先生が答える、というスタイルで書かれています。

書かれている事例やその解説を読みながら、こんなことを感じ取ることができます。

・僕たちが生きていく中で、悩みがあるのはおかしなことではない
・医療行為と心理療法は別物
・世の中には心の専門家が存在している
 (困っている人を全力で助けてくれる)
・「そこに一緒にいる」ことには、とても大きな意味がある

心の専門家が助けになってくれることや、、「そこに一緒にいる」ことに意味があるというのは、何もできないと苦しんでいた二十歳の僕の心の支えになってくれるはずです。

すこし引用します。

私たちがやっている心理療法の根本は、「そこにいる」ということで、それ以外のなにものでもないと言っていいくらいです。
 ・・(中略)・・
ただ、言葉でわかっていても、あるいは、体は一緒にいても、心が逃げてしまっている場合が多く、このごろは、体も心もそこにいると言う事ばかりを訓練しているのではないかという気が自分でもします。
 ・・(中略)・・
クライエントの側からしたら、ほんとうにつらいとき、悲しいときには、よけいな慰めなど言ってもらう必要はなく、一緒にいてもらうだけでいい。

■2000年 講談社+α新書
 河合隼雄 著 『人の心はどこまでわかるか』p.57・58 より引用

二十歳当時の僕が、この本で語られているレベルで実践できていたかは分かりません。でも、ずっとあとになって、「何も言わずに、ただ一緒にいてくれたことが心強かった」と妻が語ってくれたことがあり、悩みながら過ごした時間にも意味を見出せるようになりました。

実は、それしかできなかったことが良かったんでしょう。
余計なことを考えられないくらい集中するしかなかったからこそ、できたんだと思います。


そう考えると、
「もしもタイムスリップして二十歳の自分に戻り、この本を読んで何かを感じて人生をやり直すことができるとしたらどうする?」
と、神様に問われても、・・・・断りますね。

心の世界に興味を持つことはあるかもしれないけど、今よりもずいぶん浅いレベルで『分かったつもり』になりそうな気がします。
スキルや知識だけで何とかしようとして、逆に相手を傷つけてしまいそうです。

いや、それよりも、よく理解できなくて、最後まで読めないかもしれません。
僕がこの本を最初に読んだときは、頑張ってとりあえず読み終えてはみたものの『ちょっときつかった』くらいの感想で、それからしばらく本棚に眠らせたまま過ごしていました。
それから時が経って、3回、4回と読み直すうちに、おもしろさと奥深さに引き込まれるようになった感じです。

学ぶことと実体験が、うまく重なる必要があったんだと思います。

山あり谷ありで生きてきたからこそ、今がある。だから、やり直したくはありません。


二十歳の自分にこの本を勧める時には、
「この本を心の支えにしてほしいけど、彼女と会う時には全部忘れてその時間を大切に過ごすように。大丈夫だから。20年後は、びっくりするくらい幸せに生きているから。」
と言い添えないといけませんね。

なんてことを書きながら、20年後の60歳になった自分が今の僕を見たらと想像すると、
「その未熟さで、よくもまあ偉そうなことを言えたもんだ」
なんて言ってそうな気がします。

そう言いたくなるくらい、学び続ける必要があることも教えてくれるのが、この本です。

それではまた、お話ししましょう。


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