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男の一生【読書のきろく】

戦国時代を題材にした小説は、これまでいろいろと読んできました。
最初のころは、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康など、超がつくほど有名な武将が主人公の作品を。次第に興味が広がって、ほかの大名や武将、職人が描かれたものにも手を出すようになりました。

いつもすごいと思うのは、一人ひとりの心の動きに交わす言葉、それに城や町、山や街道まで、ありありと描写されていること。資料を読み込んで確認できる出来事は、そんなに事細かに書かれているわけではないと思います。その周りにある人物と風景を作者なりに描きながら、作品が作り上げられているんでしょう。
時空を超えて400年以上も昔の生活の中に導いてもらい、激しい時代の移り変わりを味わう。
作者の力、物語の力に、感動します。

この物語の主人公は、秀吉がまだ活躍し始める前に出会って行動を共にした人物のひとり、前野将右衛門長康。愚直で、残酷なことが苦手で、妻や子を愛し、それでいながら魅力的な女性に心惹かれる、戦国時代物ではどちらかと言うと気の弱い性格です。心の中で祈りながら、ひとつずつ自分のできることをやり続ける姿に、親近感を感じました。
その将右衛門の「一生」でありながら、彼の目から見た秀吉の一生を追う。そんな作品です。
将右衛門が変わらずにいてくれたから、秀吉の若かりし頃から晩年に向けての変化が浮き彫りになり、残念で残酷で口惜しい気持ちを味わえます。

戦国時代の物語に出会ったばかりの子どもの頃の僕にとって、秀吉は英雄でした。関わる人たちと明るく接し、心を掴んで、お互いに協力しながら物事を成し遂げていく。素直な性格の将右衛門も同郷の兄貴分である蜂須賀正勝も、だから秀吉の下で働くことを決めます。権力を手にした後の秀吉の変わり様を知ってしまった身としては、どうかそのままでいてほしいと祈りながら将右衛門の生活に寄り添って読み進めます。
でも、少しずつ何かが変わっていく。後になって振り返ったときには「あのときに何かできたのではないか」と後悔してしまいそうな小さな違和感があるけれど、そのときには結局何もできずに大きなうねりに飲み込まれてしまう。
将右衛門を応援しながら、そのもどかしさや虚しさを味わえる物語でした。

戦いの場面は、すべての戦について克明に描かれはいません。戦に至るまでの駆け引きや、その心情が丁寧に描かれている作りになっています。だからなのか、テンポよく読めたように感じます。

戦国時代は、歴史の授業で大きな流れを知っていても、誰の目から見るかによってそれぞれの人物や出来事に対する感じ方が変わります。
信長の部下である秀吉の下で働く人物。超有名人だけに光を当てたら陰にいるから教科書には載らないかもしれない。だけど、重要な働きをしていて、実は歴史を動かしていたのはそんな人たちだったんだ。
そんな発見も楽しめます。

他の本を借りに行った図書館で、たまたま借りた作品。
おもしろかったです。

表紙を並べて浮かび上がる絵は、川辺で遊ぶ子どもたちとその様子を見つめる男。物語を読み終えてじっくり見ると、じーんときます。

読書のきろく 2022年
『男の一生』上・下
#遠藤周作
#日経文芸文庫

#読書のきろく2022

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